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今夜は満月。月明かりも上々なので、灯りも要らない位だ。
南の森に歩いて向かう。
「あんた達、酒場の親父に狼の話聞いてたろ?」
男達が私達の背後から声をかける。
男達は5人。卑下た笑みを浮かべている。
「嬢ちゃん、悪い事は言わねえ、やめときな。可愛い顔に怪我なんかしちゃあ目も当てられねえぜ?」
「荒事なんかオレ達に任せときなよ?なぁ?」
「なんだったら事が終わった後入った金で嬢ちゃん買ってやるからよ?」
男達がゲラゲラと笑う。私が地の民だから、こういう事言うのね。
こういう偏見はグリムヒルトに充満している。
「結構よ。あなた達に買ってもらうほど何にも困ってないわ」
私はキッと男達を睨む。
「おお、怖いな、嬢ちゃん!チビっちまいそうだぜ」
ははははと男達は更に笑う。
男の一人が私の肩に触れようとした瞬間、へリュ様が男の喉元にカトラスを突きつけた。
その場にいた誰にもへリュ様の抜刀した所は見えなかった。
「それ以上この方を愚弄するなら、今この場で切り捨てていいが?」
私も涼しい顔で言い放つ。
「ご用件はお済み?なら私達は急ぐから。行きましょう?へリュ様」
私達は彼らに背を向けて、歩み出す。
男達は本当に腕が立つ人達のようだ。
へリュ様の抜刀を見て、自分達より強者だとわかったようで、深追いしてこない。
ある程度の強さが有れば、へリュ様の圧倒的な強さは理解できる筈だ。
寧ろそれがわからない様な者は大した事のない証なので問題ない。
このまま彼らは手を引いてくれたらいいんだけど…。
きっとそうはいかないだろう。
「ありがとうございます。へリュ様」
「貴女を御守りするのは私の役目だ。お気遣いは無用」
私はその凛々しさに安堵感を覚える。本当に頼りになる人だ。
「そろそろこの辺りになると思うんですけど…」
と、話していると、唐突に狼の遠吠えが聞こえる。
「遠吠え! どっちから⁈」
「こちらだ!」
へリュ様の言う方へ一緒に走る。西の方角に走り抜けると森の木陰から少し姿を見せる玉蟲色の私の身長と同じ位の大きな狼がいた。
私達が一番乗りでよかった。
「あなた、幻獣でしょう? 私、純血の者よ! 念話出来たりしない?」
狼はこちらをジッと見つめてる。
『やっとみつけた……。ついてきて』
その時、私達の背後から声がする。
「おい!こっちだ!いたぞ!」
私は狼に促す。
「走って! 追いかけるから!」
狼は踵を返す。私は狼の後を追いかける。
「へリュ様! 彼らの足止めを!」
「承知した」
狼は走っては振り返る。
私は木を払いながら、森の中を必死に走る。
木の枝で身体は擦り傷がたくさん出来てしまった。
狼を追いかけて走り続けるとヘリュ様を掻い潜って先回りした男達が卑下た笑みを浮かべながら5人で私を取り囲む。
「よう、また会ったな、嬢ちゃん。諦めてなかったのか?」
きっと男達は私達をマークしていたのだろう。ずっと私とヘリュ様が離れるのを待っていたのかもしれない。
「……貴方達、狼に用があるんでしょ?私に用はない筈だけど?」
私はいつでも魔法を使える様に身構える。
「邪魔な奴はサッサと片付けておきたくてな」
「こんな小娘相手に大人気ないとは思わないの?」
「嬢ちゃんよりも嬢ちゃんのお付きの女が邪魔なんだよ。嬢ちゃんを人質に取っておけばあの女の動きは封じられるからな」
ヘリュ様は私を人質に取った位では動きを封じられない。
だって、この中にヘリュ様に届く程の実力者は居ないのだもの。
それに私だってタダでは捕まったりしない。
私は手のひらに魔力を集中させていつでも魔法が使える様に構える。
男達が私を捕らえようと手を伸ばす。
すると一足先に森の深い所に走っていった狼が踵を返して私の元に駆けてくる。
私はそれを見つけて声を上げる。
「こっちに来ちゃダメ!」
だってハッキリ姿を見てしまったらこの男達は狼に刃を向けるだろう。
狼は私の制止を聞かずに前方にいた二人の男を突き飛ばす。
突き飛ばされた男達は背中から木にぶつかって痛みに唸っている。
