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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
十四話『殺気』
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それは、新婚旅行から半月後の、京都にある保養施設でのこと。
保養施設から少し離れた料亭『さざなみ』で、海兵達を労う宴が開かれていた。
「あれ?艦長は」
「部屋で奥方に、手紙を執筆中だ」
「艦長の奥さんって、どんな人なんだろう」
ーーーあ、俺、知ってる。
そう言って口を開いた大熊中尉に、杉田中佐はギョとなる。
「大熊、黙れ」
「大丈夫、いずれは知れる事実ッスよ」
「馬鹿」
「杉田」
後ろから、同じく中佐の土方が羽交い締めにした。
「土方、テメ」
「大熊、海神の女房って、どんな顔だ」
ーーーお雛様?
「おお!」
「大和撫子タイプ?」
「まあ、そんなとこ。陸勤務の時は、毎日弁当作るらしい。艦長が手提げを鞄以外に持ってた」
大熊ぁ!
「え、時東はん。結婚されたんどすか?」
芸者が青ざめる。
「ええ、駒菊さん。結婚して、もう三ヶ月にはなりますね。すっげぇ、仲良いんですよ」
「そ、そんなぁ!」
「うちらの時東はん」
芸者や舞子が半泣きになる。
(・・・芸者遊びは全くしないのに、この人気ぶり。知らぬは当人ばかりなり)
どうすんだよ、と杉田中佐は溜息を吐く。
一方の義孝はと言えば、白勢大志より花からの手紙を受け取っていた。
「ありがとう。君も宴席に戻りなさい」
「はい!失礼します」
一礼し、大志は部屋を出る。
「今日はなんだろう」
優しい笑顔が浮かぶのを、大志は微笑んだ。
(・・・よほど、奥さんが好きなんだな。ま、可愛い人だから)
写真を見ていても、大志は口外しない。口の堅さからも、義孝に信頼されていた。
◇◇◇✣✣✣◇◇◇
義孝さん、元気にしてますか?
師走になり、帝都も日毎に寒さが厳しくなりました。
先日、お義母さんや鹿江と買い出しに出た時に、可愛い赤ちゃんを抱いた女性を見かけました。
とても、幸せそうで・・・。
隣には旦那様がいて。
私もいつか・・・・。
✣✣✣◇◇◇✣✣✣
「花さん」
寂しそうに親子を見る、花の姿が目に浮かぶ。
(・・・子と旦那と三人で歩く、そんな小さな願いも、私は叶えてやれない)
赤ん坊がいれば、花の寂しさも消えるだろうか。血の繋がった家族が、傍にいたならば。
あの黒耀石の様な瞳に、時折、言葉にできない寂しさを見る。
「そう言えば、彼女には親戚は居ないのか?」
浩一郎が病没後、誰も花を助けようとはしなかった。
「親戚・・・彼女の母方の祖父母は?」
ふと、気になった。
なぜ、孫娘を救おうとしないのかと。
部屋を出ると、向こう側から一人の男性が歩いてくる。
ーーーー藤岡康介。
一触即発、というのだろうか。
二人の間に冷たい空気が漂う。
「艦長」
張り詰めた空気を消したのは、杉田中佐の声と宴席で嘆く、芸者や舞子の声だ。
「なんだ」
「芸者と舞子が」
ゴニョ・・・と、囁く。
「あの、バカタレが!」
チラ、と康介を見る義孝の目に、杉田中佐は凍りつく。
(・・・な、なんて、目だ)
「君は確か、璃月の」
「!」
「はい、藤岡康介です」
「そうか、確か実家は・・うちの近くだったな?」
カタカタと、杉田中佐は震えそうになる。
ーーーー凄まじい殺気だ。
何度も海戦で苦労を共にしてきたから分かる、義孝の静かな怒り。
