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第八話 竜と空④
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ガジャラを含め竜というものは、自分が乗せると決めた竜騎士以外にここまで懐くことはない。他の竜に乗っている竜騎士以外ならば受け入れることも多いが、一般人相手では撫でられることを嫌がる竜も多いほどだ。
だから竜への騎乗は竜騎士を伴う必要があるし、知能が高い竜を無碍に扱う人間に容赦しないプライドの高い生き物でもある。
それがラーゴはどうだ。長年ガジャラと信頼を築いてきたリウ同様、いや下手をすればそれ以上の懐きっぷりだった。
「ら、ラーゴ!」
リウは急に不安に襲われ、仮の婚約者の名を呼ぶ。二対の瞳がリウを振り返る。
なにを不安に思ったのかリウ自身分からないながら、胸のざわつきと奇妙な気まずさが残る。
それを誤魔化すように、リウは意識して明るい声を出した。
「あの、よかったら竜に……ガジャラに乗ってみないか」
「いいんですか?」
提案に乗るラーゴにホッとして、リウは「もちろんだ」と頷いた。
リウ不在中は空を飛ぶことが許されなかったガジャラだ。明るい時間であれば、竜騎士の判断で竜の飛行は許可されている。
ラーゴを後ろに乗せて一緒に空を飛ぶのもいいかもしれない。
リウはそう考え、竜舎からガジャラを出そうとその鱗に覆われた顔に触れた。
いや、触れようとした。
――バチン
その瞬間、リウの手とガジャラの間に火花が散ったような痛みが走る。血管を通るかのように、指先から身体の中を衝撃が駆け巡った。
「うぐッ!」
「リウ!」
蹲るリウの身体をラーゴが抱きしめる。
引かない痛みに呻く身体は、気を抜けば意識を持って行かれそうだった。
久しぶりに感じた痛みは、受けた呪いのそれだ。
最近は痛みを感じるより先にラーゴが呪いを散らしてくれるせいで、普段と変わらない生活を送っている。
そのせいか、久しぶりに感じるこの鋭い痛みはあまりに強烈で呼吸すらままならない。
「リウ、顔を上げてください」
覆い被さる男をどうにか見上げると、痛みに滲む視界に紫の瞳が近づいてくる。
リウは無意識に唇を開き、濡れた赤い舌を差し出した。
「ん……んっ」
尖らせた舌を男の唇に吸われると、クチュリと濡れた音がした。
しゃぶるように舌を舐められ、背筋が震える。
そして痛みがほんの少し軽くなった。
「あぅ、もっと……ン」
肩を抱き寄せられ、より深く唇が重なった。
まるで別の生き物のようにぬめる舌に、リウも懸命に応える。
こうして口づけを深くするほど、痛みが楽になることを知っているからだ。男の首に腕を回し、ざらつく舌を必死でしゃぶった。
自然と流れ込む二人分の唾液を嚥下すると、腰の辺りがズクリと疼く。
息が上がり、痛みではないものでリウの身体が震える頃、ラーゴの唇がゆっくりと離れていった。
トロリとしたリウの瞳には、心配そうなラーゴの顔が映る。
「痛みはどうですか?」
「……ん。すまない、楽になった」
ラーゴは地面にへたり込むリウを、当たり前のように抱き上げた。
リウは少しだけ躊躇って、だがおずおずと男の首に腕を回した。こうして運ばれることにももう随分慣れたが、ガジャラの前だと思うと気恥ずかしい。
「どうしてガジャラに触れた途端、痛みがあったのだろうか。まるで呪いが一気に強くなったような感覚だった」
突然襲いかかったあの強い痛みを思い出し、リウの身体はブルリと震える。
リウが普段通りの生活を送れているのは、ひとえにラーゴのおかげだと文字通り痛感させられた。
「……ラーゴ?」
珍しく返事がない。
リウを抱き上げている男を見上げると、その顔色はギョッとするほど白い。
「ど、どうした!?」
慌ててその顔を両手で挟むと、遠くを見ていたラーゴの焦点がゆっくりとリウに合っていく。
「ああ……すみません。少し考え事をしていました。竜に触れると呪いによる痛みが増すということですね?」
「そうだが――本当に大丈夫か? 顔色がよくない」
「平気ですよ。でももしそう見えるなら、リウがキスしてくれたら元気が出ます」
「う」
普段通りのラーゴの軽口に安堵しながら、だが冗談でも自分から口づけをすることは恥ずかしい。リウ自身も、まるで少女のような思想だと思う。
「今日の用事は終わりましたね? 一旦帰って身体を休めましょう」
「いいのか。ラーゴの仕事は――」
「リウが最優先です。こう見えて僕は、割と融通が利く認定魔法使いなので」
「知ってるさ」
歩き出すラーゴの背中越しに、不安げなガジャラの顔が見えた。
痛みは彼女のせいではない。きっとリウの方に問題があったのだ。
だからそんな顔をしないでほしい。
