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第二章
第九十二話 徘徊主
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「──なんだ?」
中位の天使系モンスターを主とした異常暴走の新手と戦っていると、辺りの空気が変わったのに気付いた。
嫌な予感を覚えて、余力を気にせず目の前にいる数体の中位天使を一気に倒し切ると、周囲を見渡して何か異変が起こっていないかを探す。
開いたままの〈広域マップ〉に視線を向けると、俺達を襲撃した仮面の男を示す光点が、ちょうどゲートのある浮島へ到着するところだった。
肉眼でゲートのある浮島を見るが、位置的に視認できるはずの仮面の男の姿が見えない。
おそらく姿を透明化させているのだろう。
隠蔽や偽装系の力を持っているようだったから、透明化能力ぐらいは持っていても不思議ではない。
再び〈広域マップ〉に視線を戻すと、周りのモンスターを示す光点よりも一回り大きな光点がマップ上の端に映り込んできたのが見えた。
大きな光点が出現した場所に顔を向けたところ、そこには体長10メートルほどの巨大な有翼モンスターの姿があった。
一対の巨大な翼を持ち、上半身は人のような身体、下半身は円錐に似た形状をした結晶体の身体をしている。
人の胴体の上にある頭部に目や口、鼻といった物は無く、代わりに3つの青い宝石が光り輝いていた。
「アレは、まさかッ!?」
脳裏に閃いたモンスターの正体に鳥肌が立った次の瞬間、その有翼モンスターの頭部から巨大な光線が放たれてきた。
光線の射角から、狙いはゲートのある浮島。
だが、その射線上には俺達もいた。
「『時間停止』ッ!」
咄嗟に時間を止めると、時間耐性を持たないため周囲の物と同じように時間が止まっているマリヤに駆け寄り、その身体を抱え上げる。
そこへ少し離れたところにいたリリアがやってきた。
彼女は俺が使った【時間魔法】スキルのコピー元であるため、当然ながら止まった時間の中でも動くことができる。
「クロヤさん! アレは一体ッ!?」
「話は攻撃を躱わしてからだ!」
マリヤを抱き抱えると、動揺するリリアを連れて安全圏と思われる場所まで全力で走る。
時間停止の効果が消える寸前で飛び込むようにして物陰に姿を隠す。
その直後、時間が動き出すと同時に、少し離れた場所を巨大な光線が突き抜けていった。
「えっ? あれ? ここは……」
「攻撃を回避するために時間を止めた。アレの攻撃だ」
時間が止まっている間の意識が無いマリヤに簡潔に状況を説明する。
説明の最後に指差した先にあるゲートの浮島からは、直撃した光線の熱によって白い煙が上がっていた。
異常暴走のモンスター達は勿論のこと、そのモンスター達と戦っていた探索者達までもが、巨大有翼モンスターが放った光線を食らっていた。
〈広域マップ〉上の探索者を示す光点の数から、ゲートの浮島にいた半数近くの探索者が死んだことが分かった。
姿形が残っている者いれば、跡形も無く消滅した者もいるようだ。
ギリギリで巨大有翼モンスターの存在に気付いて攻撃を回避できた探索者もいたが、そんな彼らの多くも攻撃の余波を受けて負傷しているのが見えた。
「クロヤさん、アレは何ですか?」
「……徘徊主だ」
「徘徊主……ボスと付くからボスモンスターの一種ですか?」
「ああ。聞き馴染みがないのは当然だ。あのタイプのボスモンスターは高難易度ダンジョン、つまり摩天楼ダンジョンにしか出現しないからな」
〈徘徊主〉とは、その名の通りダンジョン内を徘徊するという特徴を持つボスモンスターだ。
強さは領域主以上迷宮主以下であり、他のタイプのボスモンスターよりも行動範囲がかなり広い。
回帰前の未来でも、摩天楼ダンジョンに挑んだ著名なパーティーやギルドが不意に遭遇してしまい、そのまま全滅してしまうといったことも珍しくなかった。
現在の時点でも存在は知られており、このボスモンスターの存在も摩天楼ダンジョンが攻略された事例が殆ど無い理由の一つでもあった。
「この〈堕天の回廊〉の徘徊主の行動範囲は中層だったはずだ。こんな浅い場所に出現するわけがない……あるとしたら、誰かが引っ張ってきたとしか考えられないな」