狼は私の前に立ちはだかって男達に向かい牙を剥き、玉蟲色の毛並みが逆立って、尻尾が低く揺らして唸り声をあげている。
「なんで狼がこの女を庇うんだ!」
戸惑いながらも男達は剣を抜き、構えて狼にその刃を向ける。
「構わねえ! 先ずは狼をやっちまえ!」
男の一人がそう声をかけると他の男達も一斉に狼に襲いかかった。
狼は更に身体を低くしてそれに応じる様に身構える。
「お願い! この人達を傷つけないで!」
人を傷つけてしまったら、きっとこの狼を駆除しようという気運が高まってしまう。
そうなると私はもちろん、きっと陛下ですらも庇いきれなくなるだろう。
私がそう声をかけると、狼は一瞬ピクリと動きを止めて男達の攻撃をヒラヒラと軽い身のこなしで交わして行く。
狼に意志が伝わった事を確認すると男達の方に向かって叫ぶ。
「やめて! この狼は捕らえたり出来ないの!」
男達は私の言葉を聞きもせずに、狼に襲いかかった。
私はそれを少しでも邪魔しようと男達の足元に魔力を込めて土礫を飛ばすと男達は突然地面から飛んで来た礫に怯む。
男の一人が大声で叫ぶ。
「この女、純血だ! 気をつけろ! 魔法を使うぞ!」
男達はターゲットを狼から私に変える。
私に向けて剣を振り上げた。私は腕で頭を庇う。
目を閉じて身構えていたら、金属が擦れ合う甲高い音が聞こえて来た。
「ご無事か?」
声の方を振り返ると後ろにヘリュ様が立っていて、私を間に挟んで男の斬撃をカトラスで受け止めていた。
「ヘリュ様!」
ヘリュ様は身を翻して、男達に斬りかかる。
演舞の様に美しい斬り込みだ。
先ずは私に切り掛かった男の剣を弾き飛ばす。そして怯んだその男の鳩尾に横一線の峰打ちを見舞った。
あと4人にもまるで炎の揺らめく様な動きで次々に切り掛かった。
峰で小手を見舞われた男は剣を取り落として腕を利き手を抑え、他の男達に声を張り上げて叫んだ。
「この女はまずい! 引き上げだ!」
その声と同時に男達は宿の方角へ引き上げて行く。
私達はそれを見送って、狼に向き直る。
「これで大丈夫。どこまでついて行けばいいの?」
『……ついてきて』
狼はヒタヒタとゆっくり歩き出した。
南の森に歩いて向かう。
「あんた達、酒場の親父に狼の話聞いてたろ?」
男達が私達の背後から声をかける。
男達は5人。卑下た笑みを浮かべている。
「嬢ちゃん、悪い事は言わねえ、やめときな。可愛い顔に怪我なんかしちゃあ目も当てられねえぜ?」
「荒事なんかオレ達に任せときなよ?なぁ?」
「なんだったら事が終わった後入った金で嬢ちゃん買ってやるからよ?」
男達がゲラゲラと笑う。私が地の民だから、こういう事言うのね。
こういう偏見はグリムヒルトに充満している。
「結構よ。あなた達に買ってもらうほど何にも困ってないわ」
私はキッと男達を睨む。
「おお、怖いな、嬢ちゃん!チビっちまいそうだぜ」
ははははと男達は更に笑う。
男の一人が私の肩に触れようとした瞬間、へリュ様が男の喉元にカトラスを突きつけた。
その場にいた誰にもへリュ様の抜刀した所は見えなかった。
「それ以上この方を愚弄するなら、今この場で切り捨てていいが?」
私も涼しい顔で言い放つ。
「ご用件はお済み?なら私達は急ぐから。行きましょう?へリュ様」
私達は彼らに背を向けて、歩み出す。
男達は本当に腕が立つ人達のようだ。
へリュ様の抜刀を見て、自分達より強者だとわかったようで、深追いしてこない。
ある程度の強さが有れば、へリュ様の圧倒的な強さは理解できる筈だ。
寧ろそれがわからない様な者は大した事のない証なので問題ない。
このまま彼らは手を引いてくれたらいいんだけど…。
きっとそうはいかないだろう。
「ありがとうございます。へリュ様」
「貴女を御守りするのは私の役目だ。お気遣いは無用」
私はその凛々しさに安堵感を覚える。本当に頼りになる人だ。
「そろそろこの辺りになると思うんですけど…」
と、話していると、唐突に狼の遠吠えが聞こえる。
「遠吠え! どっちから⁈」
「こちらだ!」
へリュ様の言う方へ一緒に走る。西の方角に走り抜けると森の木陰から少し姿を見せる玉蟲色の私の身長と同じ位の大きな狼がいた。
