身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)

一話『心の手紙』

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「義孝さん。手紙、書きますね。出せないけれど、何があったのか」
「はい。私も書きましょう。帰ったら、見せ合いますか」
「はいっ」
 花は頷いた。
 ちょっと、恥ずかしいけれど。

「さ、今日の分」
 花は便箋と封筒を出した。

   ◆◆◆◇◇◇◆◆◆
 親愛なる義孝様

 今日、赤ちゃんがお腹を蹴りました。ポンっ!と弾むくらいに、どうやら・・・かなりの腕白か、お転婆さんみたいです。

 思わず笑ってたら、美沙ちゃんと佳代が来ました。深雪がシベリアに到着したと、知らせに来てくれました。

 あとね、二人にお産の感想を教えて欲しいと、頼まれました。

 夜のアレは、股を裂く痛みなら。お産は、スイカを鼻から出す痛みと言います。
 美沙ちゃんが、女の人は痛いことばかりだね、って。

 なにが、って?
 それは、その・・・・

   ✢✢✢◇◇✢✢✢

「きゃ~、駄目!こんな、破廉恥な内容」
 花は消しゴムを出す。
「義孝さんに、幻滅されちゃう。もっと、慎みを」

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
 艦艇は、穏やかに波を征く。
 復員した日本人を乗せ、静かに日本に帰還する。

「さぁ、食事です。最初は消化の良い物で胃腸を慣らして、徐々に肉や魚を出します」
 杉田中佐が説明する。
 皆が、素直に従ってくれた。

 日本に帰れる歓びと、久しぶりに食べる日本の味付けに感涙していた。
「美味い」
「生きていて、良かったぁ」
「久しぶりの、日本の米だ」
 捕虜達の笑顔を後目に、杉田中佐は食堂を出た。

「みんな、納得してくれました」
「まあ、そうだろ。國に帰れるんだ、飯は食えりゃいい」
「艦長の奥さんの監修ですから」
 時致の言葉に、義孝は咳払いする。

「みんな、美味いっていってましたよ」
「・・・そうか」

 花の作る食事が美味しいことは、毎日食べていた義孝が熟知している。そして、花にそれを仕込んだ鹿江も、優しい料理の達人だった。

「・・・この分だと、お産に間に合うかも知れませんね」
「お産、か」
「大佐も傍に居てあげたいでしょ?奥さんは初産だし」

 正直、心配だった。
 あのように華奢な身体で、耐えられるのかと。

 ―――大丈夫、成熟していますよ。

 医者の診断結果に、義孝は安堵した。
(幼いと思っている花さんに、私は・・・)
 あのような、あのような・・・
 一人、悶々としてしまう。

 いつもなら、月に二回は手紙が来るが・・・遠く離れた異国の海原に、手紙は届くはずもなく。

「手紙、書くか」

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢
 拝啓、花さん。

 今日は、初めて会った日のことを書こうかと思います。

 最初、結婚願望がなかった私に、准将が突然に「結婚しろ」と言ったのです。

「有能な部下に、死に急いで欲しくない」

 准将達は母に根回しし、私の退路を断ちました。最初はありがた迷惑だった縁談ですが、今ではこの縁談を感謝しています。

 花さんが来て下さらなければ、東京に砲弾が撃ち込まれたでしょう。
 そして、黒幕はおろか原因すら突き止められず、また日本は戦火に焼かれる未来を迎えたかも知れません。

 まさか、父娘の差ほど年が離れた女性を好きになり、恋しく思うなど・・・想定外です。

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢

「千代さんは、喜んでいたが?」
 一年前、順一から言われた言葉に、義孝は愕然とした。
「まさか」
「大丈夫だ、義孝。あの娘ならば・・きっと幸せになれる。いや、幸せにしてやってくれ」
 深々と順一に、頭を下げられた。

「儂は、あの後妻さんを、誤解していたかも知れね」
 不気味に感じた、あの笑顔。
 だが、本当に花の幸せを願っていたのだとしたら?
「まぁ、許せね。花ぼうをしこたま傷つけたんだからな」

 だが、花は許したいと泣いた。
 愛されたいなら、まず、自分が相手を愛さなければ。

「私達は、どちらが先に惚れたんでしょうね?」

    ✢✢✢◇◇✢✢✢

 花さん、会いたい。
 今、とても会いたい。

 もう、何年も会ってないような気がします。

 今、シベリアの海を、ようやく離れます。予定では四ヶ月、早く花さんに会いたい。

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
「あ、また蹴りました」
「まぁ、ずいぶん元気ですねぇ」
 千代が優しく、お腹に手を置いた。

 あ!

「蹴りましたねぇ」
「これ、おばあちゃんを蹴らないの」
「おばあちゃん、そう呼んでくれるんですね」
「はい」
「ありがとう、花さん」

 千代の目に、涙が浮かんだ。
「花さんも、おばあちゃんって、呼んで下さいね」
「は・・・はい」
 コクコクと頷いた。
「ふふ、おばあちゃんに格上げですねぇ」
「はい。格上げです」
 家族が増える。
 足りなくなった足音が、自分が母親となり、また元通りになる。

(義孝さん、幸せです。凄く凄く、幸せです。今度は可愛い足音も増えます)

 笑い声が響く桐島邸。
 義孝が戻り、赤ちゃんの声が加わり。賑やかな騒音が増える。

「早く、春にならないかなぁ」
 青空を見上げて、花は笑った。
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