身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

十六話『大晦日の一日』

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 大晦日は一年で最も、主婦が忙しい日。

「では義孝さん」
「はい」
「神棚、降ろせ!」
 その日、朝から花の声が響いていた。
「神棚、拭け!」

 ことの始まりは、一昨日。
「いいですか、花さん。海軍の妻は、皇后陛下のように偉いんですよ」
 にっこり笑って、千代が言った。
「皇后陛下より・・・」

 最初は手伝わせるのを躊躇った花だったが、危なっかしい花を見ていられず。
 義孝の方から、海軍の艦内式命令で手伝わせるように提案したのだ。
   ✜✜✜◇◇◇✜✜✜

 テキパキ動き、作業を行なう義孝に『よろし』と確認して、次の指示を出す。
(これ、楽しい!)
 命令は気が引けるが、義孝といられるのが楽しい。

「へえ、じゃあ・・・将軍様も?」
 重松が千代に尋ねる。
「ええ、中原中将も大掃除をするそうですよ。神棚や電球の傘やら手の届かない場所の掃除を受け持つそうです」
 千代の話に、鹿江達も頷く。
「なるほど、旦那様を見ていると納得ですね」

 そして、大掃除完了。
「ありがとうございます」
「いえ」
「では、餅つきの用意が出来るまで、休んでください」
「分かりました」
 そう、年末といえば餅つきである。 

 御節を作るかたわらで、花達は餅米を蒸していた。甘い、香ばしい匂いが漂う。

「では、重松と義孝さん、お願いします」
「はい」

 ぺったん、ぺったん、
 餅をつく音が、冬の空に響く。

 つき上がった餅を、花、鹿江、千代、女中が丸める。
 昼食はつきたての餅を食べた。

「柔らかい!」
「ふふ、きんとんとバターも美味しい!」
「磯辺も」

 賑やかな声が、冬空に響く。

「こんな楽しい年末、久しぶりです」
「そうですか?」
「去年まで、餅つきはなかったので」 
 淋しげに、花が笑う。
「義孝さんのお陰で、私は願いが次々に叶います」
「・・・それは良かった」
 皆が、笑顔で正月を迎える。
「あ、お嬢様。午後からは酉の市ですよ」
「うん」
「忘れてませんよね」
「大丈夫、皆で行こうね」
 ふふ、と花が笑った。

「御節、完成」
「これで、あとは」
「では、参りましょうか」
「はい!」

 家族総出で、神社に向かう。

「酉の市って、十一月では?」
「うちは母が兵庫の方で、神棚の飾りは年末に行くんです」
「なるほど。ちょうど一年の初めと終わりですか」
「はい。ちょっと、変わってますよね。でも、皆が楽しみだから」

 酉の市ではないが、神社に屋台が数多く出店して・・・。浩一郎が花や女中達に、りんご飴や駄菓子を買い与えていた。
 今年は、義孝が使用人達に特別手当を渡している。
「じゃあ、一時間後にここで」
「はーい!」
 皆が三々五々、好きに過ごす。
 千代は重松や鹿江と、周辺を歩き回る。

「さて、私達はどうしましょうか」
「えと・・・一つ、一緒に行きたい場所が」
 ぽぽ、と花は頬を染めた。

      ✣✣◇◇✣✣

「ここは?」
「えと、子宝祈願の社です」
 うるっ、と花は目を潤ませた。
「もう、半年以上になるし、その・・・授かれるなら、もう、いつでも」
 もじもじと、小声で真っ赤になる花は、なんともいじらしい。
「子を授かるには、初夜と同じ事をしなくてはいけませんが」

 ーーー分かってます。

 泣きそうに、花が顔を歪める。
「私だって、もう、おぼこじゃありません。そのくらいは」
「そうでしたね、すみません」
 ふるふると、花は恥ずかしさに目を潤ませた。
「では、お願いしましょうか」
「はい」
 コクと、花は頷いた。

 花が一番欲しいのは、血の繋がった家族であることは、義孝もなんとなく気付いていた。
「男の子がいいです」
 花が呟く。
「義孝さんに似た、優しい男の子が」
「私は花さん似の女の子がいいですね。何があっても、花さんの味方でいる、優しい女の子」
 きっと、どちらでも義孝は愛してくれるだろう。
「ああ、でも・・・女の子だと、嫁にやらないと。それは、ちょっと嫌ですね」
「ふっ」
 花が吹き出した。
「まだ、授かってません。義孝さんに似た、綺麗な娘も捨てがたいです」
「いや、それは」
 苦い顔になる。
「あんまり、可愛くは・・・この顔に、おさげですよ」
「義孝さんに、おさげ?」

 ぷ、あはは!
 吹き出した。

「やだぁ」
「可笑しいでしょ!」
「もう、じゃなくて・・凛とした女の子ですよ」
「いや、おっとりした花さんがいいですよ」

 あはは!
 ふふ!

 涙が出るほどに、二人で笑う。
 きっと、どんな子供でも愛しいはずだ。

「義孝さん、これからも生命の限り、傍に」
「ええ、私からも。花さん、お願いします」

 口づける。
 ずっと、一緒に生きたい。
 飽きるほどに。

「花ちゃん」
 大好きな声がする。

「佳代」
 花が笑顔になる。
「花ちゃん」
「美沙ちゃん」
 ここは、かつて三人で遊んだ神社だ。

 鬼ごっこ
 かくれんぼ
 氷鬼

 たくさんの友達が、子供たちのたまり場だった。

「来年も、宜しく!」
 今は、三人だけになってしまった。それが、堪らなく淋しく悲しいけれどーーー。
「うん。宜しく」
 今は、再会出来たことを大切に生きたいと、花達は思った。

「また、会おうね」
「うん」
「絶対だよ」

 三人が離れ離れになった。
 あの日と同じ笑顔で約束した。

 神様、ありがとうございます。
 私を義孝さんに、併せてくれて、ありがとうございます。

 全ては、この人に会えたから。
 ありがとうございます!
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