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第二章
第八十四話 盾役の事情
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「──こっちですよッ!!」
持っている剣で盾を打ち鳴らしながらのマリヤの大声に、浮島にいた獣系有翼モンスターの殆どが反応した。
【挑発】スキルによって強化された挑発行動は効果を発揮し、多数の有翼モンスター達がマリヤへと殺到してくる。
「もう支援魔法を使ってもいいでしょうか?」
「【挑発】スキルを使い続けているし大丈夫だろう。遠距離攻撃持ちもいるから早めに使った方が良さそうだ」
「では……『物理強化』『感覚強化』『風精霊の祝福』『自由な身体』『不屈の精神』『硬度な肉体』『奇跡的な護り』」
リリアが前衛に立つマリヤに次々と魔法を掛けていく。
魔法使い系上級クラスの中でも高位である〈魔女〉なだけあって、一般的な魔法使い系覚醒者では使用できない魔法まで使っている。
マリヤが管理している敵意を考慮してたったの7つだけだが、半分以上が強力な魔法だ。
マリヤが相対する獣系有翼モンスターの数は約30体。
その多くは190を超える長身のマリヤよりも小柄ではあるが、30ものモンスター達が一斉に向けてくる殺意は、それだけでも脅威だ。
探索者の戦闘の際の役割の中でも、盾役は不人気な部類に入る。
パーティーと自らの身の安全を高める都合上、防御力を上げるために盾役の殆どは重厚な鎧に身を包むことが多い。
重厚ということはそれだけ重量があり、その分だけ金が掛かっている。
重さと費用の面でも大変なのに、パーティーの盾という役割から装備自体の損耗も自然と激しくならざるを得ない。
腕の良い盾役なら高い技量を以て損耗を抑えられる──相手次第ではある──が、最初からそこまでの腕前を持つ盾役などいないため、必然的に上達するまでに幾度もの損耗と負傷を重ねることになるだろう。
そういった諸々のリスクを抱えた上で、人外たるモンスターからの猛攻を最も多く受ける役割を自ら進んで担いたがる者は滅多にいない。
金銭的にも身体的にも負担が大きく、最前線で最もモンスターの恐怖を味わうことになるポジションというのもあって、どこのパーティー、どこのギルドでも、専任の盾役は不足がちだった。
「……盾役の希少性を考えると運が良かったな」
前方では、殺到してきた獣系有翼モンスター達を盾を持った腕の一振りで吹き飛ばしているマリヤの姿があった。
盾による攻撃に続けて振るわれた剣の一撃が、マリヤと同じくらいのサイズのモンスターを両断する。
純戦士系上級クラスなだけあって、マリヤは戦士系クラスの特殊技能である〈オーラ〉を習得している。
オーラはマリヤの身体を覆って守るだけでなく、剣と盾の防御力と攻撃力を高めてもいる。
ただの剣撃よりも強力な剣撃を繰り出せるオーラを纏った刃まで扱えるあたり、マリヤは盾役だけでなく攻撃役としても優秀なようだ。
マリヤが盾で吹き飛ばしたモンスター達に向かって、両手それぞれに構える魔銃の引き金を引いていく。
モンスター達の猛攻をマリヤが一手に引き受けてくれているため、俺は攻撃に専念することができる。
前衛のマリヤがモンスターを引き付け、俺達への攻撃を防ぎ、後衛のリリアがそんなマリヤを魔法でサポートする。
そして遊撃の俺が彼女達の負担を減らすべく、モンスター達に攻撃を仕掛けていく。
そんなありきたりな戦法が俺達パーティーの戦闘スタイルになるが、これが俺達には最適だった。
「あとは回復役がいれば完璧か? いや、副盾役もありだな」
マリヤの挑発に乗ってきた全ての獣系有翼モンスターを片付けると、更に増員する場合に必要な人員について考える。
魔法使いであるリリアが強力な回復魔法が使えればいいのだが、そういった回復魔法が存在する【聖光魔法】スキルを所持していない。
なので、現状では【聖光魔法】スキルを持つ俺が回復役の役割も担っている。
まぁ、遊撃は味方を助けることも役割の一つなので別におかしなことではない。
それでも俺が攻撃に集中できなくなるのは火力面でデメリットになる。
今は問題ないだろうが、回復手段については何かしら考える必要があるだろう。
「お疲れ様。どこか怪我はしたか? あるなら治すぞ」
「見ての通り怪我はありませんよ、リーダー。摩天楼ダンジョンなだけあって、雑魚モンスターでも結構衝撃がありますね」
盾を持っている方の肩を軽く回しながらマリヤの発言を受けて、彼女の全身を確認する。
まぁ、オーラで全身は守られているし、まともな一撃でも喰らわない限りは、マリヤの身体性能の前では擦り傷すら負うことはなさそうだ。
新たな防具の提案をしようかと思ったが、不都合はなさそうだから今日一日は様子を見るとしよう。
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