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前編
「憑依されてみたい」
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最近授業中のりんは基本的におとなしくしている。最初は◯✖ゲームだのしりとりだの授業中にせがんできたが、最近はそんなことはない。ただし……今日のりんは花宮にちょっかいをかけていて、そのたびに花宮が横にいるりんに向かって唇に人差し指を立てて「シーッ」のポーズをしていた。その花宮の姿がとても可憐で絵になっていて、俺は後ろから見とれていた。俺の横では雄介が、そんな花宮の様子を不思議そうに眺めていたが。
昼食を食べた後の午後の授業は、やはり基本的に眠たくなる。俺はよく居眠りをしてしまうのだが、その度に『ちょっとナオ、起きなさいよ!』とよく起こされる。横を見ると雄介は机に伏せて爆睡中だった。
『あーもう、エロメガネくんお疲れだね。綺麗なお姉さんとエッチなことばっかりしてるからかな? ねえナオ、エロメガネくんに憑依していい? 机の上で豊作祈願の踊りでもしたら目が覚めると思うよ』
「絶対やめろよ」それこそクラス中パニックになる。前の席で花宮はそれを聞いて、肩を小刻みに震わせて笑いをこらえていた。
そんな俺たちの日常は、しばらく続いた。以前と違うのは、花宮がりんの存在を認識できるようになったことだ。もちろん雄介はりんの存在に気がつかないので、俺も花宮もその辺は気を使わなければいけない。逆にスリルがあって、楽しいこともある。
花宮とりんは、ますます仲良くなっていった。そのお陰もあって、花宮は俺の部屋に連日来るようになっていた。それはそれで俺にとっても嬉しいことなのだが……花宮は俺と一緒にというよりは、りんと一緒に過ごしたいという気持ちが強いのは明らかだった。なので残念ながら俺と花宮が「甘い雰囲気」になることは全然なかった。そりゃありんも一緒にいるわけだし、残念だが仕方ないだろう。
そんな毎日が続いた中で……今日の花宮は、俺の部屋で神妙な面持ちをしていた。
「花宮、本当に大丈夫か?」
『琴ちゃん、本当にいいの?』
「うん、一回やってみたいんだ。でも……最初だから短い時間にしてね」
「ああ。もし何かあったら、俺が『気』を飛ばしてりんを外に追い出すから」
「うん、お願いね」
花宮は何をするつもりかというと……数日前、花宮からこんな申し出があった。
「私もりんちゃんに、憑依されてみたい」
好奇心旺盛というのも困りものだが、花宮は霊体に「憑依された状態」というのがどんな感じなのか、体験してみたいらしい。憑依されたときの意識はどうなるのか、感覚がどうなるのか、自分で経験してみたいという。
俺もりんも心配したが、花宮はどうしてもと譲らない。仕方ないので俺も折れて「このアパートで短時間だったら」という条件付きで、受け入れることにした。この部屋の中であれば、何か起こっても俺は対処ができる。裏を返すと……花宮は俺のことを100%信頼してくれているということだ。その信頼を裏切ってはいけない。
『じゃあ琴ちゃん、準備はいい?』
「うん……ちょっと緊張するけど、大丈夫」
花宮はそう言って一つ深呼吸してから、そっと目を閉じる。りんが俺の方を見たので、俺はゆっくり頷く。
『じゃあ琴ちゃん、お邪魔します』
りんは花宮の背後に周り、その体をゆっくりと花宮の体に重ねる。次の瞬間花宮は体を小さくピクッとさせると、そっと目を開けた。りんはいつものように、あっという間に憑依してしまった。
「うわぁ……」
りんがちょっと不快そうな声を出す。
「どうした、りん? なにか問題があるのか?」
「うん、ちょっと……」
「ちょっと何だ?」
「ブラがきつい」
「……憑依して最初のセリフがそれかよ」
「だから琴ちゃん、サイズが合ってないんだって。これじゃあ呼吸だって苦しいはず……えっ?」
「なんだよ、今度はどうした?」
「琴ちゃん、意識あるって」
「……なんだって?」
「『もう、恥ずかしいこといわないでよ!』って文句言ってる」
「意識を持っていかれてないのか?」
俺はにわかには信じられなかった。花宮の持っている霊能力が、それを可能にしているんだろうが……普通はりんほどの霊力が強い霊体に憑依されたら、体も意識も持っていかれるはずだ。
「あーでも……体は動かせないみたい」
「そりゃそうだろ。霊体の制御はかなりの霊能力がないと無理だ。ところで……りんは今、念話で花宮と会話ができてるってことか?」
「うん、普通にできてるよ。ねっ、琴ちゃん……あ、でもナオはひょっとして琴ちゃんの声が聞こえないの?」
「あたりまえだ。花宮は霊体じゃなくて人間だぞ。そんなテレパシーみたいなことはできない。それより……花宮の意識があるってことは、感覚共有もできてるってことなのか?」
