呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

文字の大きさ
16 / 44

第五話 盛装と決意①

しおりを挟む
「う、っ、まて、ラーゴ……!」
 リウは涙声になりながらも必死に訴えかけるが、ラーゴはそれをピシャリとはね除ける。
 それどここかリウの手を押さえ込んでいた彼の手に力が込もった。
「無理だって、もう……っ、うあ」
「大丈夫ですから。自分で擦らないで。僕と呼吸を合わせて、一気にいきますから」
 首筋にラーゴの吐息が当たる。
 ぐっと力が込められ、我慢出来ずにリウが叫ぶ。
「うわー、痛い! やっぱり俺には料理なんて無理だったんだ!」
「でも半分はタマネギを切れたじゃないですか。凄いことですよ」
「ラーゴは俺に甘すぎる。あー、目が痛い」
 キッチンの水洗い場で、リウは涙が溢れていた目をジャブジャブと流す。
 今日はラーゴの屋敷で包丁を握り、その上からさらにラーゴから支えて貰い料理に挑戦していた。ラーゴは「リウの食事は全部自分が作る」と宣言した通り、あれからずっと三食全て手料理を用意してくれているのだ。
 さすがに甘えっぱなしでは申し訳ないと思ったリウは、初めて手伝いを申し出たのだ。
 しかし包丁というものは、リウにとって剣の扱い以上に難しい。
「宿舎では食事が用意されてたし、孤児院でも院長先生が早々に俺を食事当番から外したんだ。多分昔から、料理のセンスがないのかもしれない」
 差し出された手拭いで顔を拭く。水で洗い流したことで、ヒリヒリしていた眼球はようやく落ち着きをみせたようだ。
「手伝いをしたいだなんて、かえってラーゴの邪魔をしてしまったな」
「とんでもない。リウと一緒に過ごせる時間が増えただけでも、十分嬉しいんですよ」
 そう言うと、ラーゴはとっくに切り終わっていたタマネギとベーコンを炒める。
 ジュワッという音と、周囲にいい匂いが広がった。
 ラーゴはリウに異常に甘い。
 その上本当に本気なのか冗談なのか分からないが、リウへ対しては本物の婚約者かのように丁寧に接し、周囲に誰もいなくとも愛を囁くのだ。
 この屋敷に来てから一週間が経てば、さすがの鈍いリウも、このままでいいのだろうかと首を傾げるようになった。
 あまりにラーゴは、リウのために時間を割きすぎている。
 まず、寝るときは基本的に一緒だ。
 理由はある。寝る直前にも痛みを吸収しておきたいということらしい。さらに夜間にもしも痛みが発生した際は、隣にいればすぐに対応できるとの合理的な判断だ。
 そして、食事だ。
 これは先に述べたように、この一週間リウは本当に、ラーゴの作ったものしか口にしていない。ラーゴ曰く「自分の作ったものでリウの身体を作りたい」ということだった。
 メイドのメメルはそれを「どの食材がどう作用するか、魔法の効果をはかりたいだけじゃないですかあ?」と言っていたため、むしろそちらが本心なのだろうとリウは考えている。
 それにしても手間をかけすぎているため、申し訳なく思っていた。
「痛みを緩和してもらい、衣食住まで世話になっているんだ。なにか俺がラーゴにできることはないか? 庭の草むしりでも掃除でも、料理と裁縫以外なら一通りできるぞ」
「それならずっと僕のそばにいてほしいですね」
「またそんなことを言って……まったく、このままでは叙勲式まで、ただ美味しい食事を食べるだけで太ってしまう」
 ラーゴの作る食事は妙にリウの口に合う。以前に比べて隙間のなくなったウエストを、リウは指先で摘まむ。
「世界におけるリウの体積が増えるのなら、大変喜ばしいことです」
「せっかくラーゴが選んだ服が入らなくなるぞ」
「それは困ります。はい、できた。味見をどうぞ」
 突き出されたフォークを、リウは条件反射で口にした。じっくりと炒めたタマネギとベーコンの脂が、口の中でとろりと蕩ける美味しさだ。
「美味しいな。ラーゴはなぜこんなに料理が上手なんだ?」
 先に用意していた生地を取り出そうとしたラーゴが、一瞬止まる。
「……作らざるをえない環境にいたから、でしょうか」
 含みの感じられる言い方だ。
 リウとラーゴとの間に、見えない明確な一線を引かれたような気がした。
 これ以上は近づくなと、そう言われている。
「そうか」
 リウはそれ以上問いかけることを止めたが、自分の声音は思ったよりも重く響いた。
 生地を伸ばしていたラーゴは、慌てて麺棒を置いて弁明する。
「ああ違いますよ、勘違いしないでください。リウに知られては困ることなんて、なにもありません。ですが僕の過去なんて面白い話でもないので、お耳汚しかと思うんです」
「ラーゴは俺の話をそう感じるのか?」
「まさか。愛するリウの話であれば、聖書の読み上げすら夜を徹して拝聴できます」
「……そこまでとはさすがにいかないが、俺だってラーゴの話には興味がある。俺の情けない部分を知られてばかりで、お前のことは何も知らない」
 リウの言葉にラーゴは僅かに目を見張る。
 それから困ったように曖昧に笑みを作った。
「ありがとうございます。ですが本当に、つまらない話ばかりなんですよ」
 どこか力のない言葉を紡ぐ男の過去は、どんなものだったのだろうか。
 認定魔法使いとなり、大きな屋敷を維持できるほどの男の過去が形通りのものであったはずがない。
 だが言い方は柔らかいものの、ラーゴはそこに踏み入ることを望んでいないのだ。それがリウであっても。いや、リウだからだろうか。
 それを僅かに感じ取り、リウは肩をすくめた。
「じゃあ、これはどうだ。認定魔法使いはどんな仕事をするのか、教えてほしい。俺は竜にかまけてばかりで、魔法使いを間近に見たのもまだつい最近なんんだ」
 ガラリと雰囲気を変えたリウの質問に、ラーゴは僅かに息を吐いた。
 恐らくリウの気遣いを察しているのだろう。
 止めていた調理の手を再開させ、台の上で生地をのばした。
「そうですね、認定魔法使いと言っても、やっていることは一般の魔法使いと変わりません。体内の魔力を練って魔法を発動させるんです。ただ、魔法陣の研究をするしないは、魔法使いの資質によって変わりますね」
「魔法陣」
「十の魔法のために十の魔力を使うのでは、保有している魔力が少ない者はすぐに力尽きてしまいますよね? だから十の魔法を五や二の魔力で行使するための補助具として、魔法陣が存在しているんです」
 全く知らなかった世界の説明に、リウは興味津々だった。
 話している間にもラーゴの手元では、薄べったくなった生地が高さのある形にしきつめられ、先ほど炒めたタマネギたちが流し込まれる。
「保持している魔力量も多少は加味されますが、認定魔法使いは各自が開発した魔法陣の功績が大きいのです。魔法は純粋な個人の魔力とセンスだけの勝負ですが、魔法陣であれば、理論上は魔力を有する誰しもが使用できますからね。あくまで理論上は、ですが」
「へえ。俺は魔法陣の存在すら知らなかったから勉強になるよ」
 やけに理論上を強調するラーゴではあったが。となればラーゴが認定魔法使いになった切っ掛けも、なにか新しい魔法陣を開発したからだろう。
「ラーゴはどんな魔法陣を作ったんだ?」
 単純な疑問をラーゴにぶつける。全く知らなかった世界で功績を上げた男は、熱したオーブンの蓋を閉め、リウに向き直った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

処理中です...