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第二章
第六十六話 アビスのボス 後編
しおりを挟む視線を外している間に攻撃力強化スキル【竜ノ爪】だけでなく、防御力強化スキル【竜ノ鱗】が発動されていた。
オグリティカスは混幻魔獣種のS級モンスターであり、本物の竜種というわけではない。
そのため、ドラゴン系スキルが使えはしても、ドラゴン種の中でも同じS級に分類される個体よりもスキル性能は劣っている。
回帰前の未来で俺を殺したドラゴンが使っていたスキルよりも劣るのは間違いなく、今の俺でも対処するのは可能だろう。
そんなことを考えつつドラゴンの頭部の近くへ転移しようとしていると、反対側の山羊頭が口を開いた。
「◼️◼️、◼️、◼️◼️◼️」
理解できない言葉を紡ぐと、山羊頭の周囲に多数の炎の槍が出現し、オグリティカスを守るように風が纏わり付く。
更にオグリティカスの足元の影が広がり、その影の中から影の獣達が出現した。
発動された魔法現象的に炎系上級魔法『炎の槍群』、風系上級魔法『嵐の祝福』、闇系上級魔法『影の獣』か。
攻撃、防御、手数を増やす魔法とは、中々堅実だな。
あの山羊頭は悪魔系モンスターだが、同時に3つの異なる属性の魔法を発動できることから、悪魔の中でも魔法行使能力に秀でた種のようだ。
「【金剛城壁】ッ!」
一斉に放たれてくる炎槍の群れに対し、ガーベラギルドのサブマスターである衣笠シュウが広域防御スキルを発動させる。
先ほどのオグリティカスの爪撃で吹き飛ばされた前衛陣と、後方から支援攻撃をしている後衛陣を纏めて守るべく展開された魔力障壁に炎槍が直撃した。
立て続けに飛来する炎槍を受けても城壁のような巨大な魔力障壁は揺らぐ気配はない。
大型ギルドのサブマスターを任されるだけあって優秀なスキルを持っているな。
まぁ、相応に大量の魔力を消費しているようだが。
炎槍を防ぎ切ったのを確認しながら、俺と氷の騎士達に向かって殺到してくる影の獣達を斬り捨てていると、山羊頭が追加の魔法を発動させた。
「◼️◼️◼️◼️◼️」
「あれはッ」
山羊頭の頭上に展開された魔法陣から漆黒の球体が出現する。
闇系戦術級魔法『暗黒星雲』。
ガス状の闇を生み出す魔法であり、その闇に触れる凡ゆるモノを破壊する。
あの漆黒の球体が弾けることでガス状の闇が解き放たれ、後は自動的に発動時に指定された標的に向けて襲い掛かっていく。
この魔法を防ぐ手段は幾つかあるが、その中でも最も簡単な方法は漆黒の球体が自ら弾ける前に破壊することだ。
「ある意味チャンスか!」
〈宝納の指環〉の収納空間から巨大な魔力石を取り出すと、その魔力石に触れて第3層能力【属性変換】を使用する。
巨大な魔力石を構成する膨大な魔力の属性を〈無〉から〈爆〉へと変換。
ちょっとした衝撃で爆発するようになった魔力石に向けて更なる能力を発動させた。
「喰らえ」
爆発物となった魔力石が第7層能力【座標変換】で転移する。
転移先は山羊頭と、その頭上にある漆黒の球体の中間地点。
重力に引かれた魔力石が落下し、山羊頭の角に接触する。
次の瞬間、ボス部屋の空間全体が震えるほどの大爆発が起きた。
魔力石の爆発は、真上にある漆黒の球体を破壊し、球体に内包されていた魔力と連鎖反応を引き起こす。
紅蓮の炎と漆黒の闇の2色の大爆発にオグリティカスが呑み込まれていく。
即座に【座標変換】を発動させると、オグリティカスと接近戦を行なっていたマキナの傍に転移し、彼女を回収してから後方へと転移した。
生じた爆発が衣笠シュウの魔力障壁を震わせるが、爆心地であるオグリティカスとは距離があるのでギリギリ耐えられるはずだ。
回帰前も世話になった異能による魔力石爆弾攻撃はやはり便利だな。
「クロヤ君!」
「あ、先輩。魔力石はあのタイミングで使わせてもらいました」
「それは構わないけど、倒したの?」
「いえ、まだみたいです。ほら」
魔力石による爆煙はすぐに晴れ、そこにいたオグリティカスが健在であることを明らかにした。
だが、魔法を発動させていた山羊頭は跡形もなく吹き飛んでおり、翡翠色の翼も片方が吹き飛んでいた。
