59 / 129
第9話 婚約者ってなんですか?
3.元婚約者
しおりを挟む
その日、朋香がおやつのチーズケーキを堪能していると、珍しく野々村の慌てた声が聞こえてきた。
「尚一郎様はお留守ですので!」
「別にいいじゃない、他人じゃないんだし。
……誰?」
リビングに現れた女性に、間抜けにも口に突っ込んだフォークをくわえたまま、ぱちくりと瞬きしてしまう。
「……お客様?」
一瞬、見つめ合ったふたりだが、女性の方が我に返るのは早かった。
つかつかと朋香の傍にやってくると、ソファーの背に手を突いて、上から高圧的に見下ろしてくる。
「ねえ、野々村。
この女、誰?
尚一郎の浮気相手?」
さらさらと長い黒髪が落ちてくる。
真っ赤なマニキュアにさらには自信を示すかのような真っ赤な口紅。
自分とは正反対なその女性は誰だか知らないが、無性に不快だった。
「あなたこそ誰ですか?
私は尚一郎さんの、つ、つ、つ、」
「つ?」
朋香の顎に手をかけて上を向かせると、挑発するようにニヤリと笑った女性に、朋香のなにかがぷつんと音を立てて切れた。
「私は尚一郎さんの妻ですが!」
「やっぱり尚一郎の浮気相手なんじゃない」
「は?」
急に興味を失ったかのように女性は朋香から離れると、野々村に持ってこさせたコーヒーを口に運んだ。
「だって、私は尚一郎の婚約者だもの」
「はぁっ!?」
真っ赤な唇を吊り上げ、勝ち誇ったように笑う女性に、朋香は勢いよくソファーから立ち上がっていた。
婚約者だという女性とリビングで膠着状態のまま、尚一郎の帰りを待つ。
そりゃ、大企業グループオシベの御曹司なのだから、婚約者のひとりやふたりいてもおかしくないだろう。
けれど、尚一郎は自分と結婚したのだ。
なのに、婚約者だとかいって押し掛けてこられて、気分がいいわけもない。
そのうち、ロッテがワンワンと楽しそうに吠えだして、尚一郎の帰りを知らせた。
詰め寄るように玄関に急いだ朋香だったが、女性の方が一足早かった。
「会いたかったわ、尚一郎!」
女性から首に抱きつかれ、濃厚な口付けを受けている尚一郎を、朋香がジト目で睨んだことに罪はないはずだ。
「ゆ、侑岐(ゆき)!?
いつ、日本に?
じゃなくて離れてくれないかい!」
女性を慌てて引き剥がしていた尚一郎だが、朋香の視線に気付いたのか、びくんと背中を震わせた。
「朋香、違うから」
「へー、なにがどう、違うんですか?」
冷ややかな朋香の声に、尚一郎はびくびくしている。
まとわりつく女性を困惑して引き剥がしながら。
「彼女は重広(しげひろ)侑岐っていって、CEOが決めた婚約者で。
……元。
元、婚約者だよ!」
「エー、私は婚約解消した覚えはないんだけどー」
「侑岐、離れてって!」
なれなれしい女性――侑岐に、迷惑そうな顔をしながらもきっぱりと拒絶しない尚一郎に、怒りがふつふつと沸き上がってくる。
「その方と結婚した方がよかったんじゃないですか」
「だから朋香、誤解だって」
誤解もなにも、朋香の目からは尚一郎が、侑岐にべたべたされてデレているようにしか見えない。
「尚一郎、式はどーするー?
達之助おじいさまが早く結婚しろってー」
「侑岐さんとお幸せに!」
「待って、朋香!」
とうとう怒りが爆発し、後先考えずに屋敷を飛び出した。
「尚一郎様はお留守ですので!」
「別にいいじゃない、他人じゃないんだし。
……誰?」
リビングに現れた女性に、間抜けにも口に突っ込んだフォークをくわえたまま、ぱちくりと瞬きしてしまう。
「……お客様?」
一瞬、見つめ合ったふたりだが、女性の方が我に返るのは早かった。
つかつかと朋香の傍にやってくると、ソファーの背に手を突いて、上から高圧的に見下ろしてくる。
「ねえ、野々村。
この女、誰?
尚一郎の浮気相手?」
さらさらと長い黒髪が落ちてくる。
真っ赤なマニキュアにさらには自信を示すかのような真っ赤な口紅。
自分とは正反対なその女性は誰だか知らないが、無性に不快だった。
「あなたこそ誰ですか?
私は尚一郎さんの、つ、つ、つ、」
「つ?」
朋香の顎に手をかけて上を向かせると、挑発するようにニヤリと笑った女性に、朋香のなにかがぷつんと音を立てて切れた。
「私は尚一郎さんの妻ですが!」
「やっぱり尚一郎の浮気相手なんじゃない」
「は?」
急に興味を失ったかのように女性は朋香から離れると、野々村に持ってこさせたコーヒーを口に運んだ。
「だって、私は尚一郎の婚約者だもの」
「はぁっ!?」
真っ赤な唇を吊り上げ、勝ち誇ったように笑う女性に、朋香は勢いよくソファーから立ち上がっていた。
婚約者だという女性とリビングで膠着状態のまま、尚一郎の帰りを待つ。
そりゃ、大企業グループオシベの御曹司なのだから、婚約者のひとりやふたりいてもおかしくないだろう。
けれど、尚一郎は自分と結婚したのだ。
なのに、婚約者だとかいって押し掛けてこられて、気分がいいわけもない。
そのうち、ロッテがワンワンと楽しそうに吠えだして、尚一郎の帰りを知らせた。
詰め寄るように玄関に急いだ朋香だったが、女性の方が一足早かった。
「会いたかったわ、尚一郎!」
女性から首に抱きつかれ、濃厚な口付けを受けている尚一郎を、朋香がジト目で睨んだことに罪はないはずだ。
「ゆ、侑岐(ゆき)!?
いつ、日本に?
じゃなくて離れてくれないかい!」
女性を慌てて引き剥がしていた尚一郎だが、朋香の視線に気付いたのか、びくんと背中を震わせた。
「朋香、違うから」
「へー、なにがどう、違うんですか?」
冷ややかな朋香の声に、尚一郎はびくびくしている。
まとわりつく女性を困惑して引き剥がしながら。
「彼女は重広(しげひろ)侑岐っていって、CEOが決めた婚約者で。
……元。
元、婚約者だよ!」
「エー、私は婚約解消した覚えはないんだけどー」
「侑岐、離れてって!」
なれなれしい女性――侑岐に、迷惑そうな顔をしながらもきっぱりと拒絶しない尚一郎に、怒りがふつふつと沸き上がってくる。
「その方と結婚した方がよかったんじゃないですか」
「だから朋香、誤解だって」
誤解もなにも、朋香の目からは尚一郎が、侑岐にべたべたされてデレているようにしか見えない。
「尚一郎、式はどーするー?
達之助おじいさまが早く結婚しろってー」
「侑岐さんとお幸せに!」
「待って、朋香!」
とうとう怒りが爆発し、後先考えずに屋敷を飛び出した。
11
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる