前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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番外編

ヒッポグリュプスとふわふわ豚 前編

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 豚は大きい。初めて見た時、大きさに驚いた。牛も大きいけど、豚も本当に大きい。種類もあるって教えてもらったけど。

『何をしに来た』

 庭に横たわる豚の上にダリア様が座ってる。いつもの鳥はその横で大人しく座ってた。どうやって持ってきたのかな。大きな音がして庭に出たらこの状態だったんだよね。

 ポン、と音をたててパフィが猫から元の姿に戻る。

「なぁに、邪魔しにな」

 堂々と邪魔しに来たって言った。

「ダリア様、こんにちは」
「おぉ、我が弟子よ、息災でなによりだ」
「弟子じゃないと言ってるだろうが」

 パフィの抗議もダリア様はどこ吹く風で、いつものように聞いてない。僕もそこは諦めてる。

「この豚はどうしたんですか?」

 ダリア様が座ってる豚は、僕が見たことのある豚よりも大きい。牙も大きいし鋭いし。豚だよね?

「我の庵に突撃してきてなぁ。餌としてくれてやってもよかったのだが、ちょうどそなたに授けようと思っていた卵が手に入ったのでな。土産とすることにした」

 僕にくれる卵。この前はドラゴンの卵を持ってきてくれたんだけど、さすがに無理だから持って帰ってもらったんだよね。

「ドラゴンは孵化しましたか?」
「いや、まだだ。孵化にはあと三十年ぐらいかかるかもしれんな」

 三十年かぁ。当分見れなさそう。

「それ、これだ」

 そう言って差し出されたのは、僕の頭ぐらいの大きさの卵だった。
 パフィを見ると頷いたので、近づいて受け取る。

「ヒッポグリュプスの卵ぞ、珍しかろう」
「ヒッポグリュプス?」
「ヒッポグリュプス!!」

 突然叫び声がして、振り返るより先にレンレン様が走って来て僕の手から卵を取った。
 ダリア様が指先をぐるりと回すと、レンレン様が固まった。卵はふわりと浮かんで僕の手に戻ってきてくれて安心した。

「曲者か?」
「奇人だ」

 間違ってないところが、レンレン様の困ったところなんだよね。

「悪い人ではないです。魔法薬学への思いがちょっと凄いだけで」
「左様か。だがなぁ、魔女の物を盗むのは大罪ぞ?」

 誰の物を盗むのも駄目だけど、魔女の物だとその後が怖そうだなって思っていたら、レンレン様の両手がしばられて、次に足が縛られた。

「ヒッポグリュプスのたま」

 レンレン様が話そうとした瞬間、口が封印される。
 魔女二人にここまでされてるけど、たぶんレンレン様は懲りない気がする。あとで魔法薬学の人を呼んでこなくっちゃ。

「妙な妨害が入ったが、気にするな」
「えっと、はい」

 レンレン様は跳ねるようにして庭から逃げて行った。凄いなぁ。

「彼奴はなんぞや」
「奇人だと言っただろう。暇つぶしに遊ぶのにちょうどいい」 
「左様か」

 たまに追いかけてるもんね、レンレン様のこと。

「まぁ良い。それはヒッポグリュプスの卵だ」
「ヒッポグリュプスって、なんですか?」
「グリフォンは知りおるか?」
「本で読んで、絵は見たことがあります」

 ダグ先生に見せてもらった。
 身体の上半分が鷲で、身体の下半分がライオン?だった。

「グリフォンの下半身は獅子だが、ヒッポグリュプスの場合は馬でな。馬の方がそなたも乗りやすかろう。無論空も飛べる」
「諦めていなかったのか……」

 パフィが嫌そうな顔をしてる。ダリア様はにやりと笑った。

「そなたは来ずともよいぞ?」
「馬鹿は休み休み言え」

 僕は腕の中の卵を撫でてみる。ちょっと表面がざらっとしてる。

「ヒッポグリュプスの餌は肉だ。あと五日程で孵化するであろう」

 五日!!

「よく言う、孵化して一番に見た者を母と思い込むというものだが、既にそなたの魔力の一部を吸わせておるからな、他の者に間違えて懐いたりはせぬだろう」

 レンレン様のことを思い出して、それなら大丈夫そうで安心した。
 ……いつの間に僕の魔力を?

