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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
二十二話『手作り弁当』
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「あ、義孝さん。お仕事中にお呼び立てしてしまい、申し訳ございません」
頭を下げる花に、義孝は気にしなくていないと首を振る。
「構いませんが、どうしました?何かあったのですか?」
「いえ、何かあった訳ではないのですが・・・実は、お義母さんに義孝さんに、お弁当を届けるように仰せつかったのです」
「弁当?母からですか」
義孝は首を傾ける。弁当は準備に手間がかかるし、海軍司令部のある庁舎には食堂もある。
普段、義孝はその食堂で昼食は済ませているのだが、千代もそのことは知っている筈だ。
「いえ・・・・作ったのは、私です」
「花さんが?」
「はい、私が――――」
そこまで言って、花ははたと何かに気づいたように固まる。
「―――あの、もしかして、ご迷惑でしたか?帰りの、お荷物になってしまいますし」
「いえ、滅相もない」
義孝は花の手から弁当を受け取る。それから、にこりと花に笑いかけた。
「嬉しいです。とても」
「ああ、それなら良かった・・・では、私はこれで。失礼します」
「花さん、待ってください」
仕事の邪魔をせぬ配慮からか、早々に立ち去ろうとする。それを呼び止めて、義孝は弁当を落とさぬように、両手で持ち上げる。
「ありがとうございました。これ、大事に食べますね」
その言葉に、花は恥らうように微笑む。そうして会釈をして立ち去る花の後ろ姿を、義孝は見送った。
(家まで送っていきたい。・・・と、いかんいかん。仕事中だ)
自然と湧いてきた過保護な気持ちを振り払い、弁当を手に副官室へと戻る。ちょうど昼食をとる時分だったので、執務室に帰り着いた義孝は、早速、花の弁当を開けることにした。
「どれどれ」
二段重の一段目の蓋を開ける。
大きめの握り飯が三つに、漬物が添えてある。
二段目にはブリの照焼、豆腐に卵や野菜を入れて蒸した擬製豆腐。三つ葉の胡麻和えなどが並んでいる。
「これは、想いがけず豪華な昼食になったな」
思わず微笑む。握り飯に手を伸ばし、一つはシンプルな塩味、二つ目は梅干し、最後の一つは塩鮭。
義孝はおかずを摘みながら、握り飯を頬張る。花が炊く米が美味いことは、日々の食事からとうに知ったこと。
それでも、固くもなくもろくもない絶妙な握り加減、味の塩梅が義孝の食欲を増進させた。
おかずも、冷めても美味しいように味付け工夫されている。だが、それらがすでに自分の舌に馴染んでいる。そのことに、義孝は改めて思い至る。
花の手料理は、千代とはまた違うものだ。千代の味以上に、妙にしっくり来るのが自宅での食事の度に不思議だった。
それは、弁当になっても変わらない、食が進む。何より花がわざわざ作って持って来てくれた物である。味も然ることながら、その事実が義孝には嬉しかった。
ほのかに胸に滲み出てきたその喜びを噛み締めながら食べていると、思わず頬も緩んでくる。
「・・・・子供のようだな」
花の目に、自分はどの様に映ったんだろうか。無意識に弁当にはしゃいだり、義孝は少し心配になる。
(義孝さん、かっこよかったな)
洗濯物を畳んでいた花は、手を止めて、ほうと息を吐く。軍司令部に弁当を届けたのが、先ほどのこと。そこで見た義孝の姿を思い出し、漏れた溜息だった。
義孝は毎日、スーツを着て出勤する。だから花が義孝の軍服姿を見たのは、今日が初めてだ。
かれが海軍の高級将校だとは、花も分かっていたのに。軍服をまとった、彼の姿に見惚れた。
(・・・私が、義孝さんの結婚相手で本当にいいのかしら?)
