85 / 139
第二章
第八十五話 とあるギルドマスターの選択
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇
クロヤ達3人が初めて〈堕天の回廊〉に挑む数日前。
〈堕天の回廊〉がある同市内の某所にあるサイサリスギルドのギルドオフィスの一室に6つの人影があった。
「……やらかしてくれたな、この馬鹿どもが」
そう告げたのは、サイサリスギルドのギルドマスターである加賀田ミノル。
彼の目の前に立っていたのはダンジョン〈三獣領域〉にて、当時サイサリスギルドに仮入団していた鞠川マリヤとパーティーを組んでいた男達だった。
加賀田に睨み付けられた5人の顔には青痣があり、中には口の端から血を流した跡がある者もいた。
直前まで加賀田から折檻を受けていた5人だが、身体をふらつかせることなく直立不動の体勢を維持していた。
そんな団員の姿に1度舌打ちすると、加賀田は座っている椅子の背に体重を預ける。
「ソロで行動している綺麗どころな上に大型ギルドもまだ気付いていない上級覚醒者だったってのによ。先走って盛りやがって」
「で、ですがギルドマスター! 本当に俺達はそんなつもりはなかったんですッ!」
「そうです! 気付いたら夢中になって追いかけていて、ひぃッ!?」
加賀田が悪鬼の如き形相を浮かべていることに気付き、思わず言い訳の言葉を並べていた2人が慌てて口を閉ざす。
「……チッ。正式に入団した後に、薬か金で簡単に抜け出せなくする予定だったってのによォ」
マリヤの各種耐性の高さを考えるとヤク漬けにするのは困難だったため、おそらく借金を負わせることになっていただろう。
だが、これまでにも加賀田は同じ様な手を使って有望な探索者を手中に収めてきたため、マリヤのことも難癖を付けて借金漬けにできる自信があった。
そうやって実質的に奴隷にした探索者達を献上することで、加賀田とサイサリスギルドは力を拡大させてきたのだ。
騒ぎを大きくして探索者協会がギルドの内部調査をする名分を与えるわけにもいかなかったため、仮入団状態だったマリヤの退団を2つ返事で認めていた。
納品予定だった商品の損失に内心頭を抱えながら男達を暫く叱りつけた加賀田は、彼らを退室させた後に深い溜息をついた。
「はぁ……先方になんて説明したものか」
「ほう。確かに、どのような説明をしてくれるのか楽しみだな」
「ッ!?」
自分しかいないはずの室内から聞こえてきた声に加賀田は肩を跳ね上げると、視界の端にいつのまにか立っていた者の正体に気付いた。
椅子から転げ落ちるようにして降りながら即座に平伏する。
「こ、これは、よくぞお越しくださいましたッ」
勝手に自分のギルドの敷地内に不法侵入してきたのを咎めることなく下手に出る。
第3者から見ても一目で分かるほどに両者の力関係は明らかだった。
不法侵入者は目の部分のみが空いている以外に何の特徴も無い仮面を被っている。
だが、身体付きと声から不法侵入者が男であることが分かる。
その仮面の男は、足元で平伏している加賀田に冷めた目を向けた後、それを無視して室内にあるソファに腰を下ろした。
「お前も座れ。そして何があったかを説明しろ。言い訳はせず、事実のみを言え」
「か、かしこまりました」
それから加賀田は仮面の男に鞠川マリヤが退団に至った経緯を説明していった。
「……なるほど。上級覚醒者が確保できなかったのは惜しいが、協会にこの事業がバレた時の方が損失は大きいな……」
「……」
仮面の男は虚空を見つめたまま暫く思考に耽ると、その顔を加賀田へと向け直した。
仮面越しに向けられる視線に背筋を伸ばす加賀田へと、仮面の男は再び口を開く。
「鞠川マリヤに助力したのは、外神クロヤと白宮リリアだったな?」
「はい。少し前に2人だけで不人気ダンジョンを攻略した者達です」
「ああ。つまり、鞠川マリヤだけでなくその2人も有望株というわけだな」
仮面の男の言葉に嫌な予感を覚えた加賀田は、予想が外れていることを祈りつつ確認を取った。
「あ、んン。ジョ、ジョンドゥ様は、あの2人の確保をお考えなのでしょうか?」
動揺のあまり目の前の男の本名を口に出しそうになった加賀田は、慌てて男が正体を隠している時の偽名にて問い掛けた。
「ハハハッ。まさかそんなリスクのあることをするわけがないだろう。だが、後々のことを考えて顔繋ぎぐらいはしておこうとは思っている。面と向かってではないが、スカウトも断られたからな」
「は、はぁ」
「でもまぁ、彼らにもケジメは必要だよな」
「……と、申しますと?」
「彼らが挑んでいるダンジョンで異常暴走を起こそうと考えている」
「なっ!?」
〈異常暴走〉とは、ダンジョンにて稀に発生する大量のモンスターによる異常な大移動のことを言う。
基本的には、ダンジョン内のモンスターが飽和状態に陥ることにより起こる現象だが、加賀田からジョンドゥと呼ばれた仮面の男には、意図的に異常暴走を発生する手段があった。
「異常暴走で潰れるなら良し。仮に潰れずとも、それならそれで構わない。生き残ってもやりようはあるからな。実行の際にはお前のところから人手を借りるぞ。いいな?」
「か、かしこまりました」
万が一にも異常暴走が人為的に起こされたモノだとバレたとしても、罰せられるのはサイサリスギルドになるだろう。
それが理解できていても、加賀田に断わるという選択肢はない。
ジョンドゥからの実質的な命令に加賀田は頷くことしか出来なかった。
20
あなたにおすすめの小説
日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。
wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。
それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。
新世機生のアポストル 〜Restart with Lost Relic〜
黒城白爵
ファンタジー
異界から突如出現したモンスターによって、古き世界は終わりを告げた。
新たな世界の到来から長い年月が経ち、人類は世界各地に人類生存圏〈コロニー〉を築いて生き残っていた。
旧人類、新人類、コロニー企業、モンスター、魔力、旧文明遺跡、異文明遺跡……etc。
そんな様々な物が溢れ、廃れていく世界で生きていた若きベテランハンターのベリエルは、とある依頼で負った怪我の治療費によって一文無しになってしまう。
命あっての物種、だが金が無ければ何も始まらない。
泣く泣く知り合いから金を借りてマイナススタートを切ることになったベリエルは、依頼で危険なコロニーの外へと向かい、とある遺物を発見する……。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~
仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。
祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。
試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。
拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。
さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが……
暫くするとこの世界には異変が起きていた。
謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。
謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。
そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。
その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。
その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。
様々な登場人物が織りなす群像劇です。
主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。
その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。
ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。
タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。
その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる