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昼前には、王城の西と南をマイヤールの歩兵領軍が、海側の北と東をギネゼ領海軍が包囲する。
軍師が儂の隣で腕を組んで立っている。
「中の状況はわかるか?」
儂は軍師に一瞥もくれる事無く、真っ直ぐ王城を見つめたまま訊ねた。
「情報が錯綜していてなんとも。法相殿は海遊庭園で立て籠っているといいます。確実な情報はそれだけですね」
海遊庭園は茶会の会場だ。レイティア達はそこにいるという事だろうか?
「……お前の所にはレイティアが死んだという情報は流れてきたか?」
「いいえ、その様な情報は耳にしておりません」
「……」
儂はここで考察する。
あの早い段階で何故レイティアが死んだなどという情報が儂の元にだけ入って来たのか。
三つ、考えられる可能性。
1・宰相達が偽の情報を流した。
2・敵が偽の情報を流した。
3・事実である。
1。宰相達が敵を欺く為にそれらしい情報を流した、この場合。
この手の偽の情報を流す際には儂達の間で決めている文言が入っていない。故に1の可能性は消える。
3。本当に死んだのであれば、それこそ法相が守りに徹しているというのは腑に落ちない。
もしレイティアの死をあれらが確信すれば、間違いなくなりふりなど構わず、敵を全て血祭りに上げるだろう。
だが、法相が海遊庭園を守りつつ、宰相が戦況を混ぜ回しながら、動揺した正規軍を立て直しつつ、再編成し、要所に配置して守りを固めている様子だ。
これは完全に重要なものを守りながら、自らの安否にも気を遣う、実に堅実な戦術をとっている。
ならばやはりレイティアが死んだ可能性も低い。
では、2だ。
レイティアを排斥したい叛逆軍は儂にさっさとレイティアを諦めさせる為にこの偽情報を流した、という方がしっくりくる。
儂のレイティアへの執着を知らぬ者なら今までの儂の様に死んだ女などどうでもいいとさっさと切り捨てると思ったのだろう。
確かにレイティア以外の女などどうなろうが知った事ではない。
叛逆軍の連中は儂にありもせぬ憧憬を抱く愚か者達に率いられているらしい。
一番可能性の高い、2。
敵が儂の伝達係にまで情報を流せる位置にいる、という事だ。
恐らく、内通者がいる。
儂と同じ思索をしていたであろう軍師は、儂に薄く笑いながら言った。
「……どなたかは、検討はついていらっしゃいますか?」
「疑っている者は幾人かいるが、絞りきれんな」
「まぁ、今ある情報では難しいでしょう」
腕を組む軍師に命じる。
「将校達は皆生け捕りにせよ。儂は城に攻め込む。お前は軍の統括を」
「やれやれ、私は城攻めは不得手なのですが」
中で儂が適当に暴れれば鎮圧されるだろう。そもそもこれは儂に対する謀反ではない。儂に直接会えれば直訴の機会が与えられたと剣を下ろす。
「さて、城門はそろそろ破られたか?」
儂の横に緊張気味に控えていたバーリリンドが生真面目に答えた。
「はっ! 城門に詰めていた叛逆軍は投稿した模様です」
バーリリンドは衛兵だったが、儂の直属の王軍に引き抜いた。
今はバーリリンドは主に内殿の警護に当たっている。今回は儂のマイヤール行きに護衛として連れて来ていた。
「では、早速城に乗り込むか」
「私も行く」
背後から声がかかった。
ワインレッドの髪の隙間から獣の様な黄色い瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
「構わん。馬は乗れたか?」
「早駆けは出来ない。だからお前の後ろに乗せろ」
「王の駆る馬に乗せろとはなかなか不敬だな、セイレーン殿よ」
「馬を駆るお前を守ってやると言っているんだ」
確かにセイレーン殿のバランス感覚を以てすれば馬の上に立っていても剣を振えるだろう。
その太々しい言い草に可笑しくなる。
この女は本当に小気味良い。諂う事のないこの態度は儂にとって貴重な存在だ。
「よかろう、行くぞ、セイレーン殿」
儂が乗っていた黒馬がバーリリンドの手によって連れて来られる。馬は戦場の騒然とした雰囲気に興奮気味だ。
儂は馬に跨りセイレーン殿に手を差し伸べる。
セイレーン殿は儂の手を取って儂の後ろに座った。
「済まんが奥方の手を借りる。後は頼む」
軍師は儂に軽く頭を下げた。
「御意」
城門は投降した叛逆軍が正規軍に拘束されている最中だった。その間を馬で駆け抜ける。
城門を越えて更に下中庭を通り抜ける。
主城門まで着くと兵士達が巨大な丸太を閉ざされた城門にぶつけている最中だった。
兵士達が儂に気が付き止めようとするが、一緒に付いてきた護衛達がそれを制す。
「陛下のおなりである!」
バーリリンドの良く通る声でそう宣言されると、作業の手を止めて儂に膝をつく。
「城門の中の者達に告ぐ。今開城すれば此度の件、指揮官以外は不問に処すとの仰せだ!」
その言葉が告げられると、あれだけの喧騒が嘘のように周囲は静まり返る。
ややあって、木造の巨大な扉は軋みの不快音を立てて開かれた。
開かれた城門の向こうには、腕に黄色い布を巻き付けた兵士達が深く叩頭していた。
「……この場の指揮官はおるか?」
一番前で叩頭していた男が、返事をした。
「ここに」
「お前には委細を全て吐いて貰う。それまでその命は預けよう」
「はっ!」
男は額を地面に擦りつけながら返事した。
「その男を拘束しておけ」
それだけ手短に命じて、さっさと内殿へ最も近い入口に馬を走らせた。
軍師が儂の隣で腕を組んで立っている。
「中の状況はわかるか?」
儂は軍師に一瞥もくれる事無く、真っ直ぐ王城を見つめたまま訊ねた。
「情報が錯綜していてなんとも。法相殿は海遊庭園で立て籠っているといいます。確実な情報はそれだけですね」
海遊庭園は茶会の会場だ。レイティア達はそこにいるという事だろうか?
