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「うん! 可愛い! 似合ってるわ、姫様」
グリムヒルトは暑い国なので、涼しげな簡易の軍服がある。
それは本当に簡素で上官、下官問わず着ている。
外相様はそちらに着替えていた。
「あんまり畏まった軍服だと目立つからね。こっちにしたわ」
悪戯っぽく笑う。
「素敵ですよ、外相様。」
「ねえ? その外相様ってやめてくれない? ウルリッカって呼んでよね」
外相様はツンと拗ねてみせる。
「ウルリッカ様」
外相様の名を呼んでみる
「様もホントは要らないんだけどね、だってあたし、忠誠誓ったんだし」
「忠誠は陛下に捧げて下さい……」
私は困ってしまう。
「陛下に誓った上で、姫様にも誓うのよ。
……城下で姫様はダメね。なんとお呼びしたらいいかしら?」
「陛下はティアと」
「ティア様。じゃあ城下へ参りましょう?」
「はい!」
城下街へ降りていく。
ウルリッカ様の居館は城壁の内側にある。
居館は要職につく方に与えられる。
なので軍師様も宰相様も法相様も皆、城壁の中に居館を与えられている。
城壁を出たらすぐに城下だった。
グリムヒルトの王都はやはり海に面している。
大きな船舶がたくさん停留していて、シビディア大陸随一の大きさを誇る巨大な港だ。
プストの時には色とりどりの垂れ幕が飾られていたせいでわからなかったけれど、街並みは赤茶けたレンガと白い漆喰の壁。
そんな建物が比較的規律正しく建てられていて、海の青と映えて美しい。
人流も色々な大陸から色々な人達が航海を経てやって来ている。
目的は主に交易だけど、この間のプストの様に旅の一座の様な芸を見せる為にやってくる人達もたくさんいた。
港を中心とした出店や酒場もたくさんある。
漁師達が獲れたての魚を売って、それを調理して食べさせてくれる様なお店もたくさんあった。
やっぱり、グリムヒルトの魚は美味しい。
大体は焼いて食べるけど、たまに魚を発酵させて漬け込んだものもあったりする。苦手な人が多いらしいけど私は平気だった。
王城の料理もやっぱり魚が多い。
「ティア様はお昼まだ?」
「ええ、まだです」
「そうよね、じゃあ屋台で適当に食べましょ」
屋台を散策する。魚の串焼きのお店がやっぱり多い。その中でも比較的小ぶりの食べやすい魚を選んで歩きながら食べる。
「ウルリッカ様。お金を出してもらって済みません」
私は自分が無一文だった事を忘れていた。
太公様の遺産は何処からどう手をつけていいのかわからないので触れずにいる。
お城にいるだけなら自分で出すお金は必要ないので、つい放置してしまっている。
「気にしないで。高い禄貰ってるけど、船の上ばっかで使い途も無いのよ。
可愛い女の子にご馳走出来るなら寧ろ生き金だわ」
「……ありがとうございます」
私は笑ってお礼を言う。
ウルリッカ様はとても気遣いの上手い、機転のきく人なのだと思う。
あまりこちらに気遣わせない様にするのがとても上手い。
「……ティア様は人質としてこの国に来たのよね?」
ウルリッカ様は魚を食みながら言う。
「そうですね」
私も食んでいたので口許に手を当てて答える。
「……この国が、憎くはない?」
少し考える。
「……憎いと思った事は無いです。元はと言えば自分の非礼のせいですし。グリムヒルトに来る前はどんな国だろうと不安でしたけど……。陛下のお噂も聞こえていましたし。でも来てみたら、毎日目まぐるしくて、そんな物思いに耽っている暇もないです。……御心配ですか?」
ウルリッカ様は頭を掻く。
「だって、平和に暮らしてたものを言いがかりつけられて慣れない国に連れてこられてる訳でしょ?」
「でも皆さん優しくしてくれますよ?この国に来て、不当な扱いを受けたと感じた事は一度も無いです。寧ろ過分な程与えて頂いてます」
「……ティア様は懐が広いのね」
「そんな事はないですよ。寧ろ受け入れてくれる方々の懐が広いんですよ」
ウルリッカ様は微笑む。こうして微笑むと彼女は改めて美人なんだなって気付く。
「ずっとこの国にいてね」
「はい、あの方に望んで頂ける限り」
「それなら永久にここを離れる事はないわね、安心だわ」
ウルリッカ様はカラカラ笑って言う。
「正直、あの方が誰かにこんなにご執心するなんてホント信じられないのよね。
何に対しても興味なさげで、勢いで玉座についたけどそれも早々に飽いてしまわれた。
ホント酷いのよ、何もかも受け入れる癖に放置する。
それが今やティア様に執着して、嫌われたくない一心で頑張ってるんだから笑っちゃうわよね」
「いえ、そういう訳ではなくて、あの方も色々思う所がおありで……」
「ティア様に言われて動いた時点でそうなの。それ以上の理由なんてどうせ全部言い訳なのよ。本質はただ惚れた女に言われて動いた、それだけよ。
それまで誰が何言ったって動かなかったんだから。
閣下……、あぁ、軍師の事ね?なんて困り果ててたもの」
私が来るまでの陛下は、とても無機質で掴みがたい、怖い人だと思われていたのだろうか?
ウルリッカ様の語る、以前の陛下は、多分陛下が今も何処かで持っている虚無感を体現した様な方だったのかもしれない。
私は陛下のその心境にある、誰にもわからない虚無感に思い巡らせた。
グリムヒルトは暑い国なので、涼しげな簡易の軍服がある。
それは本当に簡素で上官、下官問わず着ている。
外相様はそちらに着替えていた。
「あんまり畏まった軍服だと目立つからね。こっちにしたわ」
悪戯っぽく笑う。
「素敵ですよ、外相様。」
「ねえ? その外相様ってやめてくれない? ウルリッカって呼んでよね」
外相様はツンと拗ねてみせる。
「ウルリッカ様」
外相様の名を呼んでみる
「様もホントは要らないんだけどね、だってあたし、忠誠誓ったんだし」
「忠誠は陛下に捧げて下さい……」
私は困ってしまう。
「陛下に誓った上で、姫様にも誓うのよ。
……城下で姫様はダメね。なんとお呼びしたらいいかしら?」
「陛下はティアと」
「ティア様。じゃあ城下へ参りましょう?」
「はい!」
城下街へ降りていく。
ウルリッカ様の居館は城壁の内側にある。
居館は要職につく方に与えられる。
なので軍師様も宰相様も法相様も皆、城壁の中に居館を与えられている。
城壁を出たらすぐに城下だった。
グリムヒルトの王都はやはり海に面している。
大きな船舶がたくさん停留していて、シビディア大陸随一の大きさを誇る巨大な港だ。
プストの時には色とりどりの垂れ幕が飾られていたせいでわからなかったけれど、街並みは赤茶けたレンガと白い漆喰の壁。
そんな建物が比較的規律正しく建てられていて、海の青と映えて美しい。
人流も色々な大陸から色々な人達が航海を経てやって来ている。
目的は主に交易だけど、この間のプストの様に旅の一座の様な芸を見せる為にやってくる人達もたくさんいた。
港を中心とした出店や酒場もたくさんある。
漁師達が獲れたての魚を売って、それを調理して食べさせてくれる様なお店もたくさんあった。
やっぱり、グリムヒルトの魚は美味しい。
大体は焼いて食べるけど、たまに魚を発酵させて漬け込んだものもあったりする。苦手な人が多いらしいけど私は平気だった。
王城の料理もやっぱり魚が多い。
「ティア様はお昼まだ?」
「ええ、まだです」
「そうよね、じゃあ屋台で適当に食べましょ」
屋台を散策する。魚の串焼きのお店がやっぱり多い。その中でも比較的小ぶりの食べやすい魚を選んで歩きながら食べる。
「ウルリッカ様。お金を出してもらって済みません」
私は自分が無一文だった事を忘れていた。
太公様の遺産は何処からどう手をつけていいのかわからないので触れずにいる。
お城にいるだけなら自分で出すお金は必要ないので、つい放置してしまっている。
「気にしないで。高い禄貰ってるけど、船の上ばっかで使い途も無いのよ。
可愛い女の子にご馳走出来るなら寧ろ生き金だわ」
「……ありがとうございます」
私は笑ってお礼を言う。
ウルリッカ様はとても気遣いの上手い、機転のきく人なのだと思う。
あまりこちらに気遣わせない様にするのがとても上手い。
「……ティア様は人質としてこの国に来たのよね?」
ウルリッカ様は魚を食みながら言う。
「そうですね」
私も食んでいたので口許に手を当てて答える。
「……この国が、憎くはない?」
少し考える。
「……憎いと思った事は無いです。元はと言えば自分の非礼のせいですし。グリムヒルトに来る前はどんな国だろうと不安でしたけど……。陛下のお噂も聞こえていましたし。でも来てみたら、毎日目まぐるしくて、そんな物思いに耽っている暇もないです。……御心配ですか?」
ウルリッカ様は頭を掻く。
「だって、平和に暮らしてたものを言いがかりつけられて慣れない国に連れてこられてる訳でしょ?」
「でも皆さん優しくしてくれますよ?この国に来て、不当な扱いを受けたと感じた事は一度も無いです。寧ろ過分な程与えて頂いてます」
「……ティア様は懐が広いのね」
「そんな事はないですよ。寧ろ受け入れてくれる方々の懐が広いんですよ」
ウルリッカ様は微笑む。こうして微笑むと彼女は改めて美人なんだなって気付く。
「ずっとこの国にいてね」
「はい、あの方に望んで頂ける限り」
「それなら永久にここを離れる事はないわね、安心だわ」
ウルリッカ様はカラカラ笑って言う。
「正直、あの方が誰かにこんなにご執心するなんてホント信じられないのよね。
何に対しても興味なさげで、勢いで玉座についたけどそれも早々に飽いてしまわれた。
ホント酷いのよ、何もかも受け入れる癖に放置する。
それが今やティア様に執着して、嫌われたくない一心で頑張ってるんだから笑っちゃうわよね」
「いえ、そういう訳ではなくて、あの方も色々思う所がおありで……」
「ティア様に言われて動いた時点でそうなの。それ以上の理由なんてどうせ全部言い訳なのよ。本質はただ惚れた女に言われて動いた、それだけよ。
それまで誰が何言ったって動かなかったんだから。
閣下……、あぁ、軍師の事ね?なんて困り果ててたもの」
私が来るまでの陛下は、とても無機質で掴みがたい、怖い人だと思われていたのだろうか?
ウルリッカ様の語る、以前の陛下は、多分陛下が今も何処かで持っている虚無感を体現した様な方だったのかもしれない。
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