「か、艦長」
「また、会うこともあるだろう。その時は、宜しく」
「はい」
一礼し、康介が去る。
「艦長、落ち着いてください」
「心配するな、殺しはしない」
「っ」
―――バレてる。
杉田中佐は震えだす。
「さて、大熊のバカタレを締めるか」
「は、はい」
慌てて、義孝を追いかけた。
―――殺気を隠そうとしない。
冷静沈着、温厚篤実と言われた時東義孝が初めて、一個人に怒りを向けた瞬間だった。
「康介」
同期生の芝原少佐が、康介に囁く。
「艦長がお呼びだ」
「わかった」
翔哉は鋭い眼差しで康介を見据えた。
「康介。俺は忠告したはずだ」
「は」
「再婚しろ、と」
「・・・・」
「海神を知っているか?」
はい、と頷いた。
「お前の連れていた女はな、海神の女房だ」
「知っています」
「―――時東はな、お前の年で将軍達と参謀として軍会議に出席していた。俺やお前じゃ、到底相手にならんヤツだ」
頭に人差し指を当てる。
「ここが違うんだ。一般人と」
――――殺されるぞ。
「え」
「ヤツの殺気がさざなみに漂ってる」
「殺気」
「お前にゃ、わからんだろうが。たぶん、疾風の連中は気づいている。なのに、あのはしゃぎようだ」
大したもんだ。
「実にならない、命がけの恋なんてやめとけ」
「・・・」
「時東には俺から詫びを入れておく。お前は時東には関わるな、な?」
ーーーバカタレ。
部屋を出る康介に、翔哉は言った。
「という訳だ、時東」
煙草を吸いながら、翔哉が頭を下げる。
「勘弁してやってくれ。アイツは優秀な海兵だ」
「ーーーあなたに頭を下げられては、仕方ありませんね」
花を傷つける流言はゆるせないが、翔哉は先輩の海軍士官だ。顔を潰す訳にはいかない。
「俺はな、もう死んでほしくない。あの戦争で、何人の海兵が死んだか」
「別に、殺しはしません」
「だが、内心でブチ切れてるだろ」
「・・・」
「杉田中佐が震えてたぞ。お前の部下達は大したもんだ。あの殺気の中で、はしゃいでるからな」
はは、翔哉は笑った。
保養施設から少し離れた料亭『さざなみ』で、海兵達を労う宴が開かれていた。
「あれ?艦長は」
「部屋で奥方に、手紙を執筆中だ」
「艦長の奥さんって、どんな人なんだろう」
ーーーあ、俺、知ってる。
そう言って口を開いた大熊中尉に、杉田中佐はギョとなる。
「大熊、黙れ」
「大丈夫、いずれは知れる事実ッスよ」
「馬鹿」
「杉田」
後ろから、同じく中佐の土方が羽交い締めにした。
「土方、テメ」
「大熊、海神の女房って、どんな顔だ」
ーーーお雛様?
「おお!」
「大和撫子タイプ?」
「まあ、そんなとこ。陸勤務の時は、毎日弁当作るらしい。艦長が手提げを鞄以外に持ってた」
大熊ぁ!
「え、時東はん。結婚されたんどすか?」
芸者が青ざめる。
「ええ、駒菊さん。結婚して、もう三ヶ月にはなりますね。すっげぇ、仲良いんですよ」
「そ、そんなぁ!」
「うちらの時東はん」
芸者や舞子が半泣きになる。
(・・・芸者遊びは全くしないのに、この人気ぶり。知らぬは当人ばかりなり)
どうすんだよ、と杉田中佐は溜息を吐く。
一方の義孝はと言えば、白勢大志より花からの手紙を受け取っていた。
「ありがとう。君も宴席に戻りなさい」
「はい!失礼します」
一礼し、大志は部屋を出る。
「今日はなんだろう」
優しい笑顔が浮かぶのを、大志は微笑んだ。
(・・・よほど、奥さんが好きなんだな。ま、可愛い人だから)
写真を見ていても、大志は口外しない。口の堅さからも、義孝に信頼されていた。
◇◇◇✣✣✣◇◇◇
義孝さん、元気にしてますか?
