身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

十五話『私の大好きな人』

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 康介兄さまが霧島邸を訪ねたのは、義孝さんが休暇に訪れた少し後だった。
「花ちゃん、ちょっといいかな」
「はい」

 兄さまが嘘を吐いたのは許せないけど、ひどく淋しげに思えた。
「ここは」
 そこは、小さな墓だった。
「妻の香苗の墓だよ」
「妻?」

 胸が痛んだ。
 てっきり、兄さまは幸せだと信じていた。

「僕の妻はね、花ちゃん。上官の娘さんだった。別に恋もしてなければ、愛してもいなかった」
「・・・・」
「親の、上官の、勧める縁談に・・・NOとは言えなかった。いや、言う勇気がなかった」
「・・・」
「罰が当たった。香苗はまだ、二十一という若さで奔馬性肺結核で死んだ。一度も、好きとか愛しているとか、言わなかった。言ってやれなかった」

 ーーーーっ。
 涙が止まらない。

「なんで、言わなかったかな。ねぇ、花ちゃん。香苗とは三ヶ月の猶予があったんだ。なのに、僕は愛そうとしなかった。いや、愛せる要素を香苗の中に見つけようとはしなかった」
 もう、やめて。
 自分を蔑まないで。
「愛してやれないと分かっていて、藤岡の家を捨てる勇気もなくてーーー香苗と結婚した」

 兄さまの背中が、小さく震えていた。

「花ちゃん」
「はい」
「ごめんね。時東さんが芸者遊びをしないのは、海軍で有名なんだ。清廉潔白、温厚篤実、頭脳明晰。全てにおいて完璧で、しかも今じゃ二十五歳も下の妻に『ぞっこん』なのは、璃月でも有名だ。悩まなかった訳じゃないと思う、父娘の年の差がある女の子を好きになって娶るなんて」
「ーーーうん」
「いいなあ、花ちゃんを嫁に出来て。可愛いし、優しいし、楽しいし・・・真面目だし」
 泣いている、と感じた。
「僕ね、今度誰かを好きになったら、絶対に好きって言うんだ。時東さんのように、勇気をだして」
「うん」
 幸せに、なって。
 お願いだから、幸せに。

「僕は花ちゃんが好きだった」
「え?」
「だから、好き『だった』。過去形だから・・・そんな顔をしないで」
「たしかに、君を愛していた。香苗と婚約させられて、君を愛していると気付いたんだ。だけど、藤岡を捨てて君と逃げる度胸はなかった。二兎を追う者は一兎をも得ず、結局はどちらも失った」
「兄さま」
 涙が流れ落ちる。
 誰も、愛してくれないと、悲観していた辛い日々。
 でも、ここにも私を、愛してくれた・・・悲しいまでに、愛を乞う人がいた。

「うちは花ちゃんも知っての、軍人貴族でね。海軍に入る以外、僕に道はなかった。『私の息子なんだから、幹部くらいにはなれ』『いい子に、優秀にね』が両親の言葉。過大な期待、良き兄でありたい。それが、僕だ」
 兄さまが嘲笑を浮かべる。
「もっと早く、帰ることが出来たなら・・・君を」

 私は首を振る。
 私が愛しているのは、義孝さん、ただ一人だから。

「ごめんなさい、私は時東義孝を愛しているから。先に兄さまに会っても、変わらないわ」
「そうだね。先に僕が出逢ったのに、君が愛したのは時東さんだ」
「ごめんなさい」
「いいよ。ね、最後に我儘を聞いてくれるかな?」

 私は頷く。

「じゃあ、ちょっと目を閉じて」
「・・・はい」
 私は目を閉じた。

 ちゅ。

 柔らかい、温かな感触が額に触れる。

 ーーーーまさか!?

 薄く、目を開くと・・・兄さまの顔が近い。

 そして、私が絶望的に思ったのは、兄さまの向こう側に義孝さんがいたこと。

 ーーーー。

「さよなら、花ちゃん。幸せに」
「・・・・」
 
 そう言って、兄さまは立ち去る。

「義孝さん」
 どうしよ?
 誤解された。
 冷たい目が見ていた。

「違うの、違うんです!」
 私は、必死に義孝さんの腕を掴んだ。
「違うの!聞いて!」
 
 ーーーー殺す。

 義孝さんの目付きが、まるで違っていた。

「お願い、聞いて?おでこだから・・・口じゃないの!」
「額、だから?」
「お願いだから、ここは兄さまの奥さんの前なの」
「だから?」
「悲しいこと、しないで。お願い、私は義孝さんだけ。兄さまはお別れを言いに来たの」

 泣き縋る私に、義孝さんは息を吐いた。

「花さん」
「はい?」
「お願いですから、妬かせないで下さい」
 握られた拳から、血が滴り落ちる。
「本気で、殺したくなりましたよ」
「はい」
「まあ、彼の境遇には同情はしますが」

 振り向いた義孝さんは、私の大好きな笑顔だった。
「ごめんなさい」
「いえ、すみません。また、泣かせてしまいました。怖い想いをさせましたね」
 優しく、涙を拭いてくれる。

「良かった、あんまり酷くないですね」
 家に帰り、手当をする。
「あらまぁ、どうしたの」
 お義母さんが、呆れている。
「茅で切りました」
「ドジね」
「ええ」
「沁みますよ」
 私は消毒液を吹き付ける。
「ぐ」
 流石に、痛いらしい。眉を寄せた義孝さんに、「大丈夫?」と訊ねた。
「はい、まあ・・・罰です」
「もう、怪我しないで」
「すみません」
 頬を撫でられ、目を閉じる。この後、何をされるか知りすぎている私は、頬が熱い。

「花さん」
 優しく名前を呼んで、口づけられる。
「・・・」
 目を開けると、そこには泣きたいくらいに、優しい眼差しの義孝さんがいた。
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