もし義孝に問えば、勿論だと想定してくれるだろう。だが、花にはそれが申し訳ない。彼の優しさが言わせた言葉なのではと、きっと考えてしまう。
妻として、相応しい人間になろう、そう決めたのに。自信がない、それ故に揺らいでしまう。
「花さん?暗い顔をして、どうしたんですか?」
背後から問いかける千代の声に、花は悩みが絡み合う思考の底から浮上する。
千代が、こちらを見ていた。
「先ほど、お義母さんに言われたように、義孝さんにお弁当を届けて軍司令部へと行ってまいりました。私、義孝さんの軍服姿を、初めて拝見いたしました」
「あら、初めてだったのね。そう言えば、義孝は軍服を着て帰ったことはないわね。それで」
「義孝さんは・・・御立派な方だと、改めて思いました。思い知ったというか」
花が話しているうちに、千代の目が、ほのかに険しくなる。
「花さん。もしかして、義孝が怖かった?」
千代の言葉に、花はキョトンとする。
「え・・・?」
「あの子が偉そうな態度だったとか・・・それとも、軍司令部の人達に嫌な対応をさせたとか」
「いえ、義孝さんはとても素敵でした。軍司令部でも、嫌なことなどは特に」
「では、なぜそんな暗い顔を・・・はっ、まさか、お弁当をお弁当を届けさせたのが嫌だったとか?」
義孝の職場へ弁当を持って行ってーーーーそう提案したのは、千代だった。それは、義孝のことをもっと知ってもらおうという、息子の妻になる者に対する気遣いだった。花自身も、それは理解していた。
「い、いいえ!そんなことはありません。むしろ義孝さんの職場を拝見する機会を頂けて嬉しかったです」
「ああ、それならよかった。暗い顔をしていたから、てっきり、嫌なことでもあったのかと・・・」
否定する花に、千代はほっとしたように息をついた。その様子に、花は慌てて説明する。
「そ、その、先程悩んでいたのは・・・実は、軍司令部でお会いした義孝さんが、あまりにも立派なお姿だったので。自分が義孝さんの妻として、相応しくないのではと思って」
「ええっ?嫌ですよ、花さんたら・・・」
話を聞いて、千代は声を大きくした、びっくりしたらしい。
花も驚いて目を丸くした。千代がこんなに声を上げたのは、腰を痛めた時以来だったからだ。驚いた拍子に再び腰を痛めてしまうのでは、とはらはらする花をよそに、千代は花の目をじっと見た。
「あのね、花さん」
「はい」
真剣な義母の眼差しに、自然と花の姿勢もよくなる。
「今でこそ、海軍で立派な将校さんだけど、あの子も最初から立派じゃないの」
千代は義孝の幼少の頃やらを話した。
頭を下げる花に、義孝は気にしなくていないと首を振る。
「構いませんが、どうしました?何かあったのですか?」
「いえ、何かあった訳ではないのですが・・・実は、お義母さんに義孝さんに、お弁当を届けるように仰せつかったのです」
「弁当?母からですか」
義孝は首を傾ける。弁当は準備に手間がかかるし、海軍司令部のある庁舎には食堂もある。
普段、義孝はその食堂で昼食は済ませているのだが、千代もそのことは知っている筈だ。
「いえ・・・・作ったのは、私です」
「花さんが?」
「はい、私が――――」
そこまで言って、花ははたと何かに気づいたように固まる。
「―――あの、もしかして、ご迷惑でしたか?帰りの、お荷物になってしまいますし」
「いえ、滅相もない」
義孝は花の手から弁当を受け取る。それから、にこりと花に笑いかけた。
「嬉しいです。とても」
「ああ、それなら良かった・・・では、私はこれで。失礼します」
「花さん、待ってください」
仕事の邪魔をせぬ配慮からか、早々に立ち去ろうとする。それを呼び止めて、義孝は弁当を落とさぬように、両手で持ち上げる。
「ありがとうございました。これ、大事に食べますね」
その言葉に、花は恥らうように微笑む。そうして会釈をして立ち去る花の後ろ姿を、義孝は見送った。
(家まで送っていきたい。・・・と、いかんいかん。仕事中だ)
自然と湧いてきた過保護な気持ちを振り払い、弁当を手に副官室へと戻る。ちょうど昼食をとる時分だったので、執務室に帰り着いた義孝は、早速、花の弁当を開けることにした。
「どれどれ」
二段重の一段目の蓋を開ける。
大きめの握り飯が三つに、漬物が添えてある。
二段目にはブリの照焼、豆腐に卵や野菜を入れて蒸した擬製豆腐。三つ葉の胡麻和えなどが並んでいる。
