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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
二十四話『恋に年齢は関係ない』
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継母の目を避けて手紙を届けてくれた者によれば、健康上の問題などはなく暮らしてはいるようだった。だが、時東家に迷惑をかけぬようにと返事を寄越さないらしい。
花は、そんな鹿江の気持ちを受け取ることにした。
今後もきっと、鹿江をはじめ、家族のように接してくれた使用人達のことを忘れることは決してない。
だが、桐島家から出た者として、徐々に気持ちを切り替えようと努めていた。
今の花には、守るべき新しい家がある。
胸が切なくなるような寂しさは当然あったが、それが巣立ちという物なのだろう。
帝都を彩る桜はあっという間に散り、葉桜も終わって、気づけば紫陽花が咲く頃になった。
海軍司令部で義孝達が着ている軍服も、冬の海のような深い紺色から夏空を漂う雲のように、冴え冴えとした白へと変わっている。
副官室での仕事の合間にひと息ついた義孝は、毎日持参するようになった花の弁当を広げながら、ふと頃合いではと思い出した。
婚約の申請から、かれこれ三ヶ月が経とうとしている。
しかし、未だに許可は下りていなかった。
(大臣達が多忙なのだろうか)
こういった、いつもと違う流れを感じる時、不意に過るのが戦争のこと。とはいえ、海軍大臣などから、そのような通達も無ければ、中将の様子から特に切迫している感じもない。
部下達の間からも、そのような噂は特に聞こえてこない。
(・・・各々に忙しいだけなら、良いのだが)
何となく妙な予感を覚えるも、それがなぜなのかは義孝には分からない。
むしろ、己が花との関係を急いでいるだけなのかも知れない。許可が下りれば正式に婚約、次は結婚なのだ。
(こうしている間にも、許可が下りるかも知れん。・・・式についてはどうするか、帰宅後に花さんと相談しておくとするか)
結婚式と言えば、両家の親族が集って婚礼の儀式を行うのが一般的だ。
十数年前に宮中賢所にて行われた帝のご成婚は、神前式にて執り行われた。が、未だに結婚式というものは、新しい概念であって市井には浸透しきっていない。
(花さんの事情を鑑みれば、主流に倣うこともないだろう)
いずれにせよ、本人の意思を尊重したい、と義孝は考えている。
が、婚礼に際し、一つ、義孝には大きな問題がある。
(さすがに、中将に酒を飲ませるわけにはいかんな)
中将は現職場の、直属の上司である。それだけでなく、今の自宅を貸してくれたり。生活に必要な品を用立ててくれたりと、世話を焼いてくれている大恩人だ。
しかし、同時に酒癖の悪さに関しては天下一品の御仁でもある。
結婚式のような祝の場に呼ぶのは当然として、酒を振る舞わぬ訳にもいかない。なんなら、義孝の側が用意せずとも、中将自ら持ち込む可能性が高い。
さて、どうしたものか。義孝が弁当を食べながら、考えていた時、部屋の扉がノックされた。
「失礼します」
扉を開けた部下が一礼した。
義孝は弁当に蓋をして、傍らに除ける。
「お食事中に申し訳ありません。第二局より書類をお持ちしました」
「構わんよ、ご苦労」
「そちらの弁当は、奥様の手作りですか?」
義孝が書類を受け取ると、部下が話しかけてきた。急ぎの用件ではない時、こうして話しかけて来る部下が増えた。
風通しが良くなってきている証拠だと、義孝は嬉しく思っているが、内容が花のことなので、こそばゆい気持ちになる。
「まだ、奥さんではないな。婚約も申請待ちの段階だ」
「しかし、婚約前とはいえ、仲睦まじいご様子。羨ましいです」
その部下は、はにかむように口元を綻ばせる。花は極希に、義孝への用事で軍司令部にやって来る。
その時の二人の様子を、この部下は見ていたのかもしれない。
「・・・仲睦まじく見えたか?」
「はい。初々しくて恋人同士のようです」
「私が浮かれて見えるか」
「いえ、その様なことはありません、気分を害されたのでしたら」
「いいや、君の言う通りだ」
失言だと思い慌てて弁明しようとした部下に、義孝は緩く首を振る。キョトンとする部下。
「外からそのように見えていのだ、今更隠すまでもない。まったく、年甲斐もなく気ばかり急いでいて嫌になるよ」
「大佐、お言葉ですが、年齢は関係ないかと思います」
「君はそう思うか」
「はい、身内の話で恐縮ですが。私の祖父母は互いに長寿でして、晩年になっても出会った頃のような、初々しさで連れ添っておりました。端で見ていた、孫の私のほうが恥ずかしくなる程で・・・年甲斐という点では、祖父母のほうがなかったと思います」
「それは、微笑ましい話しだな」
「微笑ましいのは、大佐ですよ。あっ、いえ・・・調子に乗ってしまいました」
「構わんよ、むしろ気さくに話してもらえてありがたい。部下と話す機会があまりなくてな。目下の課題としていたところだ」
「時東大佐にも、課題などあるのですか?」
「何を言う、山積みだ」
はは、と部下は苦笑した。そんな気さくな義孝の態度に、部下もそれまで以上に肩の力が抜けたらしい。
「時東大佐が、こんなにも話しやすい方だとは、知りませんでした」