黄金獅子の胴体と頭も一目で分かるほどの大ダメージを受けており、比較的無事なのは爆心地から最も遠くにあるドラゴンの頭部だけだった。
「【氷河期】」
オグリティカスが弱っていることに気付いたレイカ先輩が、間髪入れずクラススキルを発動させる。
オグリティカスの足元に魔法陣とは似て非なる術式陣が展開され、その上にいるオグリティカスを下から上へ吹き荒れる極寒の猛吹雪が襲う。
ダメージによって動きが鈍っていた巨体が、猛吹雪によって更に動きが阻害される。
そこへ術式陣から鋭利な形状の氷山が勢いよく生え、オグリティカスの黄金獅子の身体を貫いた。
「GLWOOOOーーッ!?」
氷山が腹から背中まで貫通してもなおオグリティカスは死なない。
痛みに吠えながらも、その魔力に衰えは見えず、無事な片翼を広げて【翅弾】を放ってきた。
飛来する翡翠色の魔弾を衣笠シュウが再展開した【金剛城壁】が受け止める。
上級攻撃魔法を受け止められるほどの強度の魔力障壁だが、『炎の槍群』の炎槍を大きく上回る数と貫通力のある【翅弾】には耐えられない。
あっという間に魔力障壁が破れ、【翅弾】が降り注ぐ。
前衛陣総出で翡翠色の羽根を斬り払っていると、獅子とドラゴンの双頭に莫大な魔力が収束しているのに気付いた。
「もう一発喰らえ」
再び巨大魔力石を取り出すと、同じ方法で〈爆〉属性へと変えてから転移で送り込んだ。
獅子頭の真上に転移した魔力石が落下する。
が、その途中で片翼が羽根の斉射を止めて、器用に翼を動かして魔力石を弾き飛ばした。
魔力石は衝撃を受けたことで即座に爆発したが、その爆発はオグリティカスからは少し離れており、オグリティカスの体表を炙る程度のダメージしか与えられなかった。
「流石に2度目は通じないか。マキナさん、獅子頭を潰せる自信はありますか?」
「隙さえあれば可能です」
「では一緒に行きましょう。俺はドラゴンの方を担当します」
「かしこまりました。お供致します、クロヤ様」
「では、ブレス直後に頭上に転移します。リリア、ブレスの対処は任せるぞ」
「えっ! む、無理ですよ!?」
驚くリリアの意見を無視して、残る最後の巨体魔力石を取り出して彼女に押し付ける。
「『時流乱界』を使え。この魔力石があれば魔力は足りるはずだ。駄目だったら俺が対処するから安心しろ」
「わ、分かりました」
「来るぞ!」
「『時流乱界』ッ!」
放たれてきた二筋のブレスの正面に魔法陣が展開され、魔法陣の目の前にある空間の時間の流れが乱れる。
その空間に到達したブレスは、放たれて間もないというのに役目を果たしたかのように消失していった。
「【煌獣人化】」
【煌獣人化】を使って狼人化すると、マキナを連れてオグリティカスの頭上に転移する。
【剣爛舞闘】状態のマキナが獅子の頭へ、【煌獣人化】状態の俺がドラゴンの頭へと、互いに【天脚】を使って空中を蹴って急降下する。
片翼が迎撃のために動く前に頭部へ肉迫し、〈白霊剣オルトレール〉と〈狐幻魔刀サイラ〉を引き抜き【双剣術】を有効化させる。
【双剣術】により双方の能力対象が共有されたことにより、サイラの刀身にもオルトレールの【破魔剣気】の魔性特効の力が宿る。
魔性特効の双刃を振り抜き、オルトレールの【英雄遺念】で読み取った英雄の技【王牙斬り】を使用した。
「【王牙斬り】ッ!」
「【斬葬天威】」
俺が繰り出した白き破壊の光の双牙がドラゴンの頭を刈り取り、マキナの双剣から放たれた黒き巨大な斬撃が獅子の頭を斬り落としていった。
── スキル【魔喰ノ精霊王】が発動します。
──対象への能力行使に成功しました。
──筋力値が20ポイント増大します。
──耐久値が25ポイント増大します。
──敏捷値が15ポイント増大します。
──反応値が23ポイント増大します。
──知能値が22ポイント増大します。
──体力値が21ポイント増大します。
──魔力値が19ポイント増大します。
──スキル【麻痺の邪眼】を獲得しました。
──スキル【悪魔の術戯】を獲得しました。
──スキル【獣王剛体】を獲得しました。
──スキル【竜ノ心臓】を獲得しました。
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