呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

文字の大きさ
21 / 44

第六話 夜会と邂逅②

 会場内にいた者は全員、音の鳴る扉に身体を向けた。
「国王陛下、王妃陛下、第二王子殿下、側妃殿下、王女殿下のご入場です!」
 その言葉と同時に開いた扉から、先ほどリウを副団長に任命した国王一家が現れる。
 力強い目をした国王の妻でる王妃は、ツンと澄ました表情と真っ赤な口紅が印象的な美しい人だ。だが王妃の実家を含め、あまりよい噂は聞かない。
 そしてその後ろに続くのは、先日リウの目の前で竜・ショアを殺した第二王子だ。
 顎を上げて機嫌よく歩いていたが、リウの姿を見つけると「フン」と不機嫌そうに顔をしかめた。
 恐らく父である国王に大分絞られたのだろう。
 肩で歩く正妻たちの後ろをしずしずと歩く若い女性は、隣国から嫁いできたばかりの側妃だ。彼女の腕の中にはピンク色のドレスを身に纏った幼い王女の姿がある。
 一家はホール内の定位置へと到着すると、侍従に渡されたグラスを持ち高々と掲げた。
「皆、楽しんでいってくれ。乾杯!」
 言葉少ない口上に、周囲は和やかな歓談ムードへと変わった。
 楽団の奏でる音楽は浮足立つような華やかなものへと変化する。
「俺もなにか食べてこようかな。ラーゴはなにが好きなんだ? 取ってこようか」
「駄目です。言ったでしょう、貴方の食べるものは全て、僕が作りたいと」
「……なるほど、そうだった」
 確かにラーゴと出会ってここ数週間、食べていたものは全てラーゴの手作りばかりだ。すっかりそれも当たり前になってしまって、屋敷の外に出た際も有効な約束だとは思わず肩を落とす。
「美味しそうな肉だな……。あの塔のように盛り付けられた野菜はなんだろう」
 リウが食事テーブルを眺めながら呟く。
 なにせ早朝に軽い食事をとって以降、リウは何も食べていないのだ。
 少々のアルコールが腹に収まったところで、竜騎士として鍛えられた身体は燃費が良すぎてなんの足しにもならない。
「あのゼリー寄せ、見たことない具が入ってるみたいだ。綺麗な盛り付けだなあ」
 あまりに腹が減りすぎたリウの視線は、食事の置かれたテーブルから離すことができないでいた。次々に大皿から取り分けられ消えていく料理を、思わず目で追ってしまう。
 グウウ、とリウの腹が鳴る。
 ラーゴは苦笑した。
「リウ、別室に食事を用意しています。よかったらそれを食べませんか」
「いいのか……!」
「ええ。最初から、パーティーが終わったら食べられるようにと持ってきていたものです。先に言っておけばよかったですね。貴方にひもじい思いをさせたいわけではないのです」
 そんなに飢えたような顔をしていただろうか。涎でも出ていただろうかと思い、リウは自分の口元を手の甲で拭った。
 その手には、ラーゴが用意してくれた柔らかい革手袋が嵌っている。
 呪いのせいで、手足の末端はまるで汚れたように赤黒く、目立つ。先日の街歩きで陰口を叩かれ意気消沈したリウのために、ラーゴがひっそりと用意してくれたのだ。
 そう教えてくれたメイドのメメルは、素晴らしい主だろうと胸を張っていた。
 革手袋を嵌めた手に、ラーゴが触れた。当然のように腕を絡める。
「では行きましょうか」
「う。そう、だな?」
 エスコートされる側というのはどうにも慣れない。だがエスコートする側の経験もさほどない。運よく竜騎士として働いたこの十年間は、本当に竜にばかりかまけて生きていたことを痛感する。
 歩きながらラーゴは小声でリウに問う。
「痛みは大丈夫ですか?」
「ああ。今のところは」
 起きて一度、そしてパーティーが始まる前に一度口づけをしている。
 ラーゴのタイミングがいいのか、最近は痛みを感じることすらなくなっていた。呪われた手足さえ見なければ、以前と変わらない生活ができそうだと錯覚するほどである。
 痛みが強ければ立っていることすらままならない。
 そのため今平気で腹を鳴らしているリウが、平常通りだということはラーゴなら理解しているはずだが。
「なにか心配でもあるのか?」
 ただの人間には分からない、魔法使いだからこそ感じる不調があるのだろうか。
 ラーゴはリウを見ることなく、小さく呟いた。
