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第一章
第十話 委託
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「──初めまして、外神クロヤと申します。本日は私のような若輩者に時間を割いていただき感謝します」
「初めまして、天城レイジだ。娘のレイカの学生時代の後輩らしいね? そう畏まらず楽にしてくれ」
「ありがとうございます」
場所は天城コーポレーションにある応接室の一室。
そこで天城コーポレーションの社長にして天城先輩の父親と密かに会っていた。
密かにとは言っても、室内には俺達以外にも天城先輩や天城社長の部下も同席している。
天城コーポレーションを来訪した目的は、アーティファクト〈月神の賢眼〉の簡易版の開発と量産を委託するためだ。
大体の概要は事前に天城先輩に直接会って話している。
娘である先輩が実物を確認した上で話を通したおかげで、トントン拍子で話が進み天城社長と対面することができた。
俺と天城先輩の学生時代の話をメインにした雑談もそこそこに、本題のアーティファクトへと話題は移った。
「ほう。これが鑑定タイプのアーティファクトである〈月神の賢眼〉か。触ってもいいかね?」
「勿論です」
〈宝納の指環〉から取り出したアーティファクトを机の上へと置く。
50歳前後ぐらいのイケおじが青い宝玉を熱心に見ている様は、何となく古美術商が商品を鑑定しているようにも見える。
いや、古美術商ではなく宝石商の方が近いか?
そんなくだらないことを考えていると、天城社長が同席していた部下に本当にアーティファクトかどうか調べさせていいか尋ねてきた。
まぁ、部下の近くに検査機器らしきモノがあったので、そういう専門の部下なのは察していた。
今さら断わる理由もないので許諾すると、目の前で機材をガチャガチャと操作してアーティファクトを調べ出した。
部下だけでなく天城社長自身も一緒に機材を操作しているので、天城社長も技術畑の出身なのかもしれない。
「クロヤ君、交渉が締結する前にアーティファクトを調べさせて大丈夫だったの?」
天城社長の隣に座っていた天城先輩──紛らわしいので胸の内ではレイカ先輩と呼ぶか──が、俺の隣の席に移動してきた。
今日のレイカ先輩は普段と違いスーツ姿なので凄く仕事がデキる女感がある。
「大丈夫ですよ。元よりアーティファクトはマジックアイテムと違って分析は難しいと聞きます。それに契約済みのアーティファクトは契約者と魔力的に繋がっている所為で、より一層難しくなっていますから」
「そうなの?」
「そうらしいですよ。噂ですけどね」
このことは回帰前の世界、つまり未来で判明することだ。
その上、一度でも覚醒者と契約したアーティファクトには、以前の覚醒者の残滓が残るため、契約を重ねる度に検査機器による分析や、他の覚醒者との新たな契約が難しくなっていく。
これらの特性が世間に周知されるのは、確か今から5年、いや3年後ぐらいだったかな?
それまではアーティファクト狩りとでも言うべき、アーティファクト所持者を狙った犯罪が裏で横行していたが、アーティファクトのこの特性が知られてからは減ったらしい。
元より表沙汰になっていない行為だったので、あくまでも『らしい』ではあるが。
俺は前世では支配者階層な覚醒者達に使われるような底辺覚醒者ではあったが、アーティファクトを所有していた。
複数の覚醒者の手を渡ってきた所為で誰も契約できないアーティファクトが回ってきた形だが、俺とは余程相性が良かったようで契約できたのだ。
俺が使っていたアーティファクトが手に入るダンジョンは現時点では出現していない。
出来れば誰の手垢も付いていない状態で手に入れたいところだ。
「安心したまえ。契約を交わす前にデータを抜き取るような真似はしないとも。この業界も信頼関係が大事だからね」
「勿論私は信じております」
「その言い方だと私は信じてないように聞こえるんだけど?」
「気のせいですよ」
「……まぁ、いいわ。それで、父さん。アーティファクトかどうかの確認は済んだの?」
俺の物言いに対してジト目を向けてくるレイカ先輩が尋ねると、天城社長から「少し待て」と言いながら、検査機器のモニターを注視し続け、程なくして顔を上げた。
「うむ。この特徴のある魔力波長はアーティファクトで間違いない。ありがとう。コレは先に返しておこう」
「ありがとうございます」
分析の終わった〈月神の賢眼〉を返してもらうと、天城社長が対面の席に戻るのを待った。
「本当に覚醒して間もなくダンジョンを攻略するとはな。外神君は将来有望だな」
「そのようなことは。ギミックタイプのダンジョンだったので、運が良かっただけですよ」
「運も実力のうちと言うだろう。それに、いくら実力があっても、運が無ければ何も手に入れられないのが世の中というものさ」
まさに前世の俺がそれに近いな。
自分の異能の真価に気付くのが遅れたことは運が無いとも言える。
まぁ、こうして回帰してやり直すチャンスを得たことに関しては運が良いと言えるのだけど。
それから天城社長が用意した幾つかのアイテムの鑑定や、人に対するステータス鑑定を行なった。
アーティファクトの効果が確かなモノであるという確証が得られると、諸々の契約書の作成を行なった。
俺個人と天城コーポレーション間での収益の比率を決めるのが少し大変だったが、概ね納得のいく結果に終わった。
〈月神の賢眼〉の簡易版である鑑定宝玉──アイテム名は本来の名をそのまま採用した──が上手く開発できれば、今後は安定して収入が得られそうだ。
別の企業の例ではあるが、前世ではアーティファクト獲得から鑑定宝玉の販売まで1年以上は経っていたので、大体それぐらいは掛かると考えておいた方がいいだろう。
後日、アーティファクトのより詳細な分析のために来訪した際に、手付金が貰えるので普通に暮らすだけなら暫く金に困ることはない。
だが、ダンジョン探索用に装備を揃えたらすぐに無くなるだろうから、またすぐにダンジョンで生活費を稼がないといけないな。
レイカ先輩が自分のガーベラギルドに手招きしているが、暫くはギルドに入らずソロで頑張るつもりだ。
せっかくの前世の知識を活かすには、団体行動をとることになるギルドは足枷になるからな……。
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