師走になり、帝都も日毎に寒さが厳しくなりました。
先日、お義母さんや鹿江と買い出しに出た時に、可愛い赤ちゃんを抱いた女性を見かけました。
とても、幸せそうで・・・。
隣には旦那様がいて。
私もいつか・・・・。
✣✣✣◇◇◇✣✣✣
「花さん」
寂しそうに親子を見る、花の姿が目に浮かぶ。
(・・・子と旦那と三人で歩く、そんな小さな願いも、私は叶えてやれない)
赤ん坊がいれば、花の寂しさも消えるだろうか。血の繋がった家族が、傍にいたならば。
あの黒耀石の様な瞳に、時折、言葉にできない寂しさを見る。
「そう言えば、彼女には親戚は居ないのか?」
浩一郎が病没後、誰も花を助けようとはしなかった。
「親戚・・・彼女の母方の祖父母は?」
ふと、気になった。
なぜ、孫娘を救おうとしないのかと。
部屋を出ると、向こう側から一人の男性が歩いてくる。
ーーーー藤岡康介。
一触即発、というのだろうか。
二人の間に冷たい空気が漂う。
「艦長」
張り詰めた空気を消したのは、杉田中佐の声と宴席で嘆く、芸者や舞子の声だ。
「なんだ」
「芸者と舞子が」
ゴニョ・・・と、囁く。
「あの、バカタレが!」
チラ、と康介を見る義孝の目に、杉田中佐は凍りつく。
(・・・な、なんて、目だ)
「君は確か、璃月の」
「!」
「はい、藤岡康介です」
「そうか、確か実家は・・うちの近くだったな?」
カタカタと、杉田中佐は震えそうになる。
ーーーー凄まじい殺気だ。
何度も海戦で苦労を共にしてきたから分かる、義孝の静かな怒り。
「か、艦長」
「また、会うこともあるだろう。その時は、宜しく」
「はい」
一礼し、康介が去る。
「艦長、落ち着いてください」
「心配するな、殺しはしない」
「っ」
―――バレてる。
杉田中佐は震えだす。
「さて、大熊のバカタレを締めるか」
「は、はい」
慌てて、義孝を追いかけた。
―――殺気を隠そうとしない。
冷静沈着、温厚篤実と言われた時東義孝が初めて、一個人に怒りを向けた瞬間だった。
「康介」
同期生の芝原少佐が、康介に囁く。
「艦長がお呼びだ」
「わかった」
翔哉は鋭い眼差しで康介を見据えた。
「康介。俺は忠告したはずだ」
「は」
「再婚しろ、と」
「・・・・」
「海神を知っているか?」
はい、と頷いた。
「お前の連れていた女はな、海神の女房だ」
「知っています」
「―――時東はな、お前の年で将軍達と参謀として軍会議に出席していた。俺やお前じゃ、到底相手にならんヤツだ」
頭に人差し指を当てる。
「ここが違うんだ。一般人と」
――――殺されるぞ。
「え」
「ヤツの殺気がさざなみに漂ってる」
「殺気」
「お前にゃ、わからんだろうが。たぶん、疾風の連中は気づいている。なのに、あのはしゃぎようだ」
大したもんだ。
「実にならない、命がけの恋なんてやめとけ」
「・・・」
「時東には俺から詫びを入れておく。お前は時東には関わるな、な?」
ーーーバカタレ。
部屋を出る康介に、翔哉は言った。
「という訳だ、時東」
煙草を吸いながら、翔哉が頭を下げる。
「勘弁してやってくれ。アイツは優秀な海兵だ」
「ーーーあなたに頭を下げられては、仕方ありませんね」
花を傷つける流言はゆるせないが、翔哉は先輩の海軍士官だ。顔を潰す訳にはいかない。
「俺はな、もう死んでほしくない。あの戦争で、何人の海兵が死んだか」
「別に、殺しはしません」
「だが、内心でブチ切れてるだろ」
「・・・」
「杉田中佐が震えてたぞ。お前の部下達は大したもんだ。あの殺気の中で、はしゃいでるからな」
はは、翔哉は笑った。
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