78 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)
一話『心の手紙』
しおりを挟む
「義孝さん。手紙、書きますね。出せないけれど、何があったのか」
「はい。私も書きましょう。帰ったら、見せ合いますか」
「はいっ」
花は頷いた。
ちょっと、恥ずかしいけれど。
「さ、今日の分」
花は便箋と封筒を出した。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
親愛なる義孝様
今日、赤ちゃんがお腹を蹴りました。ポンっ!と弾むくらいに、どうやら・・・かなりの腕白か、お転婆さんみたいです。
思わず笑ってたら、美沙ちゃんと佳代が来ました。深雪がシベリアに到着したと、知らせに来てくれました。
あとね、二人にお産の感想を教えて欲しいと、頼まれました。
夜のアレは、股を裂く痛みなら。お産は、スイカを鼻から出す痛みと言います。
美沙ちゃんが、女の人は痛いことばかりだね、って。
なにが、って?
それは、その・・・・
✢✢✢◇◇✢✢✢
「きゃ~、駄目!こんな、破廉恥な内容」
花は消しゴムを出す。
「義孝さんに、幻滅されちゃう。もっと、慎みを」
✢✢✢◇◇✢✢✢
艦艇は、穏やかに波を征く。
復員した日本人を乗せ、静かに日本に帰還する。
「さぁ、食事です。最初は消化の良い物で胃腸を慣らして、徐々に肉や魚を出します」
杉田中佐が説明する。
皆が、素直に従ってくれた。
日本に帰れる歓びと、久しぶりに食べる日本の味付けに感涙していた。
「美味い」
「生きていて、良かったぁ」
「久しぶりの、日本の米だ」
捕虜達の笑顔を後目に、杉田中佐は食堂を出た。
「みんな、納得してくれました」
「まあ、そうだろ。國に帰れるんだ、飯は食えりゃいい」
「艦長の奥さんの監修ですから」
時致の言葉に、義孝は咳払いする。
「みんな、美味いっていってましたよ」
「・・・そうか」
花の作る食事が美味しいことは、毎日食べていた義孝が熟知している。そして、花にそれを仕込んだ鹿江も、優しい料理の達人だった。
「・・・この分だと、お産に間に合うかも知れませんね」
「お産、か」
「大佐も傍に居てあげたいでしょ?奥さんは初産だし」
正直、心配だった。
あのように華奢な身体で、耐えられるのかと。
―――大丈夫、成熟していますよ。
医者の診断結果に、義孝は安堵した。
(幼いと思っている花さんに、私は・・・)
あのような、あのような・・・
一人、悶々としてしまう。
いつもなら、月に二回は手紙が来るが・・・遠く離れた異国の海原に、手紙は届くはずもなく。
「手紙、書くか」
✢✢✢◇◇◇✢✢✢
拝啓、花さん。
今日は、初めて会った日のことを書こうかと思います。
最初、結婚願望がなかった私に、准将が突然に「結婚しろ」と言ったのです。
「有能な部下に、死に急いで欲しくない」
准将達は母に根回しし、私の退路を断ちました。最初はありがた迷惑だった縁談ですが、今ではこの縁談を感謝しています。
花さんが来て下さらなければ、東京に砲弾が撃ち込まれたでしょう。
そして、黒幕はおろか原因すら突き止められず、また日本は戦火に焼かれる未来を迎えたかも知れません。
まさか、父娘の差ほど年が離れた女性を好きになり、恋しく思うなど・・・想定外です。
✢✢✢◇◇◇✢✢✢
「千代さんは、喜んでいたが?」
一年前、順一から言われた言葉に、義孝は愕然とした。
「まさか」
「大丈夫だ、義孝。あの娘ならば・・きっと幸せになれる。いや、幸せにしてやってくれ」
深々と順一に、頭を下げられた。
「儂は、あの後妻さんを、誤解していたかも知れね」
不気味に感じた、あの笑顔。
だが、本当に花の幸せを願っていたのだとしたら?
「まぁ、許せね。花ぼうをしこたま傷つけたんだからな」
だが、花は許したいと泣いた。
愛されたいなら、まず、自分が相手を愛さなければ。
「私達は、どちらが先に惚れたんでしょうね?」
✢✢✢◇◇✢✢✢
花さん、会いたい。
今、とても会いたい。
もう、何年も会ってないような気がします。
今、シベリアの海を、ようやく離れます。予定では四ヶ月、早く花さんに会いたい。
✢✢✢◇◇✢✢✢
「あ、また蹴りました」
「まぁ、ずいぶん元気ですねぇ」
千代が優しく、お腹に手を置いた。
あ!
