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第二章 それまでは夫婦でいさせて
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翌日は母がお昼にお寿司を取るというので、それにあわせて矢崎くんの運転で実家へ行った。
そう。
彼は車を持っていて、しかもSUVタイプの高級外車だったが、それにはもう触れない。
「ただいまー」
「おかえりー」
ドアを開けるとすぐに、母が出てくる。
「こんにちは」
爽やかに白い歯を見せて矢崎くんは笑って挨拶したが、私に言わせれば胡散臭い。
しかし。
「まあ。
あら、あら……!」
母には効果があったみたいで、乙女のように頬を赤らめた。
「もう。
こんなイケメンの彼氏がいるならそりゃ、見合いも断るわよね。
早く言いなさいよ」
「えっと……ごめん」
お茶を淹れている母に、曖昧な笑みを向ける。
あの日、母との電話の時点では、矢崎くんと結婚するなんて微塵も思っていなかったのだ。
「突然お伺いして、すみません」
「いいのよー。
こんなイケメンならいつでも大歓迎だわ」
にこにこ笑いながら母がお茶を出してくれる。
しかし、機嫌がいいのはここまで。
きっと彼の正体を聞いて、機嫌が悪くなる。
もしかしたら帰れと言われるかもしれない。
それを想像して、そわそわと落ち着かなかった。
「えっと。
結婚……を考えている、矢崎さん」
さすがに結婚したとは言えず、言葉を濁す。
「矢崎紘希と申します。
純華さんとは同じ会社の同期です」
矢崎くんは頭を下げた。
「そういえばときどき、純華から聞いたことがあるわ」
期待を込めてぱーっと母の顔が輝く。
「もしかしてずっと前から付き合ってたの?」
「えっ、あっ、それは」
「付き合い始めたのはつい最近です。
でも、ずっと前から互いに意識はしていて。
それで、もういっそ結婚しようかという話になりまして」
爽やかに笑いながらすらすら嘘が出てくる矢崎くんが恐ろしい。
しかし今はそれに乗るしかないので、うんうんと頷いておいた。
「そうなの。
純華から聞いているでしょうが、うちは母子家庭なの。
夫は女を作って出ていってね。
そういうの、親御さんは気にしないかしら?」
母は笑っていたが、その目は完全に矢崎くんを試している。
「気にしないと思います。
父は弁護士で、お母様のような人を守る立場の人間ですし。
それにもし、万が一にもそれを理由に反対するようなら、僕のほうから縁を切ってやりますよ」
「あら。
お父様は弁護士なの?」
「はい、父は弁護士をしております。
ちなみに母は専業主婦ですが、子供食堂でボランティアをしております。
そんな人たちなので、純華さんが母子家庭だという理由で反対しないと思います」
「立派なご両親なのねー」
さっきから母と矢崎くんの会話が、腹の探り合いに見えるのは私だけだろうか。
まあ、母としては変な人間に娘をやるわけにはいかないだろうし、そうなるか。
そう。
彼は車を持っていて、しかもSUVタイプの高級外車だったが、それにはもう触れない。
「ただいまー」
「おかえりー」
ドアを開けるとすぐに、母が出てくる。
「こんにちは」
爽やかに白い歯を見せて矢崎くんは笑って挨拶したが、私に言わせれば胡散臭い。
しかし。
「まあ。
あら、あら……!」
母には効果があったみたいで、乙女のように頬を赤らめた。
「もう。
こんなイケメンの彼氏がいるならそりゃ、見合いも断るわよね。
早く言いなさいよ」
「えっと……ごめん」
お茶を淹れている母に、曖昧な笑みを向ける。
あの日、母との電話の時点では、矢崎くんと結婚するなんて微塵も思っていなかったのだ。
「突然お伺いして、すみません」
「いいのよー。
こんなイケメンならいつでも大歓迎だわ」
にこにこ笑いながら母がお茶を出してくれる。
しかし、機嫌がいいのはここまで。
きっと彼の正体を聞いて、機嫌が悪くなる。
もしかしたら帰れと言われるかもしれない。
それを想像して、そわそわと落ち着かなかった。
「えっと。
結婚……を考えている、矢崎さん」
さすがに結婚したとは言えず、言葉を濁す。
「矢崎紘希と申します。
純華さんとは同じ会社の同期です」
矢崎くんは頭を下げた。
「そういえばときどき、純華から聞いたことがあるわ」
期待を込めてぱーっと母の顔が輝く。
「もしかしてずっと前から付き合ってたの?」
「えっ、あっ、それは」
「付き合い始めたのはつい最近です。
でも、ずっと前から互いに意識はしていて。
それで、もういっそ結婚しようかという話になりまして」
爽やかに笑いながらすらすら嘘が出てくる矢崎くんが恐ろしい。
しかし今はそれに乗るしかないので、うんうんと頷いておいた。
「そうなの。
純華から聞いているでしょうが、うちは母子家庭なの。
夫は女を作って出ていってね。
そういうの、親御さんは気にしないかしら?」
母は笑っていたが、その目は完全に矢崎くんを試している。
「気にしないと思います。
父は弁護士で、お母様のような人を守る立場の人間ですし。
それにもし、万が一にもそれを理由に反対するようなら、僕のほうから縁を切ってやりますよ」
「あら。
お父様は弁護士なの?」
「はい、父は弁護士をしております。
ちなみに母は専業主婦ですが、子供食堂でボランティアをしております。
そんな人たちなので、純華さんが母子家庭だという理由で反対しないと思います」
「立派なご両親なのねー」
さっきから母と矢崎くんの会話が、腹の探り合いに見えるのは私だけだろうか。
まあ、母としては変な人間に娘をやるわけにはいかないだろうし、そうなるか。
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