「ごめんな、ガジャラ。また、来るよ」
「グル……」
心配してくれるガジャラに触れることもできない。
リウは久しぶりに、呪われたこの身を悔しく思った。
だから竜への騎乗は竜騎士を伴う必要があるし、知能が高い竜を無碍に扱う人間に容赦しないプライドの高い生き物でもある。
それがラーゴはどうだ。長年ガジャラと信頼を築いてきたリウ同様、いや下手をすればそれ以上の懐きっぷりだった。
「ら、ラーゴ!」
リウは急に不安に襲われ、仮の婚約者の名を呼ぶ。二対の瞳がリウを振り返る。
なにを不安に思ったのかリウ自身分からないながら、胸のざわつきと奇妙な気まずさが残る。
それを誤魔化すように、リウは意識して明るい声を出した。
「あの、よかったら竜に……ガジャラに乗ってみないか」
「いいんですか?」
提案に乗るラーゴにホッとして、リウは「もちろんだ」と頷いた。
リウ不在中は空を飛ぶことが許されなかったガジャラだ。明るい時間であれば、竜騎士の判断で竜の飛行は許可されている。
ラーゴを後ろに乗せて一緒に空を飛ぶのもいいかもしれない。
リウはそう考え、竜舎からガジャラを出そうとその鱗に覆われた顔に触れた。
いや、触れようとした。
――バチン
その瞬間、リウの手とガジャラの間に火花が散ったような痛みが走る。血管を通るかのように、指先から身体の中を衝撃が駆け巡った。
「うぐッ!」
「リウ!」
蹲るリウの身体をラーゴが抱きしめる。
引かない痛みに呻く身体は、気を抜けば意識を持って行かれそうだった。
久しぶりに感じた痛みは、受けた呪いのそれだ。
最近は痛みを感じるより先にラーゴが呪いを散らしてくれるせいで、普段と変わらない生活を送っている。
そのせいか、久しぶりに感じるこの鋭い痛みはあまりに強烈で呼吸すらままならない。
「リウ、顔を上げてください」
覆い被さる男をどうにか見上げると、痛みに滲む視界に紫の瞳が近づいてくる。
リウは無意識に唇を開き、濡れた赤い舌を差し出した。
「ん……んっ」
尖らせた舌を男の唇に吸われると、クチュリと濡れた音がした。
しゃぶるように舌を舐められ、背筋が震える。
そして痛みがほんの少し軽くなった。
「あぅ、もっと……ン」
肩を抱き寄せられ、より深く唇が重なった。
まるで別の生き物のようにぬめる舌に、リウも懸命に応える。
こうして口づけを深くするほど、痛みが楽になることを知っているからだ。男の首に腕を回し、ざらつく舌を必死でしゃぶった。
自然と流れ込む二人分の唾液を嚥下すると、腰の辺りがズクリと疼く。
息が上がり、痛みではないものでリウの身体が震える頃、ラーゴの唇がゆっくりと離れていった。
トロリとしたリウの瞳には、心配そうなラーゴの顔が映る。
「痛みはどうですか?」
「……ん。すまない、楽になった」
ラーゴは地面にへたり込むリウを、当たり前のように抱き上げた。
リウは少しだけ躊躇って、だがおずおずと男の首に腕を回した。こうして運ばれることにももう随分慣れたが、ガジャラの前だと思うと気恥ずかしい。
「どうしてガジャラに触れた途端、痛みがあったのだろうか。まるで呪いが一気に強くなったような感覚だった」
突然襲いかかったあの強い痛みを思い出し、リウの身体はブルリと震える。
リウが普段通りの生活を送れているのは、ひとえにラーゴのおかげだと文字通り痛感させられた。
「……ラーゴ?」
珍しく返事がない。
リウを抱き上げている男を見上げると、その顔色はギョッとするほど白い。
「ど、どうした!?」
慌ててその顔を両手で挟むと、遠くを見ていたラーゴの焦点がゆっくりとリウに合っていく。
「ああ……すみません。少し考え事をしていました。竜に触れると呪いによる痛みが増すということですね?」
「そうだが――本当に大丈夫か? 顔色がよくない」
「平気ですよ。でももしそう見えるなら、リウがキスしてくれたら元気が出ます」
「う」
普段通りのラーゴの軽口に安堵しながら、だが冗談でも自分から口づけをすることは恥ずかしい。リウ自身も、まるで少女のような思想だと思う。
「今日の用事は終わりましたね? 一旦帰って身体を休めましょう」
「いいのか。ラーゴの仕事は――」
「リウが最優先です。こう見えて僕は、割と融通が利く認定魔法使いなので」
「知ってるさ」
歩き出すラーゴの背中越しに、不安げなガジャラの顔が見えた。
痛みは彼女のせいではない。きっとリウの方に問題があったのだ。
だからそんな顔をしないでほしい。
「ごめんな、ガジャラ。また、来るよ」
「グル……」
心配してくれるガジャラに触れることもできない。
リウは久しぶりに、呪われたこの身を悔しく思った。
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