身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

文字の大きさ
80 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)

三話『長女誕生』

しおりを挟む
 義孝と花が出会って、間もなく三度目の春が来る。

 不安いっぱいで、時東邸に嫁いだ花。すぐに追い出されると、怯えながら・・・。

 優しい義孝と千代に愛され、幸せな日々を過ごして。間もなく母になる。

「まだ、陣痛はないの?」
「はい。予定日は過ぎたんですけど、まだ」
「のんびりさんですねぇ」
 千代がお腹を撫でる。

 ―――ポン、ポン!

「あら、蹴りましたねぇ」
「また、おばあちゃんを蹴ってぇ」
 ふふ、と皆が笑う。
「お嬢様も、そうでした」
 鹿江の言葉に、重松が笑う。
「ああ、そうです。とんだ腕白か、お転婆さんだと」
「あらぁ」
「私も、蹴って?」
 ぽぽ、と頰を染める。
「おっとりした、娘かもしれませんね。賢い」
 義孝が目を細めた。

 正月が明けて、十日が過ぎた。
 義孝は後ろ髪が引かれる思いで、仕事に向かう。

「しばらくは、陸勤務ですが」
「その間に、出てくれるといいですねぇ」

 そんな話をしたあとだ。
「ちょっと、お手洗いに」
 よいしょ、花は立ち上がり。

 数分後、まだ厠から戻らない花を心配し、千代が外に出る。

「花さん」
 手洗い場にも姿はなく。
「花さん?」

「お義母・・・さん」
 壁にもたれ、汗びっしょりの花がいた。
「いだい」
 ふるふる、涙目の花がいた。

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢
「まだ、生まれないんすか」
 軍令部でも義孝の子供誕生は、首を長くして待ち望まれていた。
「ああ、まだだ」
「まぁ、初産の子はなかなか出てきませんから。うちも、そうでしたよ」
 杉田中佐が微笑んだ。
「そうなのか?」
「はい。長男には気を揉みました。まだなのか、まだなのか?だから、大丈夫です」
「そうか・・・ありがとう」
 杉田中佐の長男は、実に壮健で賢い子だ。それを知る義孝は、胸を撫で下ろす。
「中佐の長男を見れば、説得力があるな」
「でしょう?」
 くくっ、と笑った。

「まあ、気長に待つか」
 肩を竦めた。

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
「いだい」
 グスッ、と鼻を鳴らす。
「大丈夫よ、花さん。母は、つよし」
「はい」
 最初の陣痛があってから、三時間が経過した。感覚が狭くなり、もう生まれるのは近いと告げている。

 ――――いだい、義孝さん。

 どのくらい、時間が過ぎたのか。玄関が開く、ガラガラという音がした。

「あ、旦那様。ずいぶん、帰りが早いですね」 
 重松が玄関に向かうと、義孝がいた。
「ああ、今日は午後から休みに」
「あ、なるほど」
「どうしました?」
 双子が盥とお湯を手に、バタバタと廊下を走る。

「お産が始まりました」
「えっ!?」

 ――――いだぁ!

 悲鳴が響く。
 義孝の身体が、震え出す。

「情けない」
 時折、産褥から聞こえる悲鳴に、なす術がない。
「大丈夫、でしょうか」
「まぁ、男親なんて・・・やる事がありません」
 重松も、かつては父で夫だった。

「祈るだけです、無事を」
「はぁ」

 時間が無限に続く。
 泣き叫ぶような悲鳴が、何度も響く。

「早く、生まれてくれ」
 そう、呟いた直後だった。
「生まれました」
 双子の一人が、襖を開けた。

 おぎゃあ、おぎゃあ。

 それまで桐島邸になかった声が、元気に鳴り響く。
「女の子です!すっごく、美人の」
「旦那様、早く」
 重松に言われた義孝は、「あぁ」と、頷いた。

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
 恐る恐る、襖を開いた。
「花さん」
「あ、義孝さん」
 汗びっしょりで、花は微笑んだ。
「お疲れ様です」
「見て下さい、女の子です。目が、義孝さんに似ています。美人でしょ?」
「・・・たしかに、目は私に似ていますが」

 花に抱かれた赤ちゃんは、その大きな目をパチクリさせた。
「顔全体は花さん似ですね。ほっぺが丸くて」
「抱いてみますか?」
「え、大丈夫ですか?」
「はい。頸がすわってませんので、支えてくれれば」

 おっかなびっくり、義孝は腕を伸ばす。
「意外に、重いですね」
「はい、意外に大きいです」
「にしても・・・」

 ――――可愛い。

 義孝の言葉に、花が笑う。
「可愛いですよね。私、義孝さんに似てるなぁって」
「花さんに似ていると思いますが」
 義孝に続いて、千代が部屋に入る。
「ふふ、花さんに似て、可愛い」
「うーん、やっぱり私に似てます?私は義孝さん似だと」
「顔なんて、今から変わりますよ。私は、花さん似だと思うわ」

 小さな欠伸をする赤ちゃんに、三人が笑う。

「で、赤ちゃんの名前は?」
「これです」
 義孝が名前を書いた紙を出す。

「三春?」
「知り合って三回目の初春に生まれた子だから」
「なるほど!たしかに、うちに来た時は二月だったわ。で、去年の春に、今年の春で・・・みはるちゃんね」
 千代が微笑んだ。
「可愛い名前」
「美しい春もいいかと思いましたが」
「ふふ、三春。素敵じゃない」
「はい」

 はぁふ。
 また、欠伸をする娘に、花も欠伸をする。

「そろそろ、休ませてあげましょ?お産は消耗するわ」
「はい」
 千代が部屋をあとにする。
「ゆっくり、寝てください」
「はい」
 トロッとした瞳で、花が頷く。

「え」
「お疲れ様、本当にありがとう」
 義孝が抱きしめた。
「・・・はい」
「よく頑張りました」
「はい、頑張りました」
 ふふ、と花が笑った。

(出会いから三回目の春、私はお母さんになりました)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

処理中です...