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第六話 夜会と邂逅
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真っ赤な絨毯が敷かれた式典の間には、城内で重要な役職に就いている貴族たちの姿もある。だが彼らは静かに顔を見合わせ、リウに好奇の視線を向ける者もあれば、眉をひそめる者もあった。
呪いを身に受けたリウをよく思わない人間は、少なくない。
中央にある絨毯の左右には、様々な感情を抱えた人々が参列していた。
「リウ・パッフ。そなたは命をかけて第二王子ミッシャラ・セデンスを守った。その功績を讃え竜騎士団・副団長を授ける」
威厳に溢れる国王の声が、広い室内に響いた。五十歳になろうかというこの国の主は争いを好まず穏やかな人物で有名だ。
だからこそあの第二の身勝手さは、王妃譲りなのだろうと陰で噂されているほどだ。
「拝命いたします」
リウの言葉に、国王は深く頷き壇上へと戻る。
入れ替わるように宰相が現れ、予定通り記念品の剣と盾を与えられた。
騎士、並びに竜騎士が見守る中、これでリウは副団長となる。
副団長とはいっても、竜騎士団は既に三人の副団長がいる。リウが副団長になったところで、竜騎士団の体制が変わるわけでもない。
これはただの褒章だ。息子の代わりに呪いを受けたリウへの、国王からの詫びのようなものだと、ここにいる誰もが理解している。
恭しく膝をつき、頭を垂れるリウの後ろからまばらな拍手が上がった。
リウは立ち上がり参列者たちに一礼すると、教えられたとおりに赤色の絨毯を歩いて扉へと向かう。
「見ろよあの手。気持ちワル」
歩きながらリウの耳は、小さな男の声を拾った。
誰の声だろうか。竜騎士ではない、騎士団の者かもしれない。
「たかだか呪いで出世できるなら、俺がやりたかったぜ」
「見てるだけでこっちまで呪われそうじゃな」
ヒソヒソと囁く声はとても小さいはずなのに、リウの心臓を的確に突き刺していく。
リウはうつむきそうになる自分を叱責し、まっすぐに正面だけを見た。
誰も彼もが自分を受け入れてくれているわけではないのだ。
呪いを受ける前の自分は、こんなに弱かっただろうか。リウは冷たくなる指先を、小さく握った。
呼吸が浅くなる。
あと少し、もう少しだ。歩け、踏み出せ。
リウは萎縮しかける自分を鼓舞する。
だが、途中で涼やかな声が耳に飛び込んだ。それはとても小さく、だが力強い。
「おめでとうございます、リウ」
リウはハッとして、思わずその声の方向に顔を向けた。
一瞬だけかち合った視線の先には、紫色の瞳があった。
ラーゴだ。
認定魔法使いの彼も、式典から参加してくれたのだ。
視線がかち合ったのは、時間にしたらほんの一瞬だったかもしれない。
だがリウにはそれで十分だった。
リウはすぐに視線を元に戻すと、顎を引き、顔を上げた。
周囲の陰口はもうリウの耳には入らない。力強く床を蹴り、脚を上げて歩く。
左右から開かれる扉をくぐり、リウは改めて会場内へと向き直る。いくつもの視線がリウを見つめる。しかしもう怖くない。
深く頭を下げるリウの動きに合わせて、扉はゆっくりと閉められた。
完全に扉が閉まると、リウは詰めてた息を吐く。
気を抜けば壁にもたれてしまいそうになる。
ラーゴがあそこにいなければ、どうなっていただろうか。
リウにとって彼の存在は日に日に大きくなっていた。
叙勲式後のパーティーは、城内で最も大きいダンスホールで行われることとなっている。
鮮やかな絵画に彩られた天井には、巨大なクリスタルシャンデリアが大輪の花のように輝く。その周囲には華やかな意匠が施された小さなシャンデリアたちが、芸術や音楽といったそれぞれのテーマ性を発揮している。
ここではリウも参加者の一員として、パーティーを楽しむこととなっていた。
あまり格式高い場所は慣れていないため、注目されるような紹介は遠慮したいと伝えてある。大々的にリウの功績を讃えるスピーチが用意されていたと聞いた時には、間一髪だったと胸を撫でおろした。