「ありがとうございます、ダリア様」
「なに、愛弟子への褒美だ」
「誰が愛弟子だ」
「ところで愛弟子よ、この豚でなんぞ作ってくれぬか」

 立派な豚だけど、血抜きだとか色々しないといけないし、肉も固かったりするんじゃないかな。

「下処理をしないといけないので、すぐには食べられないと思います」
「ふむ。では七日後にまた来るとしよう。ヒッポグリュプスも孵化しているであろうしなぁ」

 立ち上がったダリア様は鳥に乗ると、ではな、と言って消えてしまった。

「突然で驚いたね」
「魔女だからな」

 皆、突然来て、あっという間にいなくなるもんね。

「こんな大きな豚をもらってしまってよかったのかな」
「ヒッポグリュプスがほとんど食ってしまうだろうよ」
「生まれたばかりでそんなに食べるの?」

 腕の中の卵を見る。

「当然だろう」

 僕の給料でお腹いっぱい食べさせてあげられるかなぁ?



 ナインさんが大きな卵を抱えてやって来た。満面の笑顔。

「ダリア様からもらったんですか?」
「そう、ヒッポグリュプス。ティール狙ってくる、手から離せない」

 ティール様もレンレンさんと同じように卵が欲しいのか。

「奪ったら、手、切り落とす、言った」

 ……ナインさんだと本当にやりそう。

「あと五日ほどで孵化するみたいですね」
「うん、楽しみ」

 僕も楽しみ。
 大きくなるまでは僕と同じ部屋で過ごさせればいいってパフィが言ってた。ドラゴンの時は反対してたけど、ヒッポグリュプスはパフィ反対しなかったな。

 レンレン様はあれから何度も僕からヒッポグリュプスの卵を取ろうとして、そのたびにパフィにお仕置きされていた。
 そこまでして欲しいものなのかと驚いた。

「レンレン様も狙ってるみたい」
「魔法薬学、高度なもの、魔力あるもの媒介にする必要、ある。ヒッポグリュプス中位の魔物。魔力沢山ある」
「へーっ、ナインさん物知りですね。高位の魔物ってどんなのがいるんだろう?」
「ドラゴン、ベヒモス、フェニックス、一角獣、いっぱいいる」

 ドラゴン、高位なんだ。ダリア様……。
 卵を見る。もらった時も温かかったけど、今はもっと温かくなった。パフィが孵化が近いからだって教えてくれた。

「ナインさん、ダリア様のことは、もう平気ですか?」
「平気。クロウリー、埋葬してくれたの、ダリア様」
「そうなんですか?」

 ナインさんは頷く。

「あの宴の後、クロウリーの墓、連れてってくれた」

 パフィはキルヒシュタフ様のお墓を必要ないって言ってた。多分、魔女はお墓を作らないんだろうな。でもダリア様は作ってくれたんだ。

「クロウリーの記憶ある。ごはんもお金も力も、クロウリー持ってた。でも幸せじゃなかった。今のナインの方が、幸せいっぱいある」

 今が幸せってナインさんが言ってくれて、嬉しかった。北の国でずっと奴隷として生きてきて、僕が考えられないようなつらい思いも沢山したと思うから。

「魔術師の人達は元気ですか?」

 奴隷ではなくなって、この国で魔術師として雇われることになった人達もいれば、スキルを封じてもらって別の生き方を選んだ人もいるって聞いた。
 食堂に食べに来てくれる人達が増えて、大変になったけど、奴隷なんてないほうが絶対いい。

「慣れる時間かかる。でも、大丈夫。眠る場所、食べるもの、服、ある。働いたらお金もらえる。皆幸せ、言ってる」
「良かった、本当に」
「もう、ムチ叩かれない」

 ぽつりとこぼしたナインさんの言葉に、涙が出た。

「アシュリー?!」

 ナインさんが驚いた顔で僕を見る。

「良かった、皆が助かって」

 ナインさんの目からも涙がこぼれた。

「うん」

 もう、大丈夫。
 きっとこの国でなら。
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