私達が一番乗りでよかった。
「あなた、幻獣でしょう? 私、純血の者よ! 念話出来たりしない?」
狼はこちらをジッと見つめてる。
『やっとみつけた……。ついてきて』
その時、私達の背後から声がする。
「おい!こっちだ!いたぞ!」
私は狼に促す。
「走って! 追いかけるから!」
狼は踵を返す。私は狼の後を追いかける。
「へリュ様! 彼らの足止めを!」
「承知した」
狼は走っては振り返る。
私は木を払いながら、森の中を必死に走る。
木の枝で身体は擦り傷がたくさん出来てしまった。
狼を追いかけて走り続けるとヘリュ様を掻い潜って先回りした男達が卑下た笑みを浮かべながら5人で私を取り囲む。
「よう、また会ったな、嬢ちゃん。諦めてなかったのか?」
きっと男達は私達をマークしていたのだろう。ずっと私とヘリュ様が離れるのを待っていたのかもしれない。
「……貴方達、狼に用があるんでしょ?私に用はない筈だけど?」
私はいつでも魔法を使える様に身構える。
「邪魔な奴はサッサと片付けておきたくてな」
「こんな小娘相手に大人気ないとは思わないの?」
「嬢ちゃんよりも嬢ちゃんのお付きの女が邪魔なんだよ。嬢ちゃんを人質に取っておけばあの女の動きは封じられるからな」
ヘリュ様は私を人質に取った位では動きを封じられない。
だって、この中にヘリュ様に届く程の実力者は居ないのだもの。
それに私だってタダでは捕まったりしない。
私は手のひらに魔力を集中させていつでも魔法が使える様に構える。
男達が私を捕らえようと手を伸ばす。
すると一足先に森の深い所に走っていった狼が踵を返して私の元に駆けてくる。
私はそれを見つけて声を上げる。
「こっちに来ちゃダメ!」
だってハッキリ姿を見てしまったらこの男達は狼に刃を向けるだろう。
狼は私の制止を聞かずに前方にいた二人の男を突き飛ばす。
突き飛ばされた男達は背中から木にぶつかって痛みに唸っている。
狼は私の前に立ちはだかって男達に向かい牙を剥き、玉蟲色の毛並みが逆立って、尻尾が低く揺らして唸り声をあげている。
「なんで狼がこの女を庇うんだ!」
戸惑いながらも男達は剣を抜き、構えて狼にその刃を向ける。
「構わねえ! 先ずは狼をやっちまえ!」
男の一人がそう声をかけると他の男達も一斉に狼に襲いかかった。
狼は更に身体を低くしてそれに応じる様に身構える。
「お願い! この人達を傷つけないで!」
人を傷つけてしまったら、きっとこの狼を駆除しようという気運が高まってしまう。
そうなると私はもちろん、きっと陛下ですらも庇いきれなくなるだろう。
私がそう声をかけると、狼は一瞬ピクリと動きを止めて男達の攻撃をヒラヒラと軽い身のこなしで交わして行く。
狼に意志が伝わった事を確認すると男達の方に向かって叫ぶ。
「やめて! この狼は捕らえたり出来ないの!」
男達は私の言葉を聞きもせずに、狼に襲いかかった。
私はそれを少しでも邪魔しようと男達の足元に魔力を込めて土礫を飛ばすと男達は突然地面から飛んで来た礫に怯む。
男の一人が大声で叫ぶ。
「この女、純血だ! 気をつけろ! 魔法を使うぞ!」
男達はターゲットを狼から私に変える。
私に向けて剣を振り上げた。私は腕で頭を庇う。
目を閉じて身構えていたら、金属が擦れ合う甲高い音が聞こえて来た。
「ご無事か?」
声の方を振り返ると後ろにヘリュ様が立っていて、私を間に挟んで男の斬撃をカトラスで受け止めていた。
「ヘリュ様!」
ヘリュ様は身を翻して、男達に斬りかかる。
演舞の様に美しい斬り込みだ。
先ずは私に切り掛かった男の剣を弾き飛ばす。そして怯んだその男の鳩尾に横一線の峰打ちを見舞った。
あと4人にもまるで炎の揺らめく様な動きで次々に切り掛かった。
峰で小手を見舞われた男は剣を取り落として腕を利き手を抑え、他の男達に声を張り上げて叫んだ。
「この女はまずい! 引き上げだ!」
その声と同時に男達は宿の方角へ引き上げて行く。
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