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第五話 盛装と決意②
リウの元へとズイと近寄り、至近距離でニコリと笑う。
キスをされる――リウが一瞬顎を引くと、ラーゴからフッと息が漏れる。
「今日はリウからキスしてくれませんか?」
「え、ええ?」
ホラ早く、とラーゴは自分の唇を指先でチョンチョンとつついた。
この一週間、日に何度も口づけをしていた。
それは恋人同士が愛を確かめるためのものではなく、あくまでリウの体内に蔓延る痛みを吸い出すためだ。だがそれを周囲に隠すためにも、周囲にはリウとラーゴは仲の良い婚約者だと偽っている。
そのせいで最近のリウには、メイドのメメルからは射殺さんばかりの視線が突き刺さるのだが。
「め、目を閉じてくれるか?」
「ふふ、その方が雰囲気が出ますもんね」
「そういうことじゃ、ない……」
茶化すもののラーゴは指示に従い、目を閉じてくれた。長い睫が、閉じられた瞼に影を落とす。こうやって改めて見ると、やはり綺麗な男だと思う。
若くて、才能がある。見目もよく、人気がある。マメで、料理だってうまい。
三十歳を目前にして呪いを受け、竜騎士の座すら危ういリウとは大違いだった。
「リウ?」
目を閉じたままのラーゴに名前を呼ばれ、リウはハッとした。
ギクシャクとラーゴに顔を近づける。吐息がかかる距離になると、心臓の鼓動がドクドクと煩い。
リウから口づけをするのは、初めてのことだった。
いつもラーゴがリウの様子を見て、頃合いを見てしてくれる。
ゆっくりと唇を重ねた。
角度を変えて何度も押し付けるように表面を擦ると、ラーゴの唇が開きリウを迎え入れる。
まだ戸惑いはあるものの、誘われるままに舌を差し込み、熱いラーゴの口腔へと招かれた。
「ん……」
他人の口の中の感触に驚いていると、己の舌にラーゴのそれが巻き付いた。
無意識に逃げようとするリウの腰は、いつのまにかラーゴに強く抱き留められている。
リウの舌に絡まって、くすぐり撫で上げるそれはまるで別の生き物のようだった。
「っは、う、ン」
強く吸い上げられ、身体が震える。
途端にリウの唇から甘い吐息が溢れた。ラーゴは満足げに目を細める。
「かわいい……リウ、リウ」
逃げ腰のリウを抱き留めて、ラーゴが覆い被さる。
先ほどから一転、ラーゴの舌がリウの口内に侵入して弄った。先ほどラーゴがしてくれたように、舌を絡めなければいけないのだろうが、息が上がるリウにはもう難しいことだった。
一方的に翻弄されるばかりで情けなく思う。
せめて口づけが離れないようにと、ラーゴの首に両腕を回した。
わずかに驚いたような気配がして、だが口づけは更に深くなる。
こうしてお互いの粘膜をより擦り合わせ快楽を高めることで、一度に吸収される痛みは増えるのだという。
最初にその推測を持ち出されたときには、眉唾ものだと思ったリウだった、
しかし実際一緒に検証をしていくと、確かに軽い口づけよりも痛みの発生が遅れるのは事実だった。
だから最近は一度の口づけが、まるで濃厚な恋人同士のようなものになってしまうのだ。
「んっ、ン……んえ」
ようやくラーゴの唇が離れた頃には、リウの舌はジンと痺れてうまく動かない。
「飛行です」
なんの脈絡もなく、ラーゴが呟いた。
茹だったリウの頭では、それがなんの話に該当するのか見当もつかず、疑問符が浮かぶばかりだ。
「僕は、飛行の魔法陣を作ったんです。魔力があれば誰でも空を飛べる――実際は魔法陣を使っても消費する魔力が多すぎるせいで、現時点でそれを使えるのは僕だけですが」
だから理論上は、なのです。ラーゴはそう呟いて、僅かに口角を上げた。
話を聞きながら、ようやくリウも頭の回転が戻って来た。
つまりラーゴが言っていることは、先ほどの問いへの回答であった。
「飛行の魔法陣で、認定魔法使いになった?」
「作った魔法陣は、今は限定的にしか使えませんがいつか大きな国の武器になる。そう考えられたようで、今の立場を得たのです。空を飛べるのは、鳥か翼を持つ魔物か――竜しかいないでしょう? 僕も同じように、空を飛びたかった」
まっすぐにリウを見つめながらも、ラーゴはどこか遠くを見ているようだった。
リウは思わず身を乗り出した。
「分かる! いいよな、空は! 俺も初めて竜に乗って大空高く飛んだ時には、こんなに自由な世界があるのかって驚いた。空と風と一体になるような、悩みなんて吹き飛ばしてしまうような壮大さが……って、すまない」
竜と同じように大空を愛するリウではあるが、あまりに熱が入りすぎた。
だがラーゴはそんなリウに呆れるでもなく、繋いでいた手に力を込める。
「もっと聞かせてください。リウの好きなものを、僕はいつだって知りたいので。竜に乗って空を飛ぶ時のコツはあるんですか?」
「っ、あるぞ。いいか、竜騎士は最初からうまく騎乗できるわけじゃない。まずは――」
気がつけばリウは、いかに空を飛ぶ竜が素晴らしいか、逞しい翼を動かす竜が美しいかを熱弁してしまっていた。
ラーゴは要所要所で合いの手を入れ、疑問を挟み、リウの話を引き出すのがとても上手だった。
そうしてオーブンがタマネギのキッシュを焼き上げるまでの間、リウはひとしきり竜について語り楽しい時間を過ごした。
