人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
180 / 200

180

しおりを挟む
 私はグレーゲルとひたすら王都への道を急ぐ。
 途中、軍人さんがいたらこそこそと隠れながらだったので、速度は通常よりもゆっくりになってしまった。
 もう昼過ぎなのにまだ半分位しか進めていない。
 気持ちばかり先走って、前のめりになりそうになるのを、グレーゲルに止められる。
「焦るのはわかるが、奴らの狙いは嫁さんだからな。あんたが捕まっちまったら元も子もないだろ?」
「……そうね、焦っても仕方ないわね」
 グレーゲルは見た目によらず、慎重な人だ。一見荒っぽくがさつに見えるけれど、実は慎重で堅実だしとても紳士的だったりする。
「……貴方、実は結構モテるでしょ?」
 私が上目遣いでそう冷やかすと、目を逸らして大声で文句を言った。
「馬鹿な事言ってないでさっさと行くぞ!」
 グレーゲルは足早に先に進んでしまった。
 そんな話をしながら、道を進んで行くと、もうちょっとで王都の郊外に差し掛かろうという所で軍人さん達が10人ほど、人待ちの様子でこちらを窺っているのがわかった。
 私は被っていたフードを更に目深に被った。
「……お前達、途中髪と目の茶色い地の民の女を見なかったか?」
 グレーゲルはへらへら笑いながら答えた。
「お? そりゃ例の依頼の女じゃねえのか? 軍人さんがそんな女探してどうしようってんだ? 小遣い稼ぎか?」
「貴様には関係ない。おい! そこのお前」
 軍人は私に声をかける。
 グレーゲルが代わりに答えた。
「ああ、そいつは俺の妹だが、声が出せねえ。無駄だ」
「……ちょっと顔を見せてみろ」
 軍人は私の前に立ってフードを取ろうとした。
 これはもう無理だ。
 そう判断した私は、地の魔法を使って私と軍人の足元を大きく隆起させて、転ばせた。
 グレーゲルが私と軍人の間に入って剣を構える。
 私も魔法をすぐに使える様に身構える。
 魔法は今までと何故か感覚が全く違っているから上手く制御出来なくて、正直言うとあまり使いたくない。
 軍人達が私達を取り囲む。
 大きな炎の球を手の平に浮かせて見せる。これで怯んでくれないかしら……。
 グリムヒルトの軍人さん達が殆ど相手にした事のない魔法を持ってる私は捕まえにくいだろう。
 そう思って諦めてくれるといいのだけれど。
 私の願いとは裏腹に軍人達は、グレーゲルに切りかかる。
 私は大きな土の壁を突如軍人達の目の前に出現させた。
 ドスンと鈍い音が土壁の向こうから聞こえた。
 軍人達は全員、土壁にぶつかってしまったらしい、
「嫁さん、すげえ技持ってんじゃねえか。こりゃ俺がいなくても旦那の元に帰れたんじゃねえか?」
 剣を構えた体勢のまま、グレーゲルは笑い含みに言った。
「何度も言うけど、私こんな事、今までは出来なかったの」
 そう言いながら今度は土壁の向こう側に大きな水球を作って軍人さん達に浴びせかけた。
 土壁の向こうは水浸しの軍人さん達が驚きの声を上げている。
「怯むな! 捕まえろ!」
 この隊の隊長らしき人が皆に命じる。
「男を集中的に狙え!」
 私にも牽制程度に二人の軍人が剣を向けて身構えている。
 私の魔法に対して対策がないので本当に睨み合ってるだけだ。
 一方でグレーゲルは八人を相手に奮闘する形になって慌てている。
「ちょっと待て! 八人もいっぺんに相手なんて出来ねえぞ?!」
 軍服が水を吸ってるせいで動きが鈍くなってるとは言え、八人相手は厳しいだろう。
 私は牽制の軍人さん達と睨み合いながら、グレーゲルの後ろに回り込んでいた軍人達の足場を隆起させてバランスを奪った。
 実は私は魔力の量がそんなに多くないので、魔力切れを心配してるけど、なんだか今までとは違って全然枯渇する様子がない。
 これだけ大きく強い魔法を連続で使えば、今までの私なら限界が来てるだろう。
 魔力の質も量も、今までとは明らかに違う。
 その事に実は内心とても戸惑っているけど、今はそれどころではないので、考えない様にしてる。
 転んでしまった軍人の足を土魔法で縫いとめる。これでグレーゲルの相手は五人になった。
 グレーゲルは五人の軍人さん達と切り結ぶ。
 私がグレーゲルの方に意識をやると、私を牽制する二人の軍人さん達は私を捕らえようと剣を手に襲い掛かる。
 私は意識を集中させて小さめの炎球を作って二人にめがけて投げつけた。
 彼らは唐突に襲う炎に伏せて身を守った。
 私はグレーゲルが心配になって振り返ったその時、私達の右方向から声がかかる。
「そこまでだ」
 指揮を執っている隊長が立っている。彼の左腕にはすやすやと眠る赤ちゃんがいた。
「この赤子の命が惜しければ、抵抗をやめろ」
 その後ろには赤ちゃんの母親らしき人が他の子供を抱いて青ざめている。
 荷車も一緒にあるのできっと配達か何かで通りかかったのだろう。
「……っ!!!! 貴方、自分のしてる事がどういう事かわかってるの?!」
 私は激昂して大きな声を上げた。
「お前を捕らえられるなら手段は選ばん。さあ、この赤子、串刺しにしていいのか?」
 私は唇を噛む。
「……わかりました。貴方達に従うわ。だから赤ちゃんはお母さんの元に早く返してあげて」
「お前は奇妙な技を使う。船に乗るまでこの赤子は人質だ」
 隊長を睨み付け、ぎゅっと両の拳を握りしめた。
「……信じてくれるかわかりませんが、魔法は主に手の平に魔力を集中させて発動させます。両腕を後ろ手に拘束してしまえば使えません。だから、赤ちゃんは返してあげて。お願い」
「お前の言う事など信用出来るか!」
 隊長はそう言うと、他の軍人さんに赤ちゃんを預ける。
「そっちの男も剣を捨てろ」
 グレーゲルの方を見て隊長はそう命じた。
 グレーゲルは私の方をちらりと見た。私は目で軽く頷いた。
「ちっ! 仕方ねえな。軍人ってのはここまで腐ってるのかよ」
 私も正直グリムヒルトの軍人がこんな風に自国の民を人質に取るなんて思いもしなかった。
 しかもこのお母さんも赤ちゃんも海の民に属する人達だろう。
 軍人さんの一人が私の後ろに回り込んで、私の腕を拘束する。
 グレーゲルも剣を奪われ、両手を上げている。
「さあ、お前は乗れ」
 軍人さんに担がれて馬に乗せられる。座る様な形ではなくうつ伏せで足を投げ出すような形で、まるで荷物の様に馬に括りつけられた。
 隊長は手を上げるグレーゲルを引き倒し、地面にうつ伏せに寝かせた。
 そして手に持った剣で彼の足の腱を切ってしまった。
「ぐわあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
「やめてっ! やめてよっ! 酷い事しないでっ! お願い! 従うから、これ以上誰も傷つけないで!」
 隊長は私を軽く一瞥して、またグレーゲルを見た。
「命があるだけありがたいと思え」
 そう言うと踵を返して私の前にやって来て私の口に猿轡を噛ませた。
「静かにしていろ」
 それだけ言ったら私の乗せられた馬に跨る。

 隊長は鐙を蹴って、馬を走らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...