「蹴りましたねぇ」
「これ、おばあちゃんを蹴らないの」
「おばあちゃん、そう呼んでくれるんですね」
「はい」
「ありがとう、花さん」
千代の目に、涙が浮かんだ。
「花さんも、おばあちゃんって、呼んで下さいね」
「は・・・はい」
コクコクと頷いた。
「ふふ、おばあちゃんに格上げですねぇ」
「はい。格上げです」
家族が増える。
足りなくなった足音が、自分が母親となり、また元通りになる。
(義孝さん、幸せです。凄く凄く、幸せです。今度は可愛い足音も増えます)
笑い声が響く桐島邸。
義孝が戻り、赤ちゃんの声が加わり。賑やかな騒音が増える。
「早く、春にならないかなぁ」
青空を見上げて、花は笑った。
「はい。私も書きましょう。帰ったら、見せ合いますか」
「はいっ」
花は頷いた。
ちょっと、恥ずかしいけれど。
「さ、今日の分」
花は便箋と封筒を出した。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
親愛なる義孝様
今日、赤ちゃんがお腹を蹴りました。ポンっ!と弾むくらいに、どうやら・・・かなりの腕白か、お転婆さんみたいです。
思わず笑ってたら、美沙ちゃんと佳代が来ました。深雪がシベリアに到着したと、知らせに来てくれました。
あとね、二人にお産の感想を教えて欲しいと、頼まれました。
夜のアレは、股を裂く痛みなら。お産は、スイカを鼻から出す痛みと言います。
美沙ちゃんが、女の人は痛いことばかりだね、って。
なにが、って?
それは、その・・・・
✢✢✢◇◇✢✢✢
「きゃ~、駄目!こんな、破廉恥な内容」
花は消しゴムを出す。
「義孝さんに、幻滅されちゃう。もっと、慎みを」
✢✢✢◇◇✢✢✢
艦艇は、穏やかに波を征く。
復員した日本人を乗せ、静かに日本に帰還する。
「さぁ、食事です。最初は消化の良い物で胃腸を慣らして、徐々に肉や魚を出します」
杉田中佐が説明する。
皆が、素直に従ってくれた。
日本に帰れる歓びと、久しぶりに食べる日本の味付けに感涙していた。
「美味い」
「生きていて、良かったぁ」
「久しぶりの、日本の米だ」
捕虜達の笑顔を後目に、杉田中佐は食堂を出た。
「みんな、納得してくれました」
「まあ、そうだろ。國に帰れるんだ、飯は食えりゃいい」
「艦長の奥さんの監修ですから」
時致の言葉に、義孝は咳払いする。
「みんな、美味いっていってましたよ」
「・・・そうか」
花の作る食事が美味しいことは、毎日食べていた義孝が熟知している。そして、花にそれを仕込んだ鹿江も、優しい料理の達人だった。
「・・・この分だと、お産に間に合うかも知れませんね」
「お産、か」
「大佐も傍に居てあげたいでしょ?奥さんは初産だし」
正直、心配だった。
あのように華奢な身体で、耐えられるのかと。
―――大丈夫、成熟していますよ。
医者の診断結果に、義孝は安堵した。
(幼いと思っている花さんに、私は・・・)
あのような、あのような・・・
一人、悶々としてしまう。
いつもなら、月に二回は手紙が来るが・・・遠く離れた異国の海原に、手紙は届くはずもなく。
「手紙、書くか」
✢✢✢◇◇◇✢✢✢
拝啓、花さん。
今日は、初めて会った日のことを書こうかと思います。
最初、結婚願望がなかった私に、准将が突然に「結婚しろ」と言ったのです。
「有能な部下に、死に急いで欲しくない」
准将達は母に根回しし、私の退路を断ちました。最初はありがた迷惑だった縁談ですが、今ではこの縁談を感謝しています。
花さんが来て下さらなければ、東京に砲弾が撃ち込まれたでしょう。
そして、黒幕はおろか原因すら突き止められず、また日本は戦火に焼かれる未来を迎えたかも知れません。
まさか、父娘の差ほど年が離れた女性を好きになり、恋しく思うなど・・・想定外です。
✢✢✢◇◇◇✢✢✢
「千代さんは、喜んでいたが?」
一年前、順一から言われた言葉に、義孝は愕然とした。
「まさか」
「大丈夫だ、義孝。あの娘ならば・・きっと幸せになれる。いや、幸せにしてやってくれ」
深々と順一に、頭を下げられた。
「儂は、あの後妻さんを、誤解していたかも知れね」
不気味に感じた、あの笑顔。
だが、本当に花の幸せを願っていたのだとしたら?
「まぁ、許せね。花ぼうをしこたま傷つけたんだからな」
だが、花は許したいと泣いた。
愛されたいなら、まず、自分が相手を愛さなければ。
「私達は、どちらが先に惚れたんでしょうね?」
✢✢✢◇◇✢✢✢
花さん、会いたい。
今、とても会いたい。
もう、何年も会ってないような気がします。
今、シベリアの海を、ようやく離れます。予定では四ヶ月、早く花さんに会いたい。
✢✢✢◇◇✢✢✢
「あ、また蹴りました」
「まぁ、ずいぶん元気ですねぇ」
千代が優しく、お腹に手を置いた。
あ!
「蹴りましたねぇ」
「これ、おばあちゃんを蹴らないの」
「おばあちゃん、そう呼んでくれるんですね」
「はい」
「ありがとう、花さん」
千代の目に、涙が浮かんだ。
「花さんも、おばあちゃんって、呼んで下さいね」
「は・・・はい」
コクコクと頷いた。
「ふふ、おばあちゃんに格上げですねぇ」
「はい。格上げです」
家族が増える。
足りなくなった足音が、自分が母親となり、また元通りになる。
(義孝さん、幸せです。凄く凄く、幸せです。今度は可愛い足音も増えます)
笑い声が響く桐島邸。
義孝が戻り、赤ちゃんの声が加わり。賑やかな騒音が増える。
「早く、春にならないかなぁ」
青空を見上げて、花は笑った。
87
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる