人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 ウルリッカ様は方々ほうぼうで声をかけられている。
「ウルリッカじゃないか! 帰って来てたのか?」
「ええ、昨日ね! また店に飲みに行くわ」
「隣のお嬢ちゃんはなんだい? 彼女か?」
 声をかけて来た男の人は笑いめかして言った。
「妹みたいなものよ。見かけたらくれぐれも良くしてあげて」
「ティアと言います。よろしくね!」
「おう! 俺ぁ、そこの四辻の先で『風見鶏』って店やってんだ! いつでも来なよ!」
「わかった! ありがとう!」

 こういうやりとりはもう何度目だろう。
「ウルリッカ様は顔が広いですね」
「あたし外交なんてやって普段グリムヒルトにいないでしょう?街で情報集めるのに、どうしてもウロウロするから顔が売れちゃうのよ」

 多分それだけじゃない。ウルリッカ様のこの人柄に多くの人が惹かれるんだと思う。

「ティア様も町民との付き合い方を心得てる感じね。気負いがないもの。もしかして城下に降りていた?」
「そうです。私は弟が王位を継いだら街で平民として暮らすつもりだったので、しょっちゅう街に降りてました」
「そう。それが今じゃ他国で正妃になるってんだもんね、180度人生変わっちゃったわね」
「私も実はびっくりしてます」
 笑って言うと、ウルリッカ様もクスクス笑ってくれた。

「……グリムヒルトの王都は本当に活気がありますね。こんなに賑やかなのはやっぱり交易が大きいんでしょうか?」
「そうね、交易がグリムヒルトの要と言ってもいい位。この大陸で作られる工芸品なんかは他大陸から見たらとても珍しかったりするのよ。この大陸の他の国々での価格の倍以上で売れる。……それを海の民だけで独占してるのが今の状態よ」
「……そうですか」
 私はこの国に住む地の民の事を思う。
「この喧騒の裏には地の民から多大な搾取が存在してるわ。これをしてる限り、遠からずグリムヒルトは滅ぶんだって」
「……滅ぶ?」
「あの方が以前仰ったの」
「……」
 私はウルリッカ様の顔をじっと見る。
「私もよくわからないけど」
 ウルリッカ様は困った様に笑う。
「あの方には何が見えてるんだか」

 陛下の見えている未来のグリムヒルトは、どんなものなんだろう。
 それを背負っている事はどんなに重いだろう。

「さて、何かお土産でも買って帰りましょうか! 私のオススメはね、クスリコ飴よ! さ、買いに行きましょ」
 ウルリッカ様が私の手を引く。
「お土産ですか⁉︎ そこまでしてもらっては……」
「いいのよ! 私が食べたいの」

 屋台の前まで手を引かれて、結局あれもこれもと袋一杯の飴を買って頂いた。
 結局ウルリッカ様は、袋の中の飴を一つ摘んでその場で頬張っただけで、全て私のお土産にしてくれた。
 侍女達にお裾分けしよう。

 もうそろそろ夕暮れ時だ。
 夕暮れの明かりが私達の顔を真っ赤に染めてる。

「ティア様、今日はありがとう。凄く楽しかったわ」
 私は慌ててお礼を言う。
「そんな! 私の方こそお礼を言わないと。
 本当にありがとうございます」
「また一緒に街で遊びましょ」
「はい! 是非!」

 夕暮れの中、私達はお喋りを楽しみながら、城に向かって歩いていった。
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