入口で渡されたグラスにチビチビと口をつけながら、リウは主催者である国王夫妻の入場を待っている。
リウは先ほどの式典で着ていた制服から一転、柔らかな水色を基調としたジャケットを身に纏っていた。
リウはお世辞にも華やかな外見ではない。
だが実直で穏やかな性格が顔立ちと立ち姿に現れていて、ラーゴの用意した服はリウの魅力を上手く引き出しているといえよう。
ジャケットの生地はハリがあり艶やかだというのに、驚くほどしなやかで柔らかい。よく見れば布地は細かな花模様が織られていて、その上にさらに繊細な刺繍が施されているという凝った一品だ。
レースで飾られる胸元のタイピンは大きな紫色のカボションで、半円のつるりとしたその石はどこかラーゴの瞳を思わせる。
「よく似合っていますよ、リウ」
「あり、がとう」
リウの隣に立ち、ラーゴは満足そうな顔で褒める。
お世辞だろう言葉にも、なぜかリウの胸は浮足立った。叙勲式で感じた息苦しさは、今はすっかり消え失せている。
ラーゴもリウ同様、普段のマント姿から一転、華やかな盛装だ。
正体を知らなければ、誰もがラーゴを美しい貴族子息だと思うだろう。ただ美しいだけではなく、不思議とそう思わせるだけの雰囲気と立ち振る舞いがある。
ラーゴのエスコートで会場に入った瞬間、周囲は大きくざわついたほどだ。
同性同士でパーティーに伴うということは、既に婚約関係にある場合に限られる。つまりリウがラーゴのパートナーであることはこの時点で知られたわけだが、それでもこの罪作りな男は、先ほどから多くの令嬢から秋波を送られている。
ラーゴの着ている濃紺のジャケットと同色のズボンは、細かい小物が違うせいであまりそうは見えないが、よくよく見ればリウとお揃いだと分かる。
首の詰まったシンプルな襟元には、金色のカメオが輝いていた。真っ白な竜が浮き出るそのカメオは、一見愛国心に溢れる人物のようにも見える。
だがリウにはそれがどこか、竜騎士である自分を指し示されているような気分になって落ち着かない。正解をラーゴに問うわけにもいかず、リウはラーゴをまっすぐに見られないでいた。
突然、大きなラッパの音が響いた。
呪いを身に受けたリウをよく思わない人間は、少なくない。
中央にある絨毯の左右には、様々な感情を抱えた人々が参列していた。
「リウ・パッフ。そなたは命をかけて第二王子ミッシャラ・セデンスを守った。その功績を讃え竜騎士団・副団長を授ける」
威厳に溢れる国王の声が、広い室内に響いた。五十歳になろうかというこの国の主は争いを好まず穏やかな人物で有名だ。
だからこそあの第二の身勝手さは、王妃譲りなのだろうと陰で噂されているほどだ。
「拝命いたします」
リウの言葉に、国王は深く頷き壇上へと戻る。
入れ替わるように宰相が現れ、予定通り記念品の剣と盾を与えられた。
騎士、並びに竜騎士が見守る中、これでリウは副団長となる。
副団長とはいっても、竜騎士団は既に三人の副団長がいる。リウが副団長になったところで、竜騎士団の体制が変わるわけでもない。
これはただの褒章だ。息子の代わりに呪いを受けたリウへの、国王からの詫びのようなものだと、ここにいる誰もが理解している。
恭しく膝をつき、頭を垂れるリウの後ろからまばらな拍手が上がった。
リウは立ち上がり参列者たちに一礼すると、教えられたとおりに赤色の絨毯を歩いて扉へと向かう。
「見ろよあの手。気持ちワル」
歩きながらリウの耳は、小さな男の声を拾った。
誰の声だろうか。竜騎士ではない、騎士団の者かもしれない。
「たかだか呪いで出世できるなら、俺がやりたかったぜ」
「見てるだけでこっちまで呪われそうじゃな」
ヒソヒソと囁く声はとても小さいはずなのに、リウの心臓を的確に突き刺していく。
リウはうつむきそうになる自分を叱責し、まっすぐに正面だけを見た。
誰も彼もが自分を受け入れてくれているわけではないのだ。
呪いを受ける前の自分は、こんなに弱かっただろうか。リウは冷たくなる指先を、小さく握った。