「……お前の所にはレイティアが死んだという情報は流れてきたか?」
「いいえ、その様な情報は耳にしておりません」
「……」
儂はここで考察する。
あの早い段階で何故レイティアが死んだなどという情報が儂の元にだけ入って来たのか。
三つ、考えられる可能性。
1・宰相達が偽の情報を流した。
2・敵が偽の情報を流した。
3・事実である。
1。宰相達が敵を欺く為にそれらしい情報を流した、この場合。
この手の偽の情報を流す際には儂達の間で決めている文言が入っていない。故に1の可能性は消える。
3。本当に死んだのであれば、それこそ法相が守りに徹しているというのは腑に落ちない。
もしレイティアの死をあれらが確信すれば、間違いなくなりふりなど構わず、敵を全て血祭りに上げるだろう。
だが、法相が海遊庭園を守りつつ、宰相が戦況を混ぜ回しながら、動揺した正規軍を立て直しつつ、再編成し、要所に配置して守りを固めている様子だ。
これは完全に重要なものを守りながら、自らの安否にも気を遣う、実に堅実な戦術をとっている。
ならばやはりレイティアが死んだ可能性も低い。
では、2だ。
レイティアを排斥したい叛逆軍は儂にさっさとレイティアを諦めさせる為にこの偽情報を流した、という方がしっくりくる。
儂のレイティアへの執着を知らぬ者なら今までの儂の様に死んだ女などどうでもいいとさっさと切り捨てると思ったのだろう。
確かにレイティア以外の女などどうなろうが知った事ではない。
叛逆軍の連中は儂にありもせぬ憧憬を抱く愚か者達に率いられているらしい。
一番可能性の高い、2。
敵が儂の伝達係にまで情報を流せる位置にいる、という事だ。
恐らく、内通者がいる。
儂と同じ思索をしていたであろう軍師は、儂に薄く笑いながら言った。
「……どなたかは、検討はついていらっしゃいますか?」
「疑っている者は幾人かいるが、絞りきれんな」
「まぁ、今ある情報では難しいでしょう」
腕を組む軍師に命じる。
「将校達は皆生け捕りにせよ。儂は城に攻め込む。お前は軍の統括を」
「やれやれ、私は城攻めは不得手なのですが」
中で儂が適当に暴れれば鎮圧されるだろう。そもそもこれは儂に対する謀反ではない。儂に直接会えれば直訴の機会が与えられたと剣を下ろす。
「さて、城門はそろそろ破られたか?」
儂の横に緊張気味に控えていたバーリリンドが生真面目に答えた。
「はっ! 城門に詰めていた叛逆軍は投稿した模様です」
バーリリンドは衛兵だったが、儂の直属の王軍に引き抜いた。
今はバーリリンドは主に内殿の警護に当たっている。今回は儂のマイヤール行きに護衛として連れて来ていた。
「では、早速城に乗り込むか」
「私も行く」
背後から声がかかった。
ワインレッドの髪の隙間から獣の様な黄色い瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
「構わん。馬は乗れたか?」
「早駆けは出来ない。だからお前の後ろに乗せろ」
「王の駆る馬に乗せろとはなかなか不敬だな、セイレーン殿よ」
「馬を駆るお前を守ってやると言っているんだ」
確かにセイレーン殿のバランス感覚を以てすれば馬の上に立っていても剣を振えるだろう。
その太々しい言い草に可笑しくなる。
この女は本当に小気味良い。諂う事のないこの態度は儂にとって貴重な存在だ。
「よかろう、行くぞ、セイレーン殿」
儂が乗っていた黒馬がバーリリンドの手によって連れて来られる。馬は戦場の騒然とした雰囲気に興奮気味だ。
儂は馬に跨りセイレーン殿に手を差し伸べる。
セイレーン殿は儂の手を取って儂の後ろに座った。
「済まんが奥方の手を借りる。後は頼む」
軍師は儂に軽く頭を下げた。
「御意」
城門は投降した叛逆軍が正規軍に拘束されている最中だった。その間を馬で駆け抜ける。
城門を越えて更に下中庭を通り抜ける。
主城門まで着くと兵士達が巨大な丸太を閉ざされた城門にぶつけている最中だった。
兵士達が儂に気が付き止めようとするが、一緒に付いてきた護衛達がそれを制す。
「陛下のおなりである!」
バーリリンドの良く通る声でそう宣言されると、作業の手を止めて儂に膝をつく。
「城門の中の者達に告ぐ。今開城すれば此度の件、指揮官以外は不問に処すとの仰せだ!」
その言葉が告げられると、あれだけの喧騒が嘘のように周囲は静まり返る。
ややあって、木造の巨大な扉は軋みの不快音を立てて開かれた。
開かれた城門の向こうには、腕に黄色い布を巻き付けた兵士達が深く叩頭していた。
「……この場の指揮官はおるか?」
一番前で叩頭していた男が、返事をした。
「ここに」
「お前には委細を全て吐いて貰う。それまでその命は預けよう」
「はっ!」
男は額を地面に擦りつけながら返事した。
「その男を拘束しておけ」
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