身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

文字の大きさ
58 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

十七話『誘い文句?』

しおりを挟む
「年越しそば、毎年どうされていました?」
 今日は大晦日である。
 桐島家の夕暮れ、蕎麦をどうするか花達は思案する。

「うちは出前でしたねぇ」
「なるほど」
「花さん達は?」
「蕎麦は買って、家で茹でて出汁をかけました」
「なら、そうしましょうか。帰りに海老買って、豪華に」
「はい!」

 ゾロゾロ・・・女性は手分けして材料を買い揃えた。

「旦那様は毎年、年越しはどうしたんです?」
 重松と女性達を待ちながら、義孝は話した。
「うちは、母と二人でしたから。蕎麦は出前・・・」
 ふと、苦い記憶が蘇る。
「どうしました?」
「いやぁ、年越しそばと言えば、生前の父が」

 あはは!
 重松が笑った。

「どうしました」
 買い物をした花が戻る。
「いやね、旦那様のおやっさんがねぇ?くくっ」
「なに。楽しい話?」
 皆が集まる。
「ま、帰りながら」
 義孝が、苦笑いした。

「え、蕎麦を何杯も?」
「ええ。やれ、コシがたりない、やれ、香りがしない」
 手打ち蕎麦をするのは良いけれど。
「あれは、胸焼けですねぇ」
 千代が苦笑した。

「死んだ人を悪くは言えませんが、父の唯一無二の汚点です」
「あれは、しんどかった」

「蕎麦、やめますか?」
 心配する花に、義孝は微笑んだ。
「いえ、食べますよ。年を越さなくては」

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣
「重松、すごく楽しそうだった」
「重松にも、息子がいましたけど。関東大震災で亡くしましたからね、嫁さんに両親」
「辛い想いをしたんですねぇ」
「川に入ろうとした重松を、奥様が助けたんですよ」

 全てを亡くした絶望と深い悲しみ、それを助けたのが花の母だった。

「うちで働きなさいって、言ったそうですよ」

 母が桐島に嫁ぐ時、重松を男衆として浩一郎が雇った。

「奥様は若くして亡くなりましたが、お嬢様がいますから」
「お嬢様は女中の二人を見つけたんです」
 双子の姉妹で、親に捨てられた二人。結婚後も働いている。
「あの二人も、旦那様を亡くしてるんです。姉は病気で、妹は戦争で・・・。二人とも、子供がなくて立場がないから、お嬢様が家に来いと」
「大した給料はあげられないけと、ご飯と寝床はあるから」

「私達、お嬢様に二回、拾われたんです」
「ここは、幸せが集まる家ですねぇ」
 千代がにこりと笑う。
「さて、蕎麦と天麩羅を作りましょ」
「はーい」

    ✣✣✣✣☆☆✣✣✣✣
「さて、夕食ですよ」
「天麩羅に蕎麦、おでんもあります」

 皆が笑って、お喋りして。
 一年が終わる。

「でも、多才なお父さんですね。手打ち蕎麦なんて」
「いえいえ、多才なんて」
「あれは、下手の横好きです。水分とか、混ぜ方とか・・・こだわる割にまっずいし」
「胸焼けしますよ」
 
 あはは

「だから、安心してます。市販なら、間違いなく」
「そう、間違いなく」
「ふふ、天麩羅とおでんもありますから、たくさん食べてくださいね!」
「来年も、お願いします」
「こちらこそ」
「明日は、朝食は朝八時。ゆっくり目に食べますよ」

 きゃあ、きゃあ。

 大晦日の夜は、楽しく過ぎた。

   ✣✣✣◇◇✣✣✣
 湯に入り、花は寝室に向かう。
 
 ーーー結婚して、半年を・・・

 ふと、昼間言ったことを思い出し、襖の前で立ち止まる。
「どうしよ?」
 あれでは、誘い文句だ。
「して欲しい、って言ったのと同じ事だよね」
 顔が、熱い。

「花さん?」
 襖が開く。
「あ、えと」
「風邪を引きますよ」
「ーーーーはい」
 コク、と頷いた。
 小さく震える。

「寒い、ですか」
 ふわり、と膝に抱き上げられる。
「いえ、あのっ」
「ああ、やっぱり冷えてますね」
「あの、義孝さん?」
 抱きしめられ、花は目を潤ませる。

「花さん」
「はい」
「まだ、怖いですか?」
 心配そうに、義孝が見ている。
「あの日から、無理していませんか?」
「あの日、・・・あ!」

 ーーーー殺す。

 別人のように、冷たい眼差しの義孝に全身が震えた。
 軍人・・・『海神の化身』がそこに居た。

「怖い、ですか?」
「いいえ、怖くありません。今、私の前にいるのは、私の大好きな旦那様です。怖い訳がありません」
 花が微笑んだ。
 きっと、怯えているのは、義孝の方だ。あんな一面を見せてしまい、花が嫌っていないか、恐れている。

「私、ちょっと恥ずかしくなりました。昼間、赤ちゃんが欲しいなんて、義孝さんに言ったこと。あれじゃ、『して欲しい』って誘い文句です」
「違う、んですか?」
 にこり、と義孝が悪戯に笑う。

 ドキッ、と心臓がはねる。

「・・・いえ、その」
 もじもじ、と浴衣の袖を掴む。
「違い、ません。ーーーして、ください」
 ふるっ、と涙目になる。
「明かり、消しますか?」
「・・・はい」
 か細い、小さな声に義孝は微笑んで、明かりを消した。

(風が窓を揺らした。冬の匂い、初雪が降った夜。私達は、また親しくなった)

 ーーーこれから、もっと、『親しく』なりますしね?

 義孝に囁かれた日、花は茹で上がるように真っ赤になった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...