契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第9話 婚約者ってなんですか?

2.聞けない、意味

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屋敷に戻ると大村が簡単な昼食を用意してくれていた。
本邸で食事が出るには出たが、あんな状況でまともに食べられるはずがない。
 
「とーもか。
膝枕してくれないかい?」

リビングでやっとくつろいでいたら、珍しく尚一郎が甘えてきた。
いつもなら拒否するところだが。

「……今日だけですよ」

熱くなった顔でソファーに座ると、にっこりと笑った尚一郎が膝にあたまを載せてきた。
達之助との遣り取りで疲れているはずだから、今日くらいは甘やかせてあげてもいいと思う。

にこにこと嬉しそうに笑っている尚一郎の髪にそっとふれると、思いの外、柔らかかった。
まるで、ロッテを撫でてるようだ。
なんだか気持ちよくて撫で続けていたら、尚一郎が目を閉じた。

「Tomoka abusolut,werde ich schutzen……」

「尚一郎さん……?」

気がつくと、尚一郎はすーすーと気持ちよさそうに寝息を立て眠っている。

初めて見る、尚一郎の寝顔。

一緒に寝るようになってからも、朋香の方が早く眠りに落ち、目が覚めたときはすでに尚一郎は起きていたから、寝顔など見たことない。
自分の膝で無防備に眠っている尚一郎が一瞬、愛おしいと感じた。

「……好きですよ、尚一郎さん」

「ん……」

そっと、その薄い唇に口付けをして離れると、尚一郎が身動ぎをして慌ててしまう。

どきどきと早い心臓の鼓動。
顔からは火が出そうなほど、熱い。

……起きてない、よね。

おそるおそる窺うと、尚一郎はまだ気持ちよさそうに寝息を立てていて、ほっとした。

柔らかい髪を撫でながら、ふと気になった。

尚一郎は眠りに落ちる前、なんと云っていたんだろう。
そういえば、前も似たようなことを云っていた気がする。

ドイツ語を勉強し始めたとはいえ、まだまだ初心者の朋香には意味がわからない。
聞けばいいんだろうが、なんとなく聞いてはいけないような気がした。

それにしても。

……足が痺れてきた。
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