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ぽっちゃり令嬢の王宮任務
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「エマニュエル王妃から、ステファニーにお茶会と夜会の招待状が届いた……しかも個別にだ」
父・ローレンツは、苦虫を噛み潰したような表情で言い放った。
「……これは、厄介な気配しかしないわね。仮病を使う?」
母・イザベルも、美しい顔に眉間の皺を寄せ、ぽつりと呟く。
「やはり、アルバート殿下の婚約者の打診でしょうか……あの癇癪王子の」
兄・クレマンも、気うつそうな表情で、うんざりした様子を見せた。
オラニエ侯爵一家は、ステファニーを呼び、王妃からの招待状の件を告げた。
「えっ! また、王宮でお茶会ですの?……もう、嫌ですわ!」
ぽっちゃりした身体をジタバタさせて拒否の意思を示す娘を見つめ、家族は思わず息を飲む。
(マシュマロちゃんが、むちむち動くわ……!可愛いわ!癒されるわ!)
ステファニーの愛らしい動きに、家族はもちろん使用人たちも、心を奪われていた。
「断りたいのは山々だが、王妃からの招待状……これはどうにもならん」
「そうね……また、王宮まで出向くしかないわね。ステファニー、ごめんなさいね」
両親のしょんぼりした様子を見たステファニーは、文句を言うのを諦めた。
(さっさと用件を済ませて帰って来よう!お茶会は今回で最後にするよう話さなきゃ)
こうして、ぽっちゃり令嬢ステファニーは、王妃からの私的な呼び出しに応じることになった。
またしても、朝から磨きに磨かれ、可愛らしいステメラニー製のドレスを着せられたステファニーは、母イザベル侯爵夫人に伴われ王宮へと連れて行かれた……。
肩を落としてとぼとぼ歩くその姿は、まるでドナドナされる子牛のようだった。
「お嬢様、あんなに切ないお背中をして……!」
「むちむちとした後ろ姿が、決死の覚悟を語っていらっしゃる……!」
それもまた可愛いらしい――それを見送る使用人一同は、胸を押さえた。
オラニエ侯爵邸を後にした馬車は、王都の石畳を軽やかに滑る。朝の光は柔らかく、街路樹の葉を淡い緑色に染め、空気にはまだ夜露の冷たさが残っていた。
窓の外には、行き交う市井の人々や、馬車道を急ぐ御者の姿が見える。ステファニーは、ちらりと外の景色を眺めながら、ため息混じりに呟いた。
(……朝から着飾って、髪型も整えて……これでまた王宮まで……ふう……)
馬車が王宮の門に差し掛かると、石造りの高い門と、青銅色に輝く装飾が目に飛び込む。衛兵たちの鎧は太陽に反射し、遠目にも威厳を感じさせた。ステファニーの胸の奥には、わずかな緊張がよぎる。
「……やっぱり大きいわね。王宮って……」
小さな声で呟くステファニーを、母イザベルが優しく見下ろす。
馬車が広場に停まり、厳かな石段を上がって王宮の中庭を抜けると、朝の光を受けて輝く噴水や整然とした庭園の緑が目に映った。
使用人たちが慌ただしく立ち働き、侍女や護衛たちの整列が整えられていた。
その先に広がる応接間の扉は、大理石の床と金色の装飾に囲まれ、外界の賑わいを忘れさせるほど荘厳だった。ステファニーは深呼吸をひとつして、重たいドレスの裾を整え、椅子に腰を下ろす準備をした。
ほどなくして、王妃エマニュエルが第一王子アルバート殿下を伴って現れた。
ステファニーは、王妃と王子が登場した瞬間、ふとオーラに目を向けた。
王妃の周囲には、アルバートの肥満や健康への不安からか濁った金色が漂っていた。アルバート自身も、金色の一部が黄色く濁ったオーラをまとい、中央に暗赤色が見えた。
さらに、王妃のオーラの一部に不自然な黒い色が混じっているのに気づいた。
(……王妃殿下のオーラが少し黒いわ……なにかしら?)
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。先日のお茶会で、パティシエを導いたステファニーの振る舞いには感心しましたわ。十二歳の令嬢とは思えぬ見事さでした」
王妃はにっこりと微笑んでいるが、その目は冷ややかで鋭く、まるですべてを見通しているかのようだった。手を挙げると、人払いが始まる。護衛と侍女たちは、話の内容が聞こえないほど距離を取り、控えた。
アルバート殿下は、テーブルのお菓子をじっと見つめ、黙り込んでいた。
「実は、アルバートのことで少し相談があるの」
王妃はそう言うと、隣に座るアルバートを優しく見つめた。
「食事に関して、少々問題を抱えているの。健康上の問題ではないから、そこは誤解しないでちょうだい。それと、この件は他言無用よ。いいわね」
王妃の声は鋭く、まるで命令を下すかのようだった。
「ステファニー、あなたも……《ぽっちゃり》よね。イザベル侯爵夫人は、彼女の食生活についてはどうしているのかしら?」
王妃は母親の顔で、アルバートの食生活について尋ねた。
「……はい。確かに当家のステファニーは《ぽっちゃり》ですが、マシュマロのように愛らしい娘です。我が家では特に、食事制限はしておりません」
母イザベルは、ステファニーがアルバートと同列に扱われたことに、少し不満そうだった。
「あら? 好きなものを食べさせているの? お菓子も?」
「はい。ステファニーが食べたいものを、食べたい調理法で食べさせております」
そこで王妃はステファニーを見つめ、興味津々に尋ねた。
「健康診断は受けているのかしら? 息切れがしたり、急に眠くなったりは?」
「ほとんど侯爵邸内で過ごしておりますので、息切れするほどの活動はしておりません」
ステファニーはふと、アルバートの不調に気づいた。
小さな眉間のしわ、唇の色の冴えなさ、肌の荒れ…… 細かい点を観察して、ステファニーは推測する。
(時間に追われて生活しているのね。きっと、側近や王宮の規則に縛られて、好きなタイミングで食事ができない……そのストレスでつい多めに食べてしまうのかしら?)
ステファニーはお菓子を手に取りながら、王子をちらりと見た。口調は柔らかく、命令ではない。
「王妃殿下、アルバート殿下は、まだ詳しくは存じませんが、日々の生活や食事に少し配慮が必要なように感じますわ。時間や規則に縛られ、気づかぬうちに負担がかかっているのではないかしら……」
アルバートは思わず眉を上げ、テーブル越しにステファニーを凝視する。
(……なんだ、この子、僕の秘密まで丸見え……?)
ステファニーは微笑みながら、王妃に小声で付け加えた。
「無理のない範囲で少しずつ調整して差し上げるのがよろしいかと。叱るのではなく、気づかれぬよう導くのが肝心ですわ」
王妃は鋭い眼差しをステファニーに向け、ゆっくりと語りかけた。
「ステファニー。あなたには、アルバートの隣で『同じものを、同じように楽しむ友人』になってほしいの
明日から、王宮で過ごしてもらうわ。目的を他言することは絶対に許されません。わかりましたね?」
ステファニーは深くうなずき、その責務を静かに受け入れた。王妃の命令は、十二歳の少女にとっても、揺るぎない権威として届いた。
王妃の言葉に、母イザベルは息を呑んだ。それは実質的に、王子の健康と心を預けるという、あまりにも重い信頼の証だった。
「お待ちください! なぜステファニーが王宮で暮らさねばならないのですか!? まだ十二歳の娘を一人で王宮へ送り出すなど、到底受け入れられるものではありません!」
母イザベルが、王妃相手に声をあげる。
王妃も、イザベル侯爵夫人からの訴えは予想済みだったのだろう。条件を淡々と説明する。
「母として心配になるのは当然です。報奨金に加え細かい取り決めは後で書面に記します。ステファニーが中断を希望した場合には、必ずオラニエ侯爵家に送り届けます。滞在中は、一流の教師陣による教育も受けてもらえます」
エマニュエル王妃は、ステファニーを見つめて微笑んだ。
「ステファニー、王宮に滞在する間は、一流の料理人が作る各国料理が楽しめるわ。もちろん、パティシエのディーンのマカロンも新作があるわ」
ステファニーの目がアメジストのようにキラキラと輝く。
こうして、十二歳の少女は、癇癪王子の学友として、健康を密かに見守る役目を担うことになった。王宮で小さな異変が起きても、気付ける観察者がそばにいる——ステファニーは静かに、その任務を心に誓った。
まさか、ぽっちゃりの令嬢ステファニーに、ぽっちゃりの王子の生活指導を頼むとは……王妃も、さぞ困っているのだろう。
(……あら。王妃殿下、そんなに深刻そうに仰らなくても。わたくし、美味しいものを殿下と半分こするのは得意ですわよ?)