「いえ。ただ今日の貴方があまりに綺麗だから、別室でキスしたくなっただけです」
 明け透けに語られる言葉に、一瞬でリウの顔は赤く染まる。
 ラーゴとの口づけは、痛みを緩和することが主目的だ。
 当初あった気まずさも今はすっかりなくなり、唇を許しているせいか二人の距離は以前に増して親密なものとなっていた。
 それはリウも自覚している。
 その上当初からラーゴは「一目ぼれした」と告げており、その好意は受け取っているもののこうして真向から気持ちを向けられると、リウはどう対処するのが正解なのかまだ分からないでいた。
 出会ってからの期間はまだ短いものの、ラーゴに対して友人のような親しみを感じている。貴族相当の地位がありながら驕ることはなく、思いやりがあり親切で、メイドにすら優しい。
 外見はもちろんだが、なにより声が良かった。甘さを含む低音は感情をあまり見せないものの、時折どこか焦れたような、掠れた声でリウの名を呼ぶのだ。
 冷静なようで情熱が乗ったその声が、リウは好きだった。
 だがそれは、ラーゴの与えてくれる気持ちと同一のものとはいえないとも感じている。
 そもそもリウは、自分のためにラーゴの好意を利用しているという自覚があるのだ。
 減るものでもない口づけなど好きなだけさせればいいと思う反面、その一線を越えてはまずいと思っていた。
 なにがどうまずいのか、どうしてそう思うのかは分からない。まだリウはそこまで、自分の気持ちを掘り下げてはいない。むしろ掘り下げてはいけない気がしていた。
 返事ができないままで戸惑うリウの背に、ラーゴの肩が触れた。
「冗談ですよ」
 こうやってリウに負担をかけまいと、そんなバレバレの嘘をつくのだから本当に優しい男だと思う。
 気づけば来客用の休憩室へ案内されていた。部屋の前に立つメイドはラーゴを見ると、頭を下げて恭しく扉を開けた。
 室内は貴族にとってはさほど広くないかもしれないが、竜騎士宿舎のリウの部屋ならば三つは入る大きさだ。
 部屋の中央には猫足のローテーブルが置かれ、パーティーに疲れた人間が休むためのゆったりとした長椅子が二つ、一人用の椅子が三つ置かれていた。
 大きな窓の外はまだ明るく、薄いレースカーテンが引かれている。
 置時計が指し示す時間は既に夕方を回っていて、そろそろ日も陰る頃合いだろう。
 どこに座るのが正しいのか一瞬考えているリウの耳に、扉をノックする音が響いた。
「リウは奥に座ってください。預けていた食事を用意してくれたんでしょう」
 指示された場所に腰をおろしていると、メイドが目の前のテーブルへ次々と食器を並べていく。
 温めてくれたのだろうか。スープも煮込んだ肉も、ふんわりと湯気を立てている。
感想 3

あなたにおすすめの小説

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿
BL
夢を追い求める三男坊×無気力なひとりっ子 孤独な幼少期を過ごしていたルイ。虫や花だけが友だちで、同年代とは縁がない。王国の一人っ子として立派になろうと努力を続けた、そんな彼が隣国への「嫁入り」を言いつけられる。理不尽な運命を受けたせいで胸にぽっかりと穴を空けたまま、失意のうちに18歳で故郷を離れることになる。 行き着いた隣国で待っていたのは、まさかの10歳の夫となる王子だった、、、、 8歳差。※性描写は成長してから(およそ35、36話目から)となります

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結·氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~

BL
少年だったルイを庇って呪いを受けた騎士ディオン。 それから年月が経ち、ルイは青年に、ディオンはおっさん騎士になっていた。 魔法を使うと呪いが進むディオン。その呪いを解呪しようと試行錯誤なルイ。 そんなとき、ひょんなことから恋をすれば呪いが解けるのでは、となりルイがディオンに恋をさせようと様々な奇行を始める。 二人は呪いを解くことができるのか、そして二人の関係は―――――― ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?