呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第五話 盛装と決意③

 いよいよ叙勲式の朝となった。
 リウはいつもよりも早起きをし、風呂へと入れられ、メメルによってあれこれ着飾られていた。
 鏡の前に腰を下ろすリウの周囲を、メメルはクルクルと動き回る。肌の手入れや髪のセットを入念にされ、リウの人生でこんなに丁寧に飾り立てられるのは初めてだ。
 手先の器用なメメルは、普段洗いざらしのリウの髪の毛をあっという間に綺麗に整えてしまう。
 叙勲式では竜騎士の正装で参加するため、仕立ててもらった衣装は事前にラーゴが王宮の控え室へ持っていった。まだリウは目にしていないものの、機嫌の良さそうなラーゴの様子から察するに、いい出来映えだったのだろう。
 その本人はといえば朝から仕事があるからと、名残惜しそうにリウを抱きしめて出て行ってしまった。もちろん痛みを消すために出掛けに濃厚な口づけをしているが、いつも通りメメルの怒りをかっている。
 リウの毛先をチョイチョイと細かく調整するメメルは、実に真剣な表情だ。
 自分などよりもラーゴを飾り立てた方が楽しいだろうにと思うのだが、それをメメルに伝えると「全く同感です」と言われてしまう。
「リウ様はラーゴ様の婚約者です。例え個人的にアレな感情を持っているにせよ、ラーゴ様の隣に立つ以上最高の状態で臨んでいただかなくてはいけません」
 歯に衣着せないメメルの言い方に、リウは苦笑を漏らす。
 だがリウは案外、メメルのことは気に入っていた。
 この二週間、その殆どをこの屋敷で過ごしていた。その間、食事以外の世話を焼いてくれたのが、メメルだ。
 口と態度は悪いメメルだが、決して職務をおざなりにすることはなく、細かいことにもよく気がついてくれた。素直すぎる性格は時に問題はあるだろうが、リウにとってはこれくらい素直な方が過ごしやすい。
 それに孤児院でもこういう子供はよくいたのだ。
「それじゃ今日の俺なら、ラーゴの隣に立てる及第点は貰えるかな?」
「メメルの力をもってしても、ギリギリですね」
「あははっ」
 両腕を組み、フンと鼻息を吐くメメルが面白くてリウは大笑いした。
 なんだかんだ駄目だとは言わないのだ。
「さ、できましたよ。髪の毛が崩れるので絶対に触らないでください。完璧な仕上げが台無しになります」
「俺は触らないけど……ラーゴにも言ってくれるかい?」
 後ろに流された髪の毛は、立体的な細かい束を作って固められている。
 あまり見ないリウの立ち姿に、ラーゴが喜び抱きしめてくる可能性は大きい。
「ラーゴ様が崩されるならしかたありません。それこそ至高の髪型なのでしょう」
「ぶれないなあ」
 この主従はどことなくこういう部分が似ている気がした。
 渡された濃紺の上着を羽織り、襟元まで並ぶ金ボタンを止める。
 普段着として着用していた制服とは違い、正装用に用意されている特別な竜騎士服は、生地も華やかな金糸が使われていた。
 騎士団と同じ色合いだが、あちらは赤色を基調に誂えられている。赤は/セデンス国の国章にも使われ、一部の赤色は王族に使用が限定されるほど特別な色だ。
 では竜騎士団は特別でないのかといえば、そうではない。始まりは騎士団と同様の制服だったのだ。しかし平民出身が多く意識の低さが多かった竜騎士の中では、配給される制服の管理が杜撰な者もいた。結果として制服を紛失してしまう者も多く、盗んだ制服を使用し偽騎士として犯罪を犯す不届き者が現われることがしばしあった。
 そのため竜騎士と騎士は色を分けられた、という経緯がある。
 さらには制服を紛失した際には、色を変えた全員分の制服を自腹で新調せよ、と言われている。もちろん安くはない。つまりそれをしたくなければ管理を怠るなという話なのだ。
 さらに教養不足の竜騎士に対しては一年かけて入念な座学の時間が用意されるため、勉強に慣れないリウのような平民出身者でも知識と教養を得ることができた。
 そのお陰で特別な式典の際でも臆することはない。
「よし、そろそろ行こうかな」 
 肩から胸へと流れる金色の飾緒が、鏡の中で揺れる。
 年に数回しか着ない正装を身に纏い、髪の毛を整え香水までつけたリウは、まさに晴れ姿だ。
「え、もう行かれるんですか。さすがに早すぎませんか。いくらメメルとて、今日の主役をさっさと追い出そうってつもりはないでげすよ」
「はは、そういうわけじゃないんだ。先に寄りたいところがあるから」
 慌てるメメルに、リウは微笑みを向ける。
 用意してもらった屋敷の馬車に乗り込み、まだ朝露も乾かない時間の街道を走った。

 リウが足を降ろした先は城でも竜騎士団でもなかった。
 王城内の端、竜舎からすこし離れた場所にある、ちょっとした林のようになっている一角だ。その中にまだ添え木をされている、植えられたばかりの若い苗木がある。
 そしてその横には石に刻まれた――ショアという名前。
 それは王子の気まぐれで殺されてしまった、同僚コラディルの竜の名前だ。
 真っ赤な鱗が美しく、コラディルと一緒に大空を舞う姿は凜々しかった。気難しい彼女だったが、リウの相棒である竜のガジャラとは仲睦まじい姉妹で、よく鱗を擦りつけてじゃれあっていた。
 この国が管理している竜は亡くなるとここに埋められ、墓石の代わりに木を植える。樹木葬と呼ばれるものに近い。
 こうすることで竜の体内に宿る魔力は肉体ごと土へと還り、現役で活動する竜にとって居心地のよい場所になるのだという。そのため竜舎に近い場所に用意され、仲間を喪ったばかりの竜にも竜騎士にも慰めになる。
 亡くなったショアの墓前には、既に大輪の花が供えられていた。
 まだ新鮮なそれは、ショアの鱗と同じ真っ赤な花びらが美しい。
「ショア。来るのが遅くなって、ごめんな」
 リウは膝を突き、持ってきた花を静かに手向けた。
 それからその隣には小さな魔石を置く。魔石はやや値が張るものの、良質な魔力を含んでいるこれは、竜の好きな食べ物だ。
 ショアも何度、リウの手から魔石を食べてくれたか。
 鋭い瞳が嬉しそうに細められるあの表情は、もう二度と見ることができない。
「守ってやれなくて、すまなかった」
 第二王子が我が儘な暴君だということは、リウだって知っていたはずだ。
 まさか竜騎士を差し置いて竜に跨がろうとするとは思いもよらなかったが、それはリウたちの慢心だった。
 竜騎士として国に忠誠を誓っている限り守るべきは王族だと、理解はしている。
 だがそれ以前に、リウたち竜騎士を竜騎士にしてくれたのは竜なのだ。
「なあショア。俺はこの呪いを、お前を守り切れなかった罰なんじゃないかと思うんだ」
 もっと第二王子に注意していればよかった。そうすればショアを喪わず、そして彼女の相棒であった同僚のコラディルも、まだ竜騎士として活躍できていたのに。
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