だがラーゴが空を飛ぶ魔法陣の研究を選んだのか、その本質を深く考えることはなかったのだった。
キスをされる――リウが一瞬顎を引くと、ラーゴからフッと息が漏れる。
「今日はリウからキスしてくれませんか?」
「え、ええ?」
ホラ早く、とラーゴは自分の唇を指先でチョンチョンとつついた。
この一週間、日に何度も口づけをしていた。
それは恋人同士が愛を確かめるためのものではなく、あくまでリウの体内に蔓延る痛みを吸い出すためだ。だがそれを周囲に隠すためにも、周囲にはリウとラーゴは仲の良い婚約者だと偽っている。
そのせいで最近のリウには、メイドのメメルからは射殺さんばかりの視線が突き刺さるのだが。
「め、目を閉じてくれるか?」
「ふふ、その方が雰囲気が出ますもんね」
「そういうことじゃ、ない……」
茶化すもののラーゴは指示に従い、目を閉じてくれた。長い睫が、閉じられた瞼に影を落とす。こうやって改めて見ると、やはり綺麗な男だと思う。
若くて、才能がある。見目もよく、人気がある。マメで、料理だってうまい。
三十歳を目前にして呪いを受け、竜騎士の座すら危ういリウとは大違いだった。
「リウ?」
目を閉じたままのラーゴに名前を呼ばれ、リウはハッとした。
ギクシャクとラーゴに顔を近づける。吐息がかかる距離になると、心臓の鼓動がドクドクと煩い。
リウから口づけをするのは、初めてのことだった。
いつもラーゴがリウの様子を見て、頃合いを見てしてくれる。
ゆっくりと唇を重ねた。
角度を変えて何度も押し付けるように表面を擦ると、ラーゴの唇が開きリウを迎え入れる。
まだ戸惑いはあるものの、誘われるままに舌を差し込み、熱いラーゴの口腔へと招かれた。
「ん……」
他人の口の中の感触に驚いていると、己の舌にラーゴのそれが巻き付いた。
無意識に逃げようとするリウの腰は、いつのまにかラーゴに強く抱き留められている。
リウの舌に絡まって、くすぐり撫で上げるそれはまるで別の生き物のようだった。
「っは、う、ン」
強く吸い上げられ、身体が震える。
途端にリウの唇から甘い吐息が溢れた。ラーゴは満足げに目を細める。
「かわいい……リウ、リウ」
逃げ腰のリウを抱き留めて、ラーゴが覆い被さる。
先ほどから一転、ラーゴの舌がリウの口内に侵入して弄った。先ほどラーゴがしてくれたように、舌を絡めなければいけないのだろうが、息が上がるリウにはもう難しいことだった。
一方的に翻弄されるばかりで情けなく思う。
せめて口づけが離れないようにと、ラーゴの首に両腕を回した。
わずかに驚いたような気配がして、だが口づけは更に深くなる。
こうしてお互いの粘膜をより擦り合わせ快楽を高めることで、一度に吸収される痛みは増えるのだという。
最初にその推測を持ち出されたときには、眉唾ものだと思ったリウだった、
しかし実際一緒に検証をしていくと、確かに軽い口づけよりも痛みの発生が遅れるのは事実だった。
だから最近は一度の口づけが、まるで濃厚な恋人同士のようなものになってしまうのだ。
「んっ、ン……んえ」
ようやくラーゴの唇が離れた頃には、リウの舌はジンと痺れてうまく動かない。
「飛行です」
なんの脈絡もなく、ラーゴが呟いた。
茹だったリウの頭では、それがなんの話に該当するのか見当もつかず、疑問符が浮かぶばかりだ。
「僕は、飛行の魔法陣を作ったんです。魔力があれば誰でも空を飛べる――実際は魔法陣を使っても消費する魔力が多すぎるせいで、現時点でそれを使えるのは僕だけですが」
だから理論上は、なのです。ラーゴはそう呟いて、僅かに口角を上げた。
話を聞きながら、ようやくリウも頭の回転が戻って来た。
つまりラーゴが言っていることは、先ほどの問いへの回答であった。
「飛行の魔法陣で、認定魔法使いになった?」
「作った魔法陣は、今は限定的にしか使えませんがいつか大きな国の武器になる。そう考えられたようで、今の立場を得たのです。空を飛べるのは、鳥か翼を持つ魔物か――竜しかいないでしょう? 僕も同じように、空を飛びたかった」
まっすぐにリウを見つめながらも、ラーゴはどこか遠くを見ているようだった。
リウは思わず身を乗り出した。
「分かる! いいよな、空は! 俺も初めて竜に乗って大空高く飛んだ時には、こんなに自由な世界があるのかって驚いた。空と風と一体になるような、悩みなんて吹き飛ばしてしまうような壮大さが……って、すまない」
竜と同じように大空を愛するリウではあるが、あまりに熱が入りすぎた。
だがラーゴはそんなリウに呆れるでもなく、繋いでいた手に力を込める。
「もっと聞かせてください。リウの好きなものを、僕はいつだって知りたいので。竜に乗って空を飛ぶ時のコツはあるんですか?」
「っ、あるぞ。いいか、竜騎士は最初からうまく騎乗できるわけじゃない。まずは――」
気がつけばリウは、いかに空を飛ぶ竜が素晴らしいか、逞しい翼を動かす竜が美しいかを熱弁してしまっていた。
ラーゴは要所要所で合いの手を入れ、疑問を挟み、リウの話を引き出すのがとても上手だった。
そうしてオーブンがタマネギのキッシュを焼き上げるまでの間、リウはひとしきり竜について語り楽しい時間を過ごした。
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