人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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68、4ヶ月前

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 新年の儀式が執り行われる。
 王城の海にかかる一画に海の女神を祀る廟がある。
 そこに香を炊き、葡萄酒ワインと供物と宝物ほうもつが捧げられる。
 それまでに長い長い祝詞が読み上げられる。
 その間宝剣を手に、立ちっぱなしになるので、この儀式は本当に面倒だ。

 この儀式は元々ヴィンザンツ大陸の海にまつわるニヨルダという民族がおこなっていた儀式だ。
 グリムヒルトの元になる海賊は発祥がヴィンザンツ大陸で、その大陸での土着信仰だった海の女神アーダを祀っている。
 航海と豊漁の女神と言われるこの女神は二面性を持ち博愛と嫉妬の両面を持つ。
 太公がこのニヨルダの祭司をわざわざ招き、国を挙げての祭事とした。これがヴィンザンツ大陸の国々への対して国としてのていを取り繕う事に一部成功していた。全く意味のない催事という訳でもないのが厄介だ。
 ただ、このシビディア大陸には現存する神に近い存在がいる。
 それが神獣だ。
 実際に神獣はこの大陸の純血の人間に対して魔法を与え、自身の化身である幻獣はその背に乗せる。
 そういう確かな神に近しい存在がいる大陸で、他大陸のいるかいないかもわからぬ神を祀る事は滑稽にしか感じず、国としての祭事はあっても儂自身は長年この儀式に参与せずにいた。

 しかしこの祭事を行なっている事で国交を結び、交易が叶っている国々がある以上、グリムヒルトはこの滑稽な祭事を止める訳にはいかない。

 退屈な祭事を終えて、新年早々晩餐会が行われる。
 諸侯や官吏が儂に新年の挨拶をしている。
 残った妾妃は全部で2人。
 第2妾妃マルグレット・ロヴィーサ・ラルセン。
 第7妾妃エミリア・エンマ・ヴィカンデル。

 各々から新年の挨拶を受ける。
「陛下。謹んで新年の祝詞を申し上げます」
 第2妾妃マルグレット・ロヴィーサ・ラルセンが長い萌黄色の髪を揺らし儂に頭を下げる。
 儂は玉座に座し頬杖をついて告げる。
「大儀である」
 一瞬、白群色の瞳は儂を仰ぎ見て、また頭を下げる。礼を取って下がっていく。
 この女の出自は庶民だ。歳は26。ラルセン家の養女となって輿入れした。物静かな性分で妾妃の中では一番長く、半年程相手した女だ。
 ラルセン家はグリムヒルト北方2領の1つ、ボリニアス領の諸侯だ。
 北と西を山脈に囲まれたボリニアスはグリムヒルト有数の穀倉地帯で山脈からの湧水で作る酒もボリニアスの名産の一つだ。
 この女が妾妃として輿入れしたのは偏に儂への和睦に近い。
 北、西の2方を山脈に囲まれている為、隣接するマイヤール領と、東に位置するスケニア領の2領に攻め入られると逃げ場がない。
 その為、マイヤール領の抑えとなる直轄地とは良好な関係を築く必要がある。件のアガターシェ騒動でこの女を失わなかった事はラルセン家にとっては僥倖であっただろう。

 次に第7妾妃エミリア・エンマ・ヴィカンデルが儂の前に恭しくやってくる。
「陛下。謹んで新春のお慶び申し上げます」
 琥珀色の巻き毛が頭を下げると肩から流れ落ちる。
「大儀である」
 この女は財務官の三女だ。歳は25。この女の父親は儂が粛清の折、空いた財務官の座に抜擢した、堅実な良い仕事をする男だ。元々はホンカサロ家と同等ほどの家柄だ。
 抜擢の後、娘を自ら儂に差し出した。人質の意味合いが強い。
 気位の高い女でその誇り高さが儂は面倒で、あまり長くは保たなかった。

 この2者の共通点はその用心深さだろう。
 アガターシェ騒動で、不調を来した時点で全てを疑って一切の化粧品の使用を止め、食事にも最大限気を使った点は誉れだと言える。

 第7妾妃の浅紫色の瞳が儂を見据える。
「恐れながら、陛下。申し上げたき儀が御座います。お許し頂けますでしょうか?」
「……許す」
「次期御正妃様とのお茶会の席を設ける許可を頂けませんでしょうか?」
「……何故なにゆえだ」
「私どもは陛下を支える為後宮で日夜、勤倹力行きんけんりっきょう、自らを律し、励んでおります。御正妃様も同じに御座いましょう。くだんの騒動で今や私共はたったの2人になり、次期御正妃様との干与は急務かと思われます」

 公の場で、ここまで言われては許可を出さざるを得ないだろう。
「よかろう」
「有り難き幸せに存じます」
 また恭しく頭を下げ儂の前から退いた。
 ……こういう所が面倒な女なのだ。
 これだけ人数が限られれば、派閥だなんだと面倒な事は起こらんだろう。
 もう姫に任せても問題ない。

 そう思索して姫を思い出し、この長い長い退屈な1日が早く終わるよう願った。
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