呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第四話 買い出しと孤児院④

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「リウ、彼女はゴッドランド宰相の姪なのです。真実を正しく理解してくださっているので、安心していいですよ」
「え」
 微笑むディジイの顔つきには、確かにあのゴッドランド宰相の面影がある。
 しかしあの人の姪となればディジイも高位貴族だろうに、なぜ店先に立っているのだろうか。リウの疑問は全て顔に出ていたようで、ディジイはフフッと笑う。
「昔からわたくし、服が大好きでしたの。結婚後、夫の勧めで洋服店をいくつか持たせて貰ったのですが、次第に自分でもデザインして作りたくなって……ここはわたくしが採算度外視で遊ばせていただく、趣味のお店ですのよ」
 ラーゴが言うには、屋敷にいた段階で来訪の手紙を魔法で届けていたらしい。
 趣味人らしいディジイは気に入った人の服は作るが、意に沿わない客は断るという。
 それでは自分を見て断る可能性だってあっただろうとリウが言うと、何故かラーゴは自信たっぷりに言い返す。
「ディジイさんなら、リウを気に入らないわけがないと思っていましたので」
「あらあら、よく分かってらっしゃるわ」
 コロコロと鈴が鳴るように笑うディジイは、やはり高位貴族らしく品がある。親しい様子の二人に何故かリウはもやっとしながらも、無事に彼女のお眼鏡に適ったことに安堵した。
「さあさあ、それじゃあ先に原型を作るから、採寸をしましょうね。ピピ、お願いできる?」
 ディジイが店の奥に声をかけると、後ろのドアから一人の若い女性が現われた。薄い水色の髪を三つ編みにし、素朴な顔立ちが可愛らしい。
 おずおずとした少女は手に巻き尺を持っている様子から、この女性が採寸をするのだろう。
 ピピと呼ばれた女性はリウたちの元に歩み寄ると、驚いた顔をした。
「リウ……リウお兄ちゃん!?」
「え?」
「あたしだよ、ピピ! ピーちゃん! 孤児院で一緒だった、覚えてない?」
 ピーちゃんと言われて、リウの頭に懐かしい子供が思い浮かんだ。
 リウが孤児院を出る一年前にやってきた子供で、リウを取り合っていた元気な子供たちの一人だ。
 確かにあの子と同じ水色の髪の毛だが、うんと短かったため暫く男の子だと思っていたほどだった。懐かしい少女に、まさかこんな場所で再会するとは。
 だとすれば、年齢は二十三歳だったはずだ。思えばそれは、ラーゴと同い年でもある。
「ピーちゃんか。覚えているよ。よく俺の腕を引っ張って、遊びに誘ってくれていたな」
「へへ、そう! リウお兄ちゃんは院長先生より優しくって、みんな大好きだったから。ほら特にあの子、黒髪のラッセとかリッセとかいってたあの子と、どっちがリウ兄ちゃんと手を繋ぐかで、いっつもバチバチに競争してたんだから」
 リウが孤児院を出る数年前は年の離れた子供たちが多く、まるで本物の兄になった気持ちだった。そういえば黒髪の子供も、普段は誰とも話さず静かなのに気がつくとリウの隣にいた。
 あの頃のリウは少しでも他人に必要とされていることが嬉しくて、孤児院の子供たちにも全力で相手をしていたように思う。
「ああ、あの子といつも喧嘩してたな。しかしあのピーちゃんが、こんな立派な店で働けるようになったとは。すごいなあ」
 懐かしさに目を細めていると、ピピは照れたように笑った。
「リウお兄ちゃんのおかげだよ。孤児院出身の竜騎士として信用を積み重ねて作ってくれたから、あたしたちもいいお店に雇って貰えたの。本当に、本当にありがとう!」
 感謝の言葉を口にしたピピは、リウの手をギュッと握った。
 だが握られたその手には赤黒い呪いの痕跡がありありと浮かんでいる。思わず手を引っ込めようとしたリウに、ピピは手を離さずに力強い言葉を紡いだ。
「呪いの噂、聞いてるよ。でも、リウお兄ちゃんは竜バカで有名だったんだよ。絶対お兄ちゃんが悪いわけじゃないって、連絡の取り合ってる仲間たちとも話してたの。分かってるひとはちゃんと分かってるからね」
「そうか……」
 リウは思わず目を細める。
 誤解されている事実を今は覆す手段はないものの、こうやって自分のことを信じてくれている人がいる。それはリウの気持ちを随分楽にしてくれた。
「ピピ、リウ様は第二王子殿下を庇って、代わりに呪いを受けてしまったのよ。認定魔法使いであるラーゴ様は、リウ様の力になりたいと側にいてくださっているの」
「酷い! 第二王子はやっぱり、噂通りのクソ男じゃん!」
「まあピピ、お客様の前ではしたないわ。ごめんなさい、普段は礼儀正しい子なんですけれど……懐かしい再会に気が緩んでしまったのね」
 憤慨するピピをディジイは叱るが、リウは思いのほかその言葉に助けられた。
 リウは竜騎士として王家に忠誠を誓った身だ。例え竜を粗末に扱われようと、王子を庇いこの身に呪いを受けようと、それに文句を言える立場ではないと、そう思っていた。
 だがリウを慕い、率直に王子への怒りを口にするピピの言葉が嬉しかった。
「いいんですよ夫人。ピピ、俺のために怒ってくれてありがとう」
 昔を懐かしむ気持ちもあり、当時よくしていたようにその水色の頭を撫でようとリウは無意識に手を伸ばした。
 だがそれはピピの頭に触れる直前に、手首を掴まれることで阻まれた。
「リウ、いくら昔なじみでも女性の頭を気軽に撫でるものではないですよ」
 手首を掴んだのは、リウの隣で静かにしていたラーゴだった。
 驚いたものの、ラーゴの指摘はもっともだ。
「そうだな、ありがとうラーゴ」
「代わりに僕の頭を撫でますか? 未来の夫の頭なら、撫で放題ですよ」
 甘い声でそう囁き、細める紫色の瞳は妖しく光る。
 ラーゴはリウの手のひらを自身の頬に導き、その辺の淑女ならば倒れそうな、蠱惑的な仕草を立った一人に見せる。
「はは、ラーゴの冗談は面白いな」
 だが色男の流し目も、リウには響かない。
 むしろラーゴは考えの至らなかったリウをやんわりと諫め、さらに場の空気が悪くならないようにフォローしてくれたのだと思っている。
 年下とはいえ気遣いのできるラーゴに、リウは感謝を深めていた。
「あらあら……前途多難ですわねラーゴ様」
「リウお兄ちゃんて……天然?」
 二人のやりとりから事情を察した女性陣たちは、哀れむような目でラーゴを見たのだった。
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