17 / 44
第五話 盛装と決意②
しおりを挟む
リウの元へとズイと近寄り、至近距離でニコリと笑う。
キスをされる――リウが一瞬顎を引くと、ラーゴからフッと息が漏れる。
「今日はリウからキスしてくれませんか?」
「え、ええ?」
ホラ早く、とラーゴは自分の唇を指先でチョンチョンとつついた。
この一週間、日に何度も口づけをしていた。
それは恋人同士が愛を確かめるためのものではなく、あくまでリウの体内に蔓延る痛みを吸い出すためだ。だがそれを周囲に隠すためにも、周囲にはリウとラーゴは仲の良い婚約者だと偽っている。
そのせいで最近のリウには、メイドのメメルからは射殺さんばかりの視線が突き刺さるのだが。
「め、目を閉じてくれるか?」
「ふふ、その方が雰囲気が出ますもんね」
「そういうことじゃ、ない……」
茶化すもののラーゴは指示に従い、目を閉じてくれた。長い睫が、閉じられた瞼に影を落とす。こうやって改めて見ると、やはり綺麗な男だと思う。
若くて、才能がある。見目もよく、人気がある。マメで、料理だってうまい。
三十歳を目前にして呪いを受け、竜騎士の座すら危ういリウとは大違いだった。
「リウ?」
目を閉じたままのラーゴに名前を呼ばれ、リウはハッとした。
ギクシャクとラーゴに顔を近づける。吐息がかかる距離になると、心臓の鼓動がドクドクと煩い。
リウから口づけをするのは、初めてのことだった。
いつもラーゴがリウの様子を見て、頃合いを見てしてくれる。
ゆっくりと唇を重ねた。
角度を変えて何度も押し付けるように表面を擦ると、ラーゴの唇が開きリウを迎え入れる。
まだ戸惑いはあるものの、誘われるままに舌を差し込み、熱いラーゴの口腔へと招かれた。
「ん……」
他人の口の中の感触に驚いていると、己の舌にラーゴのそれが巻き付いた。
無意識に逃げようとするリウの腰は、いつのまにかラーゴに強く抱き留められている。
リウの舌に絡まって、くすぐり撫で上げるそれはまるで別の生き物のようだった。
「っは、う、ン」
強く吸い上げられ、身体が震える。
途端にリウの唇から甘い吐息が溢れた。ラーゴは満足げに目を細める。
「かわいい……リウ、リウ」
逃げ腰のリウを抱き留めて、ラーゴが覆い被さる。
先ほどから一転、ラーゴの舌がリウの口内に侵入して弄った。先ほどラーゴがしてくれたように、舌を絡めなければいけないのだろうが、息が上がるリウにはもう難しいことだった。
一方的に翻弄されるばかりで情けなく思う。
せめて口づけが離れないようにと、ラーゴの首に両腕を回した。
わずかに驚いたような気配がして、だが口づけは更に深くなる。
こうしてお互いの粘膜をより擦り合わせ快楽を高めることで、一度に吸収される痛みは増えるのだという。
最初にその推測を持ち出されたときには、眉唾ものだと思ったリウだった、
しかし実際一緒に検証をしていくと、確かに軽い口づけよりも痛みの発生が遅れるのは事実だった。
だから最近は一度の口づけが、まるで濃厚な恋人同士のようなものになってしまうのだ。
「んっ、ン……んえ」
ようやくラーゴの唇が離れた頃には、リウの舌はジンと痺れてうまく動かない。
「飛行です」
なんの脈絡もなく、ラーゴが呟いた。
茹だったリウの頭では、それがなんの話に該当するのか見当もつかず、疑問符が浮かぶばかりだ。
「僕は、飛行の魔法陣を作ったんです。魔力があれば誰でも空を飛べる――実際は魔法陣を使っても消費する魔力が多すぎるせいで、現時点でそれを使えるのは僕だけですが」
だから理論上は、なのです。ラーゴはそう呟いて、僅かに口角を上げた。
話を聞きながら、ようやくリウも頭の回転が戻って来た。
つまりラーゴが言っていることは、先ほどの問いへの回答であった。
「飛行の魔法陣で、認定魔法使いになった?」
「作った魔法陣は、今は限定的にしか使えませんがいつか大きな国の武器になる。そう考えられたようで、今の立場を得たのです。空を飛べるのは、鳥か翼を持つ魔物か――竜しかいないでしょう? 僕も同じように、空を飛びたかった」
まっすぐにリウを見つめながらも、ラーゴはどこか遠くを見ているようだった。
リウは思わず身を乗り出した。
「分かる! いいよな、空は! 俺も初めて竜に乗って大空高く飛んだ時には、こんなに自由な世界があるのかって驚いた。空と風と一体になるような、悩みなんて吹き飛ばしてしまうような壮大さが……って、すまない」
竜と同じように大空を愛するリウではあるが、あまりに熱が入りすぎた。
だがラーゴはそんなリウに呆れるでもなく、繋いでいた手に力を込める。
「もっと聞かせてください。リウの好きなものを、僕はいつだって知りたいので。竜に乗って空を飛ぶ時のコツはあるんですか?」
「っ、あるぞ。いいか、竜騎士は最初からうまく騎乗できるわけじゃない。まずは――」
気がつけばリウは、いかに空を飛ぶ竜が素晴らしいか、逞しい翼を動かす竜が美しいかを熱弁してしまっていた。
ラーゴは要所要所で合いの手を入れ、疑問を挟み、リウの話を引き出すのがとても上手だった。
そうしてオーブンがタマネギのキッシュを焼き上げるまでの間、リウはひとしきり竜について語り楽しい時間を過ごした。
だがラーゴが空を飛ぶ魔法陣の研究を選んだのか、その本質を深く考えることはなかったのだった。
キスをされる――リウが一瞬顎を引くと、ラーゴからフッと息が漏れる。