ステファニーのオーラは、王宮の陰謀や重圧などどこ吹く風。一流シェフの料理という言葉を聞いた瞬間から、期待でふかふかのピンク色に染まっていた。
「明日からの王宮暮らし、楽しみですわ。アルバート殿下、よろしくお願いしますね」
殿下の暗赤色のオーラに混じる「寂しさ」を、ステファニーはそっと見つめる。
――こうして、王国の命運を握る「ぽっちゃり二人組」の、奇妙で美味しい王宮生活が幕を開けることとなった。
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父・ローレンツは、苦虫を噛み潰したような表情で言い放った。
「……これは、厄介な気配しかしないわね。仮病を使う?」
母・イザベルも、美しい顔に眉間の皺を寄せ、ぽつりと呟く。
「やはり、アルバート殿下の婚約者の打診でしょうか……あの癇癪王子の」
兄・クレマンも、気うつそうな表情で、うんざりした様子を見せた。
オラニエ侯爵一家は、ステファニーを呼び、王妃からの招待状の件を告げた。
「えっ! また、王宮でお茶会ですの?……もう、嫌ですわ!」
ぽっちゃりした身体をジタバタさせて拒否の意思を示す娘を見つめ、家族は思わず息を飲む。
(マシュマロちゃんが、むちむち動くわ……!可愛いわ!癒されるわ!)
ステファニーの愛らしい動きに、家族はもちろん使用人たちも、心を奪われていた。
「断りたいのは山々だが、王妃からの招待状……これはどうにもならん」
「そうね……また、王宮まで出向くしかないわね。ステファニー、ごめんなさいね」
両親のしょんぼりした様子を見たステファニーは、文句を言うのを諦めた。
(さっさと用件を済ませて帰って来よう!お茶会は今回で最後にするよう話さなきゃ)
こうして、ぽっちゃり令嬢ステファニーは、王妃からの私的な呼び出しに応じることになった。
またしても、朝から磨きに磨かれ、可愛らしいステメラニー製のドレスを着せられたステファニーは、母イザベル侯爵夫人に伴われ王宮へと連れて行かれた……。
肩を落としてとぼとぼ歩くその姿は、まるでドナドナされる子牛のようだった。
「お嬢様、あんなに切ないお背中をして……!」
「むちむちとした後ろ姿が、決死の覚悟を語っていらっしゃる……!」
それもまた可愛いらしい――それを見送る使用人一同は、胸を押さえた。
オラニエ侯爵邸を後にした馬車は、王都の石畳を軽やかに滑る。朝の光は柔らかく、街路樹の葉を淡い緑色に染め、空気にはまだ夜露の冷たさが残っていた。
窓の外には、行き交う市井の人々や、馬車道を急ぐ御者の姿が見える。ステファニーは、ちらりと外の景色を眺めながら、ため息混じりに呟いた。
(……朝から着飾って、髪型も整えて……これでまた王宮まで……ふう……)
馬車が王宮の門に差し掛かると、石造りの高い門と、青銅色に輝く装飾が目に飛び込む。衛兵たちの鎧は太陽に反射し、遠目にも威厳を感じさせた。ステファニーの胸の奥には、わずかな緊張がよぎる。
「……やっぱり大きいわね。王宮って……」
小さな声で呟くステファニーを、母イザベルが優しく見下ろす。
馬車が広場に停まり、厳かな石段を上がって王宮の中庭を抜けると、朝の光を受けて輝く噴水や整然とした庭園の緑が目に映った。
使用人たちが慌ただしく立ち働き、侍女や護衛たちの整列が整えられていた。
その先に広がる応接間の扉は、大理石の床と金色の装飾に囲まれ、外界の賑わいを忘れさせるほど荘厳だった。ステファニーは深呼吸をひとつして、重たいドレスの裾を整え、椅子に腰を下ろす準備をした。
ほどなくして、王妃エマニュエルが第一王子アルバート殿下を伴って現れた。
ステファニーは、王妃と王子が登場した瞬間、ふとオーラに目を向けた。
王妃の周囲には、アルバートの肥満や健康への不安からか濁った金色が漂っていた。アルバート自身も、金色の一部が黄色く濁ったオーラをまとい、中央に暗赤色が見えた。
さらに、王妃のオーラの一部に不自然な黒い色が混じっているのに気づいた。
(……王妃殿下のオーラが少し黒いわ……なにかしら?)