「君から見て、私はどう見えていたんだ」
「敵艦を容赦なく海に沈める、海神の化身だと・・・その様な噂を耳にしておりましたもので」
「まあ、噂には尾ひれが付くものだからな」
義孝は誤魔化すように笑った。
「」
花は、そんな鹿江の気持ちを受け取ることにした。
今後もきっと、鹿江をはじめ、家族のように接してくれた使用人達のことを忘れることは決してない。
だが、桐島家から出た者として、徐々に気持ちを切り替えようと努めていた。
今の花には、守るべき新しい家がある。
胸が切なくなるような寂しさは当然あったが、それが巣立ちという物なのだろう。
帝都を彩る桜はあっという間に散り、葉桜も終わって、気づけば紫陽花が咲く頃になった。
海軍司令部で義孝達が着ている軍服も、冬の海のような深い紺色から夏空を漂う雲のように、冴え冴えとした白へと変わっている。
副官室での仕事の合間にひと息ついた義孝は、毎日持参するようになった花の弁当を広げながら、ふと頃合いではと思い出した。
婚約の申請から、かれこれ三ヶ月が経とうとしている。
しかし、未だに許可は下りていなかった。
(大臣達が多忙なのだろうか)
こういった、いつもと違う流れを感じる時、不意に過るのが戦争のこと。とはいえ、海軍大臣などから、そのような通達も無ければ、中将の様子から特に切迫している感じもない。
部下達の間からも、そのような噂は特に聞こえてこない。
(・・・各々に忙しいだけなら、良いのだが)
何となく妙な予感を覚えるも、それがなぜなのかは義孝には分からない。
むしろ、己が花との関係を急いでいるだけなのかも知れない。許可が下りれば正式に婚約、次は結婚なのだ。
(こうしている間にも、許可が下りるかも知れん。・・・式についてはどうするか、帰宅後に花さんと相談しておくとするか)
結婚式と言えば、両家の親族が集って婚礼の儀式を行うのが一般的だ。
十数年前に宮中賢所にて行われた帝のご成婚は、神前式にて執り行われた。が、未だに結婚式というものは、新しい概念であって市井には浸透しきっていない。
(花さんの事情を鑑みれば、主流に倣うこともないだろう)
いずれにせよ、本人の意思を尊重したい、と義孝は考えている。
が、婚礼に際し、一つ、義孝には大きな問題がある。
(さすがに、中将に酒を飲ませるわけにはいかんな)
中将は現職場の、直属の上司である。それだけでなく、今の自宅を貸してくれたり。生活に必要な品を用立ててくれたりと、世話を焼いてくれている大恩人だ。
しかし、同時に酒癖の悪さに関しては天下一品の御仁でもある。
結婚式のような祝の場に呼ぶのは当然として、酒を振る舞わぬ訳にもいかない。なんなら、義孝の側が用意せずとも、中将自ら持ち込む可能性が高い。
さて、どうしたものか。義孝が弁当を食べながら、考えていた時、部屋の扉がノックされた。
「失礼します」
扉を開けた部下が一礼した。
義孝は弁当に蓋をして、傍らに除ける。
「お食事中に申し訳ありません。第二局より書類をお持ちしました」
「構わんよ、ご苦労」
「そちらの弁当は、奥様の手作りですか?」
義孝が書類を受け取ると、部下が話しかけてきた。急ぎの用件ではない時、こうして話しかけて来る部下が増えた。
風通しが良くなってきている証拠だと、義孝は嬉しく思っているが、内容が花のことなので、こそばゆい気持ちになる。
「まだ、奥さんではないな。婚約も申請待ちの段階だ」
「しかし、婚約前とはいえ、仲睦まじいご様子。羨ましいです」
その部下は、はにかむように口元を綻ばせる。花は極希に、義孝への用事で軍司令部にやって来る。
その時の二人の様子を、この部下は見ていたのかもしれない。
「・・・仲睦まじく見えたか?」
「はい。初々しくて恋人同士のようです」
「私が浮かれて見えるか」
「いえ、その様なことはありません、気分を害されたのでしたら」
「いいや、君の言う通りだ」
失言だと思い慌てて弁明しようとした部下に、義孝は緩く首を振る。キョトンとする部下。
「外からそのように見えていのだ、今更隠すまでもない。まったく、年甲斐もなく気ばかり急いでいて嫌になるよ」
「大佐、お言葉ですが、年齢は関係ないかと思います」
「君はそう思うか」
「はい、身内の話で恐縮ですが。私の祖父母は互いに長寿でして、晩年になっても出会った頃のような、初々しさで連れ添っておりました。端で見ていた、孫の私のほうが恥ずかしくなる程で・・・年甲斐という点では、祖父母のほうがなかったと思います」
「それは、微笑ましい話しだな」
「微笑ましいのは、大佐ですよ。あっ、いえ・・・調子に乗ってしまいました」
「構わんよ、むしろ気さくに話してもらえてありがたい。部下と話す機会があまりなくてな。目下の課題としていたところだ」
「時東大佐にも、課題などあるのですか?」
「何を言う、山積みだ」
はは、と部下は苦笑した。そんな気さくな義孝の態度に、部下もそれまで以上に肩の力が抜けたらしい。
「時東大佐が、こんなにも話しやすい方だとは、知りませんでした」
「君から見て、私はどう見えていたんだ」
「敵艦を容赦なく海に沈める、海神の化身だと・・・その様な噂を耳にしておりましたもので」
「まあ、噂には尾ひれが付くものだからな」
義孝は誤魔化すように笑った。
「」
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