「今日はリウからキスしてくれませんか?」
「え、ええ?」
ホラ早く、とラーゴは自分の唇を指先でチョンチョンとつついた。
この一週間、日に何度も口づけをしていた。
それは恋人同士が愛を確かめるためのものではなく、あくまでリウの体内に蔓延る痛みを吸い出すためだ。だがそれを周囲に隠すためにも、周囲にはリウとラーゴは仲の良い婚約者だと偽っている。
そのせいで最近のリウには、メイドのメメルからは射殺さんばかりの視線が突き刺さるのだが。
「め、目を閉じてくれるか?」
「ふふ、その方が雰囲気が出ますもんね」
「そういうことじゃ、ない……」
茶化すもののラーゴは指示に従い、目を閉じてくれた。長い睫が、閉じられた瞼に影を落とす。こうやって改めて見ると、やはり綺麗な男だと思う。
若くて、才能がある。見目もよく、人気がある。マメで、料理だってうまい。
三十歳を目前にして呪いを受け、竜騎士の座すら危ういリウとは大違いだった。
「リウ?」
目を閉じたままのラーゴに名前を呼ばれ、リウはハッとした。
ギクシャクとラーゴに顔を近づける。吐息がかかる距離になると、心臓の鼓動がドクドクと煩い。
リウから口づけをするのは、初めてのことだった。
いつもラーゴがリウの様子を見て、頃合いを見てしてくれる。
ゆっくりと唇を重ねた。
角度を変えて何度も押し付けるように表面を擦ると、ラーゴの唇が開きリウを迎え入れる。
まだ戸惑いはあるものの、誘われるままに舌を差し込み、熱いラーゴの口腔へと招かれた。
「ん……」
他人の口の中の感触に驚いていると、己の舌にラーゴのそれが巻き付いた。
無意識に逃げようとするリウの腰は、いつのまにかラーゴに強く抱き留められている。
リウの舌に絡まって、くすぐり撫で上げるそれはまるで別の生き物のようだった。
「っは、う、ン」
強く吸い上げられ、身体が震える。
途端にリウの唇から甘い吐息が溢れた。ラーゴは満足げに目を細める。
「かわいい……リウ、リウ」
逃げ腰のリウを抱き留めて、ラーゴが覆い被さる。
先ほどから一転、ラーゴの舌がリウの口内に侵入して弄った。先ほどラーゴがしてくれたように、舌を絡めなければいけないのだろうが、息が上がるリウにはもう難しいことだった。
一方的に翻弄されるばかりで情けなく思う。
せめて口づけが離れないようにと、ラーゴの首に両腕を回した。
わずかに驚いたような気配がして、だが口づけは更に深くなる。
こうしてお互いの粘膜をより擦り合わせ快楽を高めることで、一度に吸収される痛みは増えるのだという。
最初にその推測を持ち出されたときには、眉唾ものだと思ったリウだった、
しかし実際一緒に検証をしていくと、確かに軽い口づけよりも痛みの発生が遅れるのは事実だった。
だから最近は一度の口づけが、まるで濃厚な恋人同士のようなものになってしまうのだ。
「んっ、ン……んえ」
ようやくラーゴの唇が離れた頃には、リウの舌はジンと痺れてうまく動かない。
「飛行です」
なんの脈絡もなく、ラーゴが呟いた。
茹だったリウの頭では、それがなんの話に該当するのか見当もつかず、疑問符が浮かぶばかりだ。
「僕は、飛行の魔法陣を作ったんです。魔力があれば誰でも空を飛べる――実際は魔法陣を使っても消費する魔力が多すぎるせいで、現時点でそれを使えるのは僕だけですが」
だから理論上は、なのです。ラーゴはそう呟いて、僅かに口角を上げた。
話を聞きながら、ようやくリウも頭の回転が戻って来た。
つまりラーゴが言っていることは、先ほどの問いへの回答であった。
「飛行の魔法陣で、認定魔法使いになった?」
「作った魔法陣は、今は限定的にしか使えませんがいつか大きな国の武器になる。そう考えられたようで、今の立場を得たのです。空を飛べるのは、鳥か翼を持つ魔物か――竜しかいないでしょう? 僕も同じように、空を飛びたかった」
まっすぐにリウを見つめながらも、ラーゴはどこか遠くを見ているようだった。
リウは思わず身を乗り出した。
「分かる! いいよな、空は! 俺も初めて竜に乗って大空高く飛んだ時には、こんなに自由な世界があるのかって驚いた。空と風と一体になるような、悩みなんて吹き飛ばしてしまうような壮大さが……って、すまない」
竜と同じように大空を愛するリウではあるが、あまりに熱が入りすぎた。
だがラーゴはそんなリウに呆れるでもなく、繋いでいた手に力を込める。
「もっと聞かせてください。リウの好きなものを、僕はいつだって知りたいので。竜に乗って空を飛ぶ時のコツはあるんですか?」
「っ、あるぞ。いいか、竜騎士は最初からうまく騎乗できるわけじゃない。まずは――」
気がつけばリウは、いかに空を飛ぶ竜が素晴らしいか、逞しい翼を動かす竜が美しいかを熱弁してしまっていた。
ラーゴは要所要所で合いの手を入れ、疑問を挟み、リウの話を引き出すのがとても上手だった。
そうしてオーブンがタマネギのキッシュを焼き上げるまでの間、リウはひとしきり竜について語り楽しい時間を過ごした。
だがラーゴが空を飛ぶ魔法陣の研究を選んだのか、その本質を深く考えることはなかったのだった。
158
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない
天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる