身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)

二話『クリスマス』

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 深雪が、オホーツクの半ばを過ぎた。
 復員する日本人は普通食に変わり、皆が賑やかに食事する。

「明日は北海道に着きます。まず、最初の人をおろして。食糧を補充して、次に」
「青森に・・・」
 士官達に安堵の笑みが浮かぶ。
 予定より三ヶ月も早く、深雪は日本に到着する。

「今日は、十二月二十日か」
「横須賀には二十五日に着く予定ですかは、間に合いますよ」
「・・・ああ」

 花に会いたい。
 何度も思った。
 会って、抱きしめたいと。

「花さん」
 写真立ての花に、目を細めた。
「もうすぐ、帰ります」

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢

「時東さん、電報です」
「はーい」
 とことこ、花が歩く。
「ご苦労様です」
「予定日、いつですか?」
「年明けです」
「元気な赤ちゃん、生んでください」
「ありがとう」
 配達員と、こんなやり取りをする事が増えた。

 ―――十二月二十五日、横須賀に寄港する。

「二十五日!あと、五日!」
 ポン!と、またお腹を蹴る。
「ふふ、お父さんが帰ってくるよ」

 ニコニコしながら、花は千代に知らせる。

「まあ!ずいぶんと早いわね」
「はい。早いです」
「間に合いましたねぇ」
 二人で笑い合う。
「食材、集めないと」
「ええ、豪勢に」

 同じ頃、美沙も電報を読んでいた。
「ふ・・、帰ってくる?」
 涙がポタポタと落ちる。
「時致さん!」
 えぐ、としゃくり上げる。

   ✢✢✢◇◇✢✢✢
「横須賀だ!」
「やったぁ!」
 水兵達が飛び跳ねる。
「ありがとうございます」
 最後の日本人を下ろし、義孝達も海岸に降り立った。

 ――――花さん。
 
 駅の改札の向こう側に、涙目で立つ女性がいる。
「よ、義孝・・さん」
 ポタポタと、涙を零す。
「花さん!」

 ――――おかえりなさい!

 花がしゃくり上げる。
「ただいま、花さん」
 優しく抱きしめ、義孝は笑った。

「体調はいかがですか」
「すこぶる、いいです!」
「子供は?」
「毎日、蹴りまくっています」

 手を繋ぎ、自宅に向かう。
 他愛のない言葉を、噛みしめるように。

「予定日に間に合いましたね」
「はい」
「手紙を渡します」
「私も、見せ合いますか」
 ふふ、と笑い合う。
 くすぐったい。
 泣きたいくらいに、幸せだ。
「会いたかったです」
「私も、義孝さんに抱きしめて欲しくて」
 
 自宅に着くと、皆が笑った。

「おかえりなさい、旦那様」
「おかえりなせっ」
「ただいま帰りました」
「また、皆が一緒ですねぇ」
 
   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢

「はい、お手紙です」
 花は手紙の束を渡した。
「すごいですね!では、私からも」
「ふふ、いっぱいです」
 花が微笑んだ。
「では、読みましょうか」
「はい!」

 花はご機嫌で、手紙を読み進める。時に笑い、赤面して、泣きそうになる。
 花の百面相に、義孝は目を細めた。

「義孝さん」
「はい」
「私、幸せです。こんなに沢山の恋文、ありがとうございます」
「私こそ、ありがとうございます。今回、実感しました。いちもなら花さんの手紙があるのに、今回は無いのだなと」
 それは淋しく、心配な日々だった。体調に異変はないか、順調に育っているか。

 何より、手紙は花の愛情を感じられた。

「退屈で、休暇時間は過去の手紙を読み返していました」
「ふふ。私もです、暗記するくらいに。あんなこと、こんなことを思い返して。電報で旅行に誘われて、ワクワクドキドキしたことを」
「お互い様ですね」
 互いに片腕を伸ばして、抱き寄せ合う。

 ポン!

「今、蹴りましたか?」
「はい、蹴りました。こらぁ、お父さんを蹴っちゃだめよ」
「はは、お父さん・・・ですか」
「はい、義孝さんはお父さん、私はお母さんです」
 ふふ、と幸せそうに笑った。

「父親に、なるんですね、私は」
「はい、父親です。義孝さんは、きっと優しいお父さんになります。強くて優しくて、カッコいいお父さん」
「・・・」
「泣いてます?」
 幸せで、流れる涙もある。

 これまで花は、何度も経験した。涙は悲しみだけではなく、嬉しい時や幸せな時にも流れるのだと。

「もうすぐ、ですね」
 義孝が感慨深げに呟く。
「はい」
「怖くありませんか?」
「少し、怖いです。スイカを鼻から出す行為・・・って、言いますし」
「そうですね。女性は痛いことばかりですね。男は、まぁ」
 頰を染める義孝に、花は慌てる。
「え?痛いこと、ばかり!?」
 たしか消したはず。
 頰が熱い。
「いや、その・・・お産とか」
「え、えとっ」
 ぽぽ、と紅くなる。

 ――――すみません。

 ――――い、いえっ。

 恥ずかしい。
 手紙の書き損じを読まれたのかと、早合点した自分が恥ずかしい。
 だが、口にした義孝も、失言だと慌てる。

「でも、幸せな痛みです」
 花は呟く。
「どちらも、幸せな痛みです」
「・・・幸せ、ですか」
「愛しい人と結ばれた痛み、愛しい子を授かる痛み。どちらも、幸せな痛みです」
「照れますな」
「す、すみませんっ」
 額をくっつけて、笑い合った。

   ✢✢✢◇◇✢✢✢
「はい、プレゼントです」
 それは、小さな包み。
「これは?」
「今日は、クリスマスです。うちはクリスチャンじゃないですけど」
「・・・花さん。実は私も」
 鞄から小さな包みを出す。
「ありがとうございます!」
 
 二人で袋を開く。
「手袋ですね?」
 花が贈ったのは、黒の外観に白いファー内側の手袋だ。
「あ!義孝さんも」
 淡いピンクの手袋に、花は笑顔になる。
「小樽で見かけました。花さんに、似合いそうで」
「私も、義孝さんに似合いそうだから!」
「気が合いますね」
「はい」
 二人でまた、笑い合った。
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