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。先日のお茶会で、パティシエを導いたステファニーの振る舞いには感心しましたわ。十二歳の令嬢とは思えぬ見事さでした」
王妃はにっこりと微笑んでいるが、その目は冷ややかで鋭く、まるですべてを見通しているかのようだった。手を挙げると、人払いが始まる。護衛と侍女たちは、話の内容が聞こえないほど距離を取り、控えた。
アルバート殿下は、テーブルのお菓子をじっと見つめ、黙り込んでいた。
「実は、アルバートのことで少し相談があるの」
王妃はそう言うと、隣に座るアルバートを優しく見つめた。
「食事に関して、少々問題を抱えているの。健康上の問題ではないから、そこは誤解しないでちょうだい。それと、この件は他言無用よ。いいわね」
王妃の声は鋭く、まるで命令を下すかのようだった。
「ステファニー、あなたも……《ぽっちゃり》よね。イザベル侯爵夫人は、彼女の食生活についてはどうしているのかしら?」
王妃は母親の顔で、アルバートの食生活について尋ねた。
「……はい。確かに当家のステファニーは《ぽっちゃり》ですが、マシュマロのように愛らしい娘です。我が家では特に、食事制限はしておりません」
母イザベルは、ステファニーがアルバートと同列に扱われたことに、少し不満そうだった。
「あら? 好きなものを食べさせているの? お菓子も?」
「はい。ステファニーが食べたいものを、食べたい調理法で食べさせております」
そこで王妃はステファニーを見つめ、興味津々に尋ねた。
「健康診断は受けているのかしら? 息切れがしたり、急に眠くなったりは?」
「ほとんど侯爵邸内で過ごしておりますので、息切れするほどの活動はしておりません」
ステファニーはふと、アルバートの不調に気づいた。
小さな眉間のしわ、唇の色の冴えなさ、肌の荒れ…… 細かい点を観察して、ステファニーは推測する。
(時間に追われて生活しているのね。きっと、側近や王宮の規則に縛られて、好きなタイミングで食事ができない……そのストレスでつい多めに食べてしまうのかしら?)
ステファニーはお菓子を手に取りながら、王子をちらりと見た。口調は柔らかく、命令ではない。
「王妃殿下、アルバート殿下は、まだ詳しくは存じませんが、日々の生活や食事に少し配慮が必要なように感じますわ。時間や規則に縛られ、気づかぬうちに負担がかかっているのではないかしら……」
アルバートは思わず眉を上げ、テーブル越しにステファニーを凝視する。
(……なんだ、この子、僕の秘密まで丸見え……?)
ステファニーは微笑みながら、王妃に小声で付け加えた。
「無理のない範囲で少しずつ調整して差し上げるのがよろしいかと。叱るのではなく、気づかれぬよう導くのが肝心ですわ」
王妃は鋭い眼差しをステファニーに向け、ゆっくりと語りかけた。
「ステファニー。あなたには、アルバートの隣で『同じものを、同じように楽しむ友人』になってほしいの
明日から、王宮で過ごしてもらうわ。目的を他言することは絶対に許されません。わかりましたね?」
ステファニーは深くうなずき、その責務を静かに受け入れた。王妃の命令は、十二歳の少女にとっても、揺るぎない権威として届いた。
王妃の言葉に、母イザベルは息を呑んだ。それは実質的に、王子の健康と心を預けるという、あまりにも重い信頼の証だった。
「お待ちください! なぜステファニーが王宮で暮らさねばならないのですか!? まだ十二歳の娘を一人で王宮へ送り出すなど、到底受け入れられるものではありません!」
母イザベルが、王妃相手に声をあげる。
王妃も、イザベル侯爵夫人からの訴えは予想済みだったのだろう。条件を淡々と説明する。
「母として心配になるのは当然です。報奨金に加え細かい取り決めは後で書面に記します。ステファニーが中断を希望した場合には、必ずオラニエ侯爵家に送り届けます。滞在中は、一流の教師陣による教育も受けてもらえます」
エマニュエル王妃は、ステファニーを見つめて微笑んだ。
「ステファニー、王宮に滞在する間は、一流の料理人が作る各国料理が楽しめるわ。もちろん、パティシエのディーンのマカロンも新作があるわ」
ステファニーの目がアメジストのようにキラキラと輝く。
こうして、十二歳の少女は、癇癪王子の学友として、健康を密かに見守る役目を担うことになった。王宮で小さな異変が起きても、気付ける観察者がそばにいる——ステファニーは静かに、その任務を心に誓った。
まさか、ぽっちゃりの令嬢ステファニーに、ぽっちゃりの王子の生活指導を頼むとは……王妃も、さぞ困っているのだろう。
(……あら。王妃殿下、そんなに深刻そうに仰らなくても。わたくし、美味しいものを殿下と半分こするのは得意ですわよ?)
ステファニーのオーラは、王宮の陰謀や重圧などどこ吹く風。一流シェフの料理という言葉を聞いた瞬間から、期待でふかふかのピンク色に染まっていた。
「明日からの王宮暮らし、楽しみですわ。アルバート殿下、よろしくお願いしますね」
殿下の暗赤色のオーラに混じる「寂しさ」を、ステファニーはそっと見つめる。
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