身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)

三話『長女誕生』

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 義孝と花が出会って、間もなく三度目の春が来る。

 不安いっぱいで、時東邸に嫁いだ花。すぐに追い出されると、怯えながら・・・。

 優しい義孝と千代に愛され、幸せな日々を過ごして。間もなく母になる。

「まだ、陣痛はないの?」
「はい。予定日は過ぎたんですけど、まだ」
「のんびりさんですねぇ」
 千代がお腹を撫でる。

 ―――ポン、ポン!

「あら、蹴りましたねぇ」
「また、おばあちゃんを蹴ってぇ」
 ふふ、と皆が笑う。
「お嬢様も、そうでした」
 鹿江の言葉に、重松が笑う。
「ああ、そうです。とんだ腕白か、お転婆さんだと」
「あらぁ」
「私も、蹴って?」
 ぽぽ、と頰を染める。
「おっとりした、娘かもしれませんね。賢い」
 義孝が目を細めた。

 正月が明けて、十日が過ぎた。
 義孝は後ろ髪が引かれる思いで、仕事に向かう。

「しばらくは、陸勤務ですが」
「その間に、出てくれるといいですねぇ」

 そんな話をしたあとだ。
「ちょっと、お手洗いに」
 よいしょ、花は立ち上がり。

 数分後、まだ厠から戻らない花を心配し、千代が外に出る。

「花さん」
 手洗い場にも姿はなく。
「花さん?」

「お義母・・・さん」
 壁にもたれ、汗びっしょりの花がいた。
「いだい」
 ふるふる、涙目の花がいた。

   ✢✢✢◇◇◇✢✢✢
「まだ、生まれないんすか」
 軍令部でも義孝の子供誕生は、首を長くして待ち望まれていた。
「ああ、まだだ」
「まぁ、初産の子はなかなか出てきませんから。うちも、そうでしたよ」
 杉田中佐が微笑んだ。
「そうなのか?」
「はい。長男には気を揉みました。まだなのか、まだなのか?だから、大丈夫です」
「そうか・・・ありがとう」
 杉田中佐の長男は、実に壮健で賢い子だ。それを知る義孝は、胸を撫で下ろす。
「中佐の長男を見れば、説得力があるな」
「でしょう?」
 くくっ、と笑った。

「まあ、気長に待つか」
 肩を竦めた。

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
「いだい」
 グスッ、と鼻を鳴らす。
「大丈夫よ、花さん。母は、つよし」
「はい」
 最初の陣痛があってから、三時間が経過した。感覚が狭くなり、もう生まれるのは近いと告げている。

 ――――いだい、義孝さん。

 どのくらい、時間が過ぎたのか。玄関が開く、ガラガラという音がした。

「あ、旦那様。ずいぶん、帰りが早いですね」 
 重松が玄関に向かうと、義孝がいた。
「ああ、今日は午後から休みに」
「あ、なるほど」
「どうしました?」
 双子が盥とお湯を手に、バタバタと廊下を走る。

「お産が始まりました」
「えっ!?」

 ――――いだぁ!

 悲鳴が響く。
 義孝の身体が、震え出す。

「情けない」
 時折、産褥から聞こえる悲鳴に、なす術がない。
「大丈夫、でしょうか」
「まぁ、男親なんて・・・やる事がありません」
 重松も、かつては父で夫だった。

「祈るだけです、無事を」
「はぁ」

 時間が無限に続く。
 泣き叫ぶような悲鳴が、何度も響く。

「早く、生まれてくれ」
 そう、呟いた直後だった。
「生まれました」
 双子の一人が、襖を開けた。

 おぎゃあ、おぎゃあ。

 それまで桐島邸になかった声が、元気に鳴り響く。
「女の子です!すっごく、美人の」
「旦那様、早く」
 重松に言われた義孝は、「あぁ」と、頷いた。

    ✢✢✢◇◇✢✢✢
 恐る恐る、襖を開いた。
「花さん」
「あ、義孝さん」
 汗びっしょりで、花は微笑んだ。
「お疲れ様です」
「見て下さい、女の子です。目が、義孝さんに似ています。美人でしょ?」
「・・・たしかに、目は私に似ていますが」

 花に抱かれた赤ちゃんは、その大きな目をパチクリさせた。
「顔全体は花さん似ですね。ほっぺが丸くて」
「抱いてみますか?」
「え、大丈夫ですか?」
「はい。頸がすわってませんので、支えてくれれば」

 おっかなびっくり、義孝は腕を伸ばす。
「意外に、重いですね」
「はい、意外に大きいです」
「にしても・・・」

 ――――可愛い。

 義孝の言葉に、花が笑う。
「可愛いですよね。私、義孝さんに似てるなぁって」
「花さんに似ていると思いますが」
 義孝に続いて、千代が部屋に入る。
「ふふ、花さんに似て、可愛い」
「うーん、やっぱり私に似てます?私は義孝さん似だと」
「顔なんて、今から変わりますよ。私は、花さん似だと思うわ」

 小さな欠伸をする赤ちゃんに、三人が笑う。

「で、赤ちゃんの名前は?」
「これです」
 義孝が名前を書いた紙を出す。

「三春?」
「知り合って三回目の初春に生まれた子だから」
「なるほど!たしかに、うちに来た時は二月だったわ。で、去年の春に、今年の春で・・・みはるちゃんね」
 千代が微笑んだ。
「可愛い名前」
「美しい春もいいかと思いましたが」
「ふふ、三春。素敵じゃない」
「はい」

 はぁふ。
 また、欠伸をする娘に、花も欠伸をする。

「そろそろ、休ませてあげましょ?お産は消耗するわ」
「はい」
 千代が部屋をあとにする。
「ゆっくり、寝てください」
「はい」
 トロッとした瞳で、花が頷く。

「え」
「お疲れ様、本当にありがとう」
 義孝が抱きしめた。
「・・・はい」
「よく頑張りました」
「はい、頑張りました」
 ふふ、と花が笑った。

(出会いから三回目の春、私はお母さんになりました)
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