「これは、想いがけず豪華な昼食になったな」
思わず微笑む。握り飯に手を伸ばし、一つはシンプルな塩味、二つ目は梅干し、最後の一つは塩鮭。
義孝はおかずを摘みながら、握り飯を頬張る。花が炊く米が美味いことは、日々の食事からとうに知ったこと。
それでも、固くもなくもろくもない絶妙な握り加減、味の塩梅が義孝の食欲を増進させた。
おかずも、冷めても美味しいように味付け工夫されている。だが、それらがすでに自分の舌に馴染んでいる。そのことに、義孝は改めて思い至る。
花の手料理は、千代とはまた違うものだ。千代の味以上に、妙にしっくり来るのが自宅での食事の度に不思議だった。
それは、弁当になっても変わらない、食が進む。何より花がわざわざ作って持って来てくれた物である。味も然ることながら、その事実が義孝には嬉しかった。
ほのかに胸に滲み出てきたその喜びを噛み締めながら食べていると、思わず頬も緩んでくる。
「・・・・子供のようだな」
花の目に、自分はどの様に映ったんだろうか。無意識に弁当にはしゃいだり、義孝は少し心配になる。
(義孝さん、かっこよかったな)
洗濯物を畳んでいた花は、手を止めて、ほうと息を吐く。軍司令部に弁当を届けたのが、先ほどのこと。そこで見た義孝の姿を思い出し、漏れた溜息だった。
義孝は毎日、スーツを着て出勤する。だから花が義孝の軍服姿を見たのは、今日が初めてだ。
かれが海軍の高級将校だとは、花も分かっていたのに。軍服をまとった、彼の姿に見惚れた。
(・・・私が、義孝さんの結婚相手で本当にいいのかしら?)
もし義孝に問えば、勿論だと想定してくれるだろう。だが、花にはそれが申し訳ない。彼の優しさが言わせた言葉なのではと、きっと考えてしまう。
妻として、相応しい人間になろう、そう決めたのに。自信がない、それ故に揺らいでしまう。
「花さん?暗い顔をして、どうしたんですか?」
背後から問いかける千代の声に、花は悩みが絡み合う思考の底から浮上する。
千代が、こちらを見ていた。
「先ほど、お義母さんに言われたように、義孝さんにお弁当を届けて軍司令部へと行ってまいりました。私、義孝さんの軍服姿を、初めて拝見いたしました」
「あら、初めてだったのね。そう言えば、義孝は軍服を着て帰ったことはないわね。それで」
「義孝さんは・・・御立派な方だと、改めて思いました。思い知ったというか」
花が話しているうちに、千代の目が、ほのかに険しくなる。
「花さん。もしかして、義孝が怖かった?」
千代の言葉に、花はキョトンとする。
「え・・・?」
「あの子が偉そうな態度だったとか・・・それとも、軍司令部の人達に嫌な対応をさせたとか」
「いえ、義孝さんはとても素敵でした。軍司令部でも、嫌なことなどは特に」
「では、なぜそんな暗い顔を・・・はっ、まさか、お弁当をお弁当を届けさせたのが嫌だったとか?」
義孝の職場へ弁当を持って行ってーーーーそう提案したのは、千代だった。それは、義孝のことをもっと知ってもらおうという、息子の妻になる者に対する気遣いだった。花自身も、それは理解していた。
「い、いいえ!そんなことはありません。むしろ義孝さんの職場を拝見する機会を頂けて嬉しかったです」
「ああ、それならよかった。暗い顔をしていたから、てっきり、嫌なことでもあったのかと・・・」
否定する花に、千代はほっとしたように息をついた。その様子に、花は慌てて説明する。
「そ、その、先程悩んでいたのは・・・実は、軍司令部でお会いした義孝さんが、あまりにも立派なお姿だったので。自分が義孝さんの妻として、相応しくないのではと思って」
「ええっ?嫌ですよ、花さんたら・・・」
話を聞いて、千代は声を大きくした、びっくりしたらしい。
花も驚いて目を丸くした。千代がこんなに声を上げたのは、腰を痛めた時以来だったからだ。驚いた拍子に再び腰を痛めてしまうのでは、とはらはらする花をよそに、千代は花の目をじっと見た。
「あのね、花さん」
「はい」
真剣な義母の眼差しに、自然と花の姿勢もよくなる。
「今でこそ、海軍で立派な将校さんだけど、あの子も最初から立派じゃないの」
千代は義孝の幼少の頃やらを話した。
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