身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

十二話『真意』

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 褒められれば天狗になる者もいるが、花はそうではないようだ。どこか居心地が悪そうに、顔が俯く。
 けして嫌という訳ではないのだろう、だが、まるで褒められることに慣れていないかの様だった。
 海軍の新兵にも、時々、そういう者がいる。そのような新兵に対して義孝は、『褒め言葉は素直に受け取れ』と言っていた。だが、花に対しては、同じように振る舞うわけにもいかない。
 義孝は少し考えた。焦る必要も、急ぐ必要もない。
「・・・そういえば、花さんは医学書を趣味で読んでいたと言っていましたが、本の内容を全て覚えてしまっていると、母から聞きましたよ」
「それは・・何度も読み返したもので」
「でも、なかなかできることではありません。例えば、私が仕事で同じように覚えろと命じられても、さすがに無理でしょうね」
 それから冗談を言うように、義孝は微笑んだ。それから花の隣に立ち、食器棚に手を伸ばす。
「焼き物のことでも、大して知識のないままですからね」
「そうなのですか?」
「ほとんどが、直感でいいなぁと思った物を買っているだけです。今夜は焼魚ですか?香ばしさに、なにか、ほのかに爽やかな香りも混じっている気がしますが・・・これは、柚子の香りですか?」
「え―――は、はい、そうです。鰆の幽庵焼きです」
「ほう、それは美味そうだ」
「それから、大根と烏賊の煮物、豆腐田楽に、菜の花のお浸し・・・香の物があります」
「では、このあたりの食器でいかがでしょう」
 言って、義孝は食器棚の中から、今晩の料理を並べる為に必要になりそうな皿や小鉢を取り出し、花に見せた。
「あ、ありがとうございます。では、そちらを使いますね。すみません、義孝さんのお手を煩わせてしまって」
「いえ、手伝いに来たのです。母が倒れてしまって、手が足りないでしょ?」
 義孝は手にした皿を差し出した。それを受け取り、花ははにかむように笑った。
「・・・・ありがとうございます」

 千代におにぎりを届けてから、花は居間へと向かった。
「よろしければ、花さんの話を聞かせてください」
 料理を並べたちゃぶ台を挟んで、義孝が言った。花はご飯をよそった茶碗を持ったまま、目をぱちくりさせた。
「私の話、ですか?」
「はい、これまで貴女が実家でご家族と、どのように過ごされてきたのか。物心つく頃から、どのように生きてきたのか―――結婚相手のことを知りたいのです」
 花にとって、一番聞かれるのを恐れていた事だった。義妹の聡美のことを知れば、追い返されるのでは?と恐れてきた。
 胃のあたりが、スッと冷たくなるのを感じる。
「も・・・申し訳ありません!」
 花は平伏した。
「な、なぜ、謝るのですか?あ、ああ、話したくないことでしたか?それなら、知らないこととはいえ、すみません」
「え?」

 知らない?
 聡美の事を知って、怒っているのでは?

「あの、義孝さんは私の事情を全て知って、話しをしたのでは?」
「花さんにどんな事情があるのかは、私は知りません。ただ、興味から訊ねました」
 釦の掛け違い、という言葉がある。自分に疚しい気持ちがあるから、そう感じただけで、義孝には他意はなかったのだ。
 花は俯いていた顔を、ゆっくりあげた。
(お話した方がいいのかも知れない。例えばそれで、縁談が白紙になっても)

「全てを、お話します」
 それを皮切りに、花は自分の生い立ちについて話した。

 父の再婚で、継母と義妹が桐島家に来たこと。使用人として働かされ、女学校に行っていないこと。
 財産は全て、二人が散財したこと。そして、結納金を手にしたいが為に、義妹が縁談を嫌がり自分を寄越したことを話した。

 花の身体が、小さく震える。
「義孝さんは令嬢との結婚を望んでいると、継母から聞きました。本当なら私ではなく、きちんと育てられた、義妹が来るべきだと」
「たしかに、仲人は桐島家の令嬢との縁談を希望しました」
「はい。もし、義孝さんが今の話を聞いて、結婚を取りやめたいと仰るなら、私は潔く身を引きます。昨日のうちに話すべきでしたのに、すみません」
「婚約を取りやめると言っても、すでに結納金は支払っていますし。実質、結納は執り行われた、と言うことになります」
「―――はい」
「ですが、桐島家からは袴返しをされておりませんしね」」
「!」
 袴返しとは、結納金の一部で新郎の袴を買って渡すこと。一般にはそれが、結婚のお約束ごとだが、貴子はそれさえしておらず、恥ずべきことこの上ない。
「申し訳ありません。時間がかかるかと思いますが、私が用立てます」
「ふむ、しかし―――結構な額です。返し終える前に、私は命が尽きるやも」
 やはり、自分は無力だ。
 返済のあてなど、有はしない。涙がこぼれ落ちる。泣きたいのは義孝であり、自分が泣くのは筋違いだ。
 だが、一度流れ出した涙は、用意には止まることはなかった。
「花さん」
 気づけば、義孝が目の前にいた。涙でボヤける視界の向う側に、義孝が着物の袖で涙を受け止めてくれていた。
「すみません、泣かせるつもりはありませんでした。真実を話しただけで、責めるつもりはありません」
「い、いえ」
「つまり、先程の話を説明すると、私は婚約を取り消す気はありませんということです」

 義孝の言葉に、花は涙が止まった。

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