俺がそう言うと、りんは自分のほっぺたをおもむろに抓った。
「『痛い』って」
「……確認方法が古典的だな」
「でも感覚共有ができるんだったらさ。アタシ、琴ちゃんと一緒にアイス食べてもいいよね?」
りんは呑気なことを言っているが……俺は驚きを隠せない。花宮にも霊能者としての資質が少なくとも環奈先生レベル、いやおそらくそれ以上の能力があるということだろう。
昼食を食べた後の午後の授業は、やはり基本的に眠たくなる。俺はよく居眠りをしてしまうのだが、その度に『ちょっとナオ、起きなさいよ!』とよく起こされる。横を見ると雄介は机に伏せて爆睡中だった。
『あーもう、エロメガネくんお疲れだね。綺麗なお姉さんとエッチなことばっかりしてるからかな? ねえナオ、エロメガネくんに憑依していい? 机の上で豊作祈願の踊りでもしたら目が覚めると思うよ』
「絶対やめろよ」それこそクラス中パニックになる。前の席で花宮はそれを聞いて、肩を小刻みに震わせて笑いをこらえていた。
そんな俺たちの日常は、しばらく続いた。以前と違うのは、花宮がりんの存在を認識できるようになったことだ。もちろん雄介はりんの存在に気がつかないので、俺も花宮もその辺は気を使わなければいけない。逆にスリルがあって、楽しいこともある。
花宮とりんは、ますます仲良くなっていった。そのお陰もあって、花宮は俺の部屋に連日来るようになっていた。それはそれで俺にとっても嬉しいことなのだが……花宮は俺と一緒にというよりは、りんと一緒に過ごしたいという気持ちが強いのは明らかだった。なので残念ながら俺と花宮が「甘い雰囲気」になることは全然なかった。そりゃありんも一緒にいるわけだし、残念だが仕方ないだろう。
そんな毎日が続いた中で……今日の花宮は、俺の部屋で神妙な面持ちをしていた。
「花宮、本当に大丈夫か?」
『琴ちゃん、本当にいいの?』
「うん、一回やってみたいんだ。でも……最初だから短い時間にしてね」
「ああ。もし何かあったら、俺が『気』を飛ばしてりんを外に追い出すから」
「うん、お願いね」
花宮は何をするつもりかというと……数日前、花宮からこんな申し出があった。
「私もりんちゃんに、憑依されてみたい」
好奇心旺盛というのも困りものだが、花宮は霊体に「憑依された状態」というのがどんな感じなのか、体験してみたいらしい。憑依されたときの意識はどうなるのか、感覚がどうなるのか、自分で経験してみたいという。
俺もりんも心配したが、花宮はどうしてもと譲らない。仕方ないので俺も折れて「このアパートで短時間だったら」という条件付きで、受け入れることにした。この部屋の中であれば、何か起こっても俺は対処ができる。裏を返すと……花宮は俺のことを100%信頼してくれているということだ。その信頼を裏切ってはいけない。
『じゃあ琴ちゃん、準備はいい?』
「うん……ちょっと緊張するけど、大丈夫」
花宮はそう言って一つ深呼吸してから、そっと目を閉じる。りんが俺の方を見たので、俺はゆっくり頷く。
『じゃあ琴ちゃん、お邪魔します』
りんは花宮の背後に周り、その体をゆっくりと花宮の体に重ねる。次の瞬間花宮は体を小さくピクッとさせると、そっと目を開けた。りんはいつものように、あっという間に憑依してしまった。
「うわぁ……」
りんがちょっと不快そうな声を出す。
「どうした、りん? なにか問題があるのか?」
「うん、ちょっと……」
「ちょっと何だ?」
「ブラがきつい」
「……憑依して最初のセリフがそれかよ」
「だから琴ちゃん、サイズが合ってないんだって。これじゃあ呼吸だって苦しいはず……えっ?」
「なんだよ、今度はどうした?」
「琴ちゃん、意識あるって」
「……なんだって?」
「『もう、恥ずかしいこといわないでよ!』って文句言ってる」
「意識を持っていかれてないのか?」
俺はにわかには信じられなかった。花宮の持っている霊能力が、それを可能にしているんだろうが……普通はりんほどの霊力が強い霊体に憑依されたら、体も意識も持っていかれるはずだ。
「あーでも……体は動かせないみたい」
「そりゃそうだろ。霊体の制御はかなりの霊能力がないと無理だ。ところで……りんは今、念話で花宮と会話ができてるってことか?」
「うん、普通にできてるよ。ねっ、琴ちゃん……あ、でもナオはひょっとして琴ちゃんの声が聞こえないの?」
「あたりまえだ。花宮は霊体じゃなくて人間だぞ。そんなテレパシーみたいなことはできない。それより……花宮の意識があるってことは、感覚共有もできてるってことなのか?」
俺がそう言うと、りんは自分のほっぺたをおもむろに抓った。
「『痛い』って」
「……確認方法が古典的だな」
「でも感覚共有ができるんだったらさ。アタシ、琴ちゃんと一緒にアイス食べてもいいよね?」
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