犯人として思い浮かぶのは、俺達に襲撃を仕掛けてきた仮面の男。
暫定王級の実力と遠距離攻撃手段を持つならば十分可能だ。
先ほど光線が放たれた先が仮面の男が向かっていたゲートの浮島だったことも、この推測を後押ししていた。
反撃した際に仮面の男に多少はダメージを与えているはずなので、徘徊主が放った光線で仮面の男が死んだなら経験値が入ってくるはずだが、攻撃後に経験値が入ってきた感覚はない。
このことから仮面の男はギリギリでダンジョンを脱出したと思われる。
「……転移は使えないか。噂に聞いた通り、一定範囲内の転移を阻害する能力があるみたいだな」
第7層能力【座標変換】が使えないことから、未来で得た情報は正しいようだ。
転移が使えないことを確認していると、徘徊主がゲートの浮島に向けて光の雨を降らせ始めていた。
一対の大翼から曲射で放たれる無数の光線が、初撃の巨大な光線から生き残った探索者達に向けて降り注ぐ。
あのボスモンスターによる被害が、〈システム〉が出したクエストにあった『異常暴走収拾に対する貢献度』とやらの評価に関わるかは不明だ。
だが、どのみちダンジョンを脱出するにはボスモンスターが邪魔だし、あの探索者達を見殺しにするよりも、協力して事態の解決のために動いた方が良いだろう。
ここから見た感じでは、生き残った探索者達の中に盾役らしき者の姿は見えない。
いや、負傷して満足に動けない盾役らしき探索者が後方にいたため、正しくはまだ動ける盾役と言うべきか。
徘徊主の巨大光線攻撃に当たらなかった異常暴走のモンスターも残っており、そのモンスター達が再びゲート周りを埋め尽くしている。
あのままでは脱出することは難しいだろう。
ボスモンスターも最初の一撃を除けば、同じ天使系モンスターを攻撃することはないようで、ボスモンスターの攻撃に期待することは出来ない。
「あちらには盾が必要か……」
あの徘徊主の攻撃は、先ほどの巨大光線を除けば、王級覚醒者の盾役が1人で受け持つか、上級覚醒者の盾役で複数人で回せば問題なさそうだ。
人命救助のことだけでなく、クエスト報酬のことも考えると役割分担をした方が効率的だな。
2人と話し合う時間を作るべく、再び『時間停止』の魔法を使用する。
魔法発動時にマリヤに触れることによって、術者である俺が触れている間はマリヤも動くことができる。
「2人は彼らを手伝ってくれ。あの徘徊主は俺が引き付ける」
「そんなッ!?」
「リーダー。攻撃は私が」
「アレの攻撃は見ての通り非常に強力だ。王級の盾役でもない限り1人では耐えられないだろう。俺なら攻撃を感知できるし避けられる。だから、マリヤはあの探索者達の盾役を代わりにやってくれ。これが現状では最適だ」
「それは、そうですけど……」
「まぁ、無理はしないさ。あの人達に協力してゲート周りのモンスターを片付けたら、すぐにダンジョンを出てくれ。俺も死にたくないから、全員が出たのを確認したら俺も脱出する」
「……分かりました。クロヤさんが無事に戻ってくるのを待っています」
「ちゃんと逃げてきてくださいね。約束ですよ?」
「ああ、約束だ。無事に戻ってくるよ」
時間停止の魔法効果が解けるギリギリで2人の説得が終わった。
止まっていた時間が再び動き出すと同時に、リリアが俺に向けてクラススキルによる効力強化を行なった支援魔法『風精霊の祝福』『奇跡的な護り』『時流乱鎧』を付与していった。
どれも魔力消費の大きい支援魔法だが、俺には必要と判断して使ってくれたようだ。
素早く支援魔法を掛け終えたリリアとマリヤがゲートのある浮島へと向かっていくのを見送ると、その浮島に向けて再び巨大光線を放とうとしている徘徊主の姿が見えた。
「【光王ノ投射撃】」
魔銃の銃口から撃ち出された闇の光線が徘徊主の頭部を射抜き、ゲートの浮島への攻撃を中止させる。
意図せずこの事態を招いたであろう仮面の男と似た攻撃になってしまったが、その甲斐はあったらしく、徘徊主の意識が此方を向いたのが分かった。
「敵意は十分みたいだな。さあ、やろうか!」
彼我の戦力差を少しでも埋めるべく、ここまで使わなかったユニークスキルの力を解放した。
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