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第一章
第三十一話 セット装備
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「──やぁ、よく来ましたね。装備、出来てますよ」
「……久坂さん」
「なんです?」
「メシ、食べてます?」
連絡を貰って訪れた工房で出迎えたのは、頬がこけた久坂マモルの姿だった。
元々痩身ではあったが、それでも今のように骨と皮だけではなかったはずなんだが……。
マモルの格好次第では、先ほどまでいた〈不浄墓地〉でアンデッドに見えそうな不健康ぶりだ。
「あー、最後に食べたのはいつだっけな? 作業に集中すると時間を忘れてしまってね」
「それでよく動けますね」
俺はちゃんとメシを食べないと集中力が続かないタイプだから理解できないな。
〈宝納の指環〉の収納空間に間食用にと入れておいたコンビニの鮭おにぎりとお茶を取り出すと、マモルに食えとばかりに押し付けた。
「お、ありがとう。ちなみに僕は鮭よりもシーチキンの方が好きなんだ」
「喧しいですよ。それで、これが依頼した装備ですか」
断食スタイルなマモルのビジュアルに思わず意識が向いていたのを、本題の装備へと向ける。
鑑定系アーティファクトである〈月神の賢眼〉は手元にないが、異能【万物変換】の第0層能力【経験変換ノ理】、通称〈システム〉のおかげでマジックアイテムの情報を確認することはできる。
その〈システム〉の力を使い、作業台の上に置かれている装備一式の詳細を確認した。
○女王蟻の魔蟲甲冑
等級:遺物級。
とある職人が製作した胴鎧型マジックアイテム。
全部で3つある〈女王蟻の魔蟲装具〉セットを装備している間は、各種能力値が+5される。
・【女王の胆力】……精神異常耐性(中)を獲得。致死ダメージを受けた際に、体力を10%回復する。
・【女王ノ殻】……着用者に合わせて形状が最適化される。一定ダメージ量以下の攻撃を無効化する。
○女王蟻の魔蟲手甲
等級:遺物級。
とある職人が製作した籠手型マジックアイテム。
全部で3つある〈女王蟻の魔蟲装具〉セットを装備している間は、各種能力値が+5される。
・【女王の膂力】……筋力値と体力値が10ずつ増大される。
・【女王ノ爪】……魔力を消費し、鉤爪型の魔力体を具現化する。
○女王蟻の魔蟲靴
等級:遺物級。
とある職人が製作した靴型マジックアイテム。
全部で3つある〈女王蟻の魔蟲装具〉セットを装備している間は、各種能力値が+5される。
・【女王の行進】……地上適性(大)を獲得。着用中は、確率でカリスマ性(小)が発揮される。
・【女王ノ足】……歩行時、走行時に消耗するスタミナが30%カットされる。また、足部が主体のスキル効果が10%強化される。
これは……まさか〈セット装備〉か?
一式を揃えることで先着1名だけが該当するユニーククラスを獲得できるシリーズ系アイテム。
そのダンジョン産出のシリーズ系アイテムを、人工的に作り出そうとして偶然生まれたのがセット装備だ。
ユニーククラス取得のシリーズ系アイテムこそ作り出せなかったが、ある意味ではそれ以上の代物が誕生することになった。
セット装備ごとにセット効果は異なるが、個々のマジックアイテムが有する能力とは別に追加効果が得られるため、その需要は大きい。
そして、その需要に反比例するようにセット装備を製作出来る職人は少ない。
その上、マジックアイテム製作の腕が良ければ誰でも作れるというわけではないらしく、それだけセット装備を作れる者は非常に希少だった。
マモルがセット装備を製作できる職人であることは知らなかった──たぶん前世では秘匿されていたのだろう──が、意図せずセット装備が手に入ったのはラッキーだったな。
「もしかして、セット装備ですか?」
「あ、分かります? クロヤ君が提供してくれた高濃度圧縮魔力結晶体を使えば、なんか作れそうな気がしたんだよね。そうしたら見事に成功したわけだ。いやー、良い経験を積めたよ」
「なるほど、高濃度圧縮魔力結晶体で……」
単純に大量の魔力を使えば製作できるということではないだろうが、マモルの場合は殻を破るキッカケになったみたいだな。
雑談を程々にして、さっそく女王蟻の魔蟲装具セットを試着する。
採寸した通りの仕上がりになっており、身体の動きが阻害される感じはない。
重量も思っていた以上に軽いため、これまでのスピード感を重視した戦闘スタイルでも問題なく活用することが出来そうだ。
「素晴らしい仕上がりですね。とても満足しました」
「それなら良かったよ」
「代金は既に支払っていますが、セット装備という望外の逸品を作ってもらえましたので、お礼にこちらを受け取ってください」
〈宝納の指環〉から取り出したミスリル鉱石を作業台の上に次々と置いていく。
元よりマモルの工房に持ち込む予定だったが、お礼という形で渡す方が好印象になるだろう。
「こ、これはミスリルじゃないか! 貴重な魔法金属がこんなに大量に。本当にいいのかい?」
「ええ。今後も装備製作をお願いしたいので、是非受け取ってください」
「ありがとう! クロヤ君の依頼は最優先で受け取らせてもらうよ。まぁ、他に依頼者はいないんだけどね!」
笑えばいいのか分からない後半部分は聞き流すと、少し談笑してからマモルの工房を後にした。
マモルがセット装備を作れるのは予想外だったが、今後も装備の製作を依頼する時も期待できる。
女王蟻の魔蟲装具セットは遺物級だから、次に装備を更新するならそれ以上の等級の装備を目指すべきだろう。
どんなモンスターの素材が良いかを考えつつ帰路に着いた。
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