清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
26 / 64
第五章 恋だの愛だの

5-3

しおりを挟む
行きつけのスーパーで買い物をする。

「ちゃちゃっと選んでくるんで、望とお菓子コーナー行っててください」

それだけ言ってあとは確認せずに中を進んでいく。

「ひゅうがおにぃちゃん、こっちだよ」

「おう」

ちらっと見たら望が彪夏さんの手を引っ張って連れていっていたので、大丈夫だろう。

「あ、牛乳半額になってる」

卵をちゃっかり二パックカゴに入れたあとは、おつとめ品コーナーをチェックする。
牛乳が安くなっているのは大助かりだ。
なにしろ、真と健太は牛乳が大好きなのだ。
いつもはプライベートブランドの低脂肪牛乳、一リットル百円しか買わないので、たまには普通の牛乳も飲ませてやりたい。
あとは豆腐と厚揚げ、さらに鶏モモ一パックをカゴに入れる。
もちろん全部、半額商品だ。

「あとは……」

スーパーの中を周り、お買い得商品をチェックする。
えのき三パック百円は買い、カットシメジ百円も買い。
キャベツ一玉五十円はおひとり様ひとつだけれど、彪夏さんがいるから二玉大丈夫。
これでミンチが安かったらロールキャベツができるけれど……。

「ラッキ」

いつもは鶏ミンチだが、今日は運がいいらしく合い挽きがグラム五十円になっていた。
たまにそういう日があるんだよね。

迷わず一キロカゴに追加し、望たちの待つお菓子コーナーへと向かう。

「決まっ……」

「あっ、さやねぇちゃん!」

そこにいるふたりを見て固まった。
一個か二個くらいだと思っていたのに、カゴに溢れんばかりにお菓子が入っている。

「あのね、けんたにぃちゃんとたくみにぃちゃんと、まことにぃちゃんのぶんもかってくれるって!」

嬉しくて堪らないのか、望は満面の笑みでにこにこしている。
こんな顔見せられたら、ダメって言えなくなっちゃう。

「彪夏さん」

「なんだ?」

私に呼ばれ、望にあわせてしゃがんでいた彪夏さんは立ち上がった。

「……買いすぎですよ、買いすぎ。
一個か二個くらいでいいんですよ」

うっとりとお菓子の詰まったカゴを見ている望の上で、聞こえないようにこそこそと話す。

「そうか?
お菓子くらい、好きなだけ買ってやりたいだろ?
それに望は一個でいいって遠慮したんだ。
カゴに入れたのは俺。
だから望は悪くない」

そこまで言われたらもうなにも反論できなくなる。

「今回だけですよ、今回だけ。
欲しいって言ったら際限なく買ってもらえると覚えると、教育に悪いです」

「それもそうだな」

彪夏さんは納得してくれたみたいで、安心した。

会計を済ませて店を出る。
支払いは文句も言わず彪夏さんがしてくれた。

「そんな値引き商品ばかりじゃなく、もっと買えばよかったのに」

牛乳や肉の入った重いほうの荷物を彪夏さんが持ってくれたので、私はお菓子の入った軽いほうの袋を持つ。

「いいんですよ、これで」

贅沢を覚えたらあとがつらくなる。
だからほどほどがいいのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。 「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」 「でも……」 「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」 「はい?」 「とりあえず一年契約でどう?」 穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。 ☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。

続・最後の男

深冬 芽以
恋愛
 彩と智也が付き合い始めて一年。  二人は忙しいながらも時間をやりくりしながら、遠距離恋愛を続けていた。    結婚を意識しつつも、札幌に変えるまでは現状維持と考える智也。  自分の存在が、智也の将来の枷になっているのではと不安になる彩。  順調に見える二人の関係に、少しずつ亀裂が入り始める。  智也は彩の『最後の男』になれるのか。  彩は智也の『最後の女』になれるのか。

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...