呼吸が浅くなる。
あと少し、もう少しだ。歩け、踏み出せ。
リウは萎縮しかける自分を鼓舞する。
だが、途中で涼やかな声が耳に飛び込んだ。それはとても小さく、だが力強い。
「おめでとうございます、リウ」
リウはハッとして、思わずその声の方向に顔を向けた。
一瞬だけかち合った視線の先には、紫色の瞳があった。
ラーゴだ。
認定魔法使いの彼も、式典から参加してくれたのだ。
視線がかち合ったのは、時間にしたらほんの一瞬だったかもしれない。
だがリウにはそれで十分だった。
リウはすぐに視線を元に戻すと、顎を引き、顔を上げた。
周囲の陰口はもうリウの耳には入らない。力強く床を蹴り、脚を上げて歩く。
左右から開かれる扉をくぐり、リウは改めて会場内へと向き直る。いくつもの視線がリウを見つめる。しかしもう怖くない。
深く頭を下げるリウの動きに合わせて、扉はゆっくりと閉められた。
完全に扉が閉まると、リウは詰めてた息を吐く。
気を抜けば壁にもたれてしまいそうになる。
ラーゴがあそこにいなければ、どうなっていただろうか。
リウにとって彼の存在は日に日に大きくなっていた。
叙勲式後のパーティーは、城内で最も大きいダンスホールで行われることとなっている。
鮮やかな絵画に彩られた天井には、巨大なクリスタルシャンデリアが大輪の花のように輝く。その周囲には華やかな意匠が施された小さなシャンデリアたちが、芸術や音楽といったそれぞれのテーマ性を発揮している。
ここではリウも参加者の一員として、パーティーを楽しむこととなっていた。
あまり格式高い場所は慣れていないため、注目されるような紹介は遠慮したいと伝えてある。大々的にリウの功績を讃えるスピーチが用意されていたと聞いた時には、間一髪だったと胸を撫でおろした。
入口で渡されたグラスにチビチビと口をつけながら、リウは主催者である国王夫妻の入場を待っている。
リウは先ほどの式典で着ていた制服から一転、柔らかな水色を基調としたジャケットを身に纏っていた。
リウはお世辞にも華やかな外見ではない。
だが実直で穏やかな性格が顔立ちと立ち姿に現れていて、ラーゴの用意した服はリウの魅力を上手く引き出しているといえよう。
ジャケットの生地はハリがあり艶やかだというのに、驚くほどしなやかで柔らかい。よく見れば布地は細かな花模様が織られていて、その上にさらに繊細な刺繍が施されているという凝った一品だ。
レースで飾られる胸元のタイピンは大きな紫色のカボションで、半円のつるりとしたその石はどこかラーゴの瞳を思わせる。
「よく似合っていますよ、リウ」
「あり、がとう」
リウの隣に立ち、ラーゴは満足そうな顔で褒める。
お世辞だろう言葉にも、なぜかリウの胸は浮足立った。叙勲式で感じた息苦しさは、今はすっかり消え失せている。
ラーゴもリウ同様、普段のマント姿から一転、華やかな盛装だ。
正体を知らなければ、誰もがラーゴを美しい貴族子息だと思うだろう。ただ美しいだけではなく、不思議とそう思わせるだけの雰囲気と立ち振る舞いがある。
ラーゴのエスコートで会場に入った瞬間、周囲は大きくざわついたほどだ。
同性同士でパーティーに伴うということは、既に婚約関係にある場合に限られる。つまりリウがラーゴのパートナーであることはこの時点で知られたわけだが、それでもこの罪作りな男は、先ほどから多くの令嬢から秋波を送られている。
ラーゴの着ている濃紺のジャケットと同色のズボンは、細かい小物が違うせいであまりそうは見えないが、よくよく見ればリウとお揃いだと分かる。
首の詰まったシンプルな襟元には、金色のカメオが輝いていた。真っ白な竜が浮き出るそのカメオは、一見愛国心に溢れる人物のようにも見える。
だがリウにはそれがどこか、竜騎士である自分を指し示されているような気分になって落ち着かない。正解をラーゴに問うわけにもいかず、リウはラーゴをまっすぐに見られないでいた。
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