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第九話 疑惑と困惑③
しおりを挟む寝台から起き上がれずにいたリウは、足繁く通うラーゴを観察していた。
確かにメメルの言っていたように、ラーゴは頻繁に外出している様子だった。
朝早くから出かけるものの、数時間おきに自宅へ戻ってくる。
そうしてリウの痛みを取るための口づけを交わし、少し話をして再度出かけるのだ。
その生活の中でもリウが食べている食事はラーゴの作ったものだというのだから、一体いつ寝ているのだろうと心配になる。
最初の頃こそラーゴはリウと共に寝起きしていたはずだが、今は夜中にリウが気付くと隣で寝ているものの、朝起きる頃にはいないのだ。
それをリウは、どこか寂しいと感じてしまう。
だがいい大人だというのに甘ったれてはいけないと、リウは自分を律する。
そうして高かった熱もすっかり下がり、叙勲式から二週間経った。
数日前からは屋敷内を散歩することを許されて、体力も随分元に戻ったように思う。
「今日はコラディルと約束した日だからな……さて」
リウは窓際で腕を上げ、うーんと伸びをした。
昼食は終わり、ラーゴとの口づけはついさっき終わったばかりだ。
普段通りであれば、あとは夕方までラーゴは戻ってこない。
屋敷の采配を取り仕切っているメメルは、夕食までリウの側を離れる。
出かけるならば今だろう。
伸びをした自分の手にふと気がついて、ラーゴが以前用意してくれた革手袋を嵌めた。街にでるのなら、この赤黒い痣は隠した方がいいだろう。
相変わらず屋敷の誰も彼も、リウの痣を気にしない。
僅かに胸が温かくなる。
リウはそっと自室の扉を開けた。それから周囲の様子を伺って外へと繋がる扉を開けた。貴族相当である認定魔法使いの屋敷としては小ぶりなことも幸いし、思いのほかあっさりと塀の外へと出られた。
リウが一人でこうして歩くのは久しぶりだった。
賑やかな商店が立ち並ぶエリアを通りながら、リウは大多数に紛れて歩く。
よく知った街並みが懐かしい。
そうして目的の店には十分もかからず到着した。
扉には準備中の札がかけられている。これは店主が昼営業に乗り気ではない時にこっそり掛けられている札だが、実際は営業しているため問題ない。
それを教えてくれた人間は、扉を開けると中から「よう」と軽い声を上げた。
「コラディル。待たせたか」
中で待っていた男――コラディルの前に腰を下ろし、リウは飲み物と簡単なつまみを注文した。
既にコラディルは一杯飲んでいたようで、机の上には空になった酒杯と空き皿が置かれている。彼の着ている麻のベストには飲み物を零したようなシミが付いていた。
まだ残ったナッツを口に入れながら、コラディルは前置きなしでリウに顔を寄せる。
「そんで、どうだった。なにか分かったか?」
「いや……すまない。先日まで俺が体調を崩していたせいで、なにも調べられてないんだ。今日はとりあえずその報告に来た」
叙勲式の日のコラディルは、リウに会うために竜騎士の制服を拝借してまで王宮に忍び込んできたのだ。
その上、呪いを解消するための偽装婚約だろうとすぐにリウとラーゴの関係を見抜いたコラディルは、今は頭をボリボリと掻きながら「そうかあ」と独りごちる。
「しっかし、まさか手紙すら届かねえとはなあ。お前、あの魔法使いサマに酷いことされてねえか?」
「その節はすまなかった。疲弊していた俺のために良かれと思ってやったらしい。そうだ、お前にこれを渡していいと言われている」
リウはポケットの内側を探り、今日渡そうと持ってきたものを机に置いた。
妖しく光り輝くそれは、先日ラーゴに貰った美しい魔石だ。
コラディルもその輝きに魅入られたのか、食い入るように魔石を凝視した。
「すげえ……こんなにデカい魔石は見たことねえ。これを、俺にだって?」
「ああ。この魔石を持っていれば、ラーゴの屋敷の結界を通れるそうだ。いつでも遊びに来てくれ」
ラーゴの作った魔石を褒められ嬉しくなったリウは、満面の笑みでそう告げる。
だがコラディルの視線は、街の飲み屋の机に不相応に置かれた大ぶりの魔石に釘付けだった。それからゆっくりとリウに視線を移した。
良く見ればコラディルの顔はうっすらと赤みがかっていた。
まだ明るい時間だというのに、既に吐く息が酒臭い。
「あのラーゴ・ラディーンの屋敷に入れる魔石だって? ははっ、そりゃあお前、随分あの天才に気に入られたんだな」
「コラディル?」
「はあ、あの氷像の魔法使いサマがねえ……」
コラディルは魔石を指先でつまみ、光に翳したそれをしげしげと眺める。
言葉の端々にラーゴへのよくない感情が伝わってくるが、なにか勘違いしているのかもしれない。
それはもしかしたら、魔石を渡せば喜んでくれるはずだと期待しすぎていたせいかもしれない。
そもそも年の近い同期ではあるが、そもそも実直なリウとお調子者のコラディルでは性質が違う。そして一方が若くして竜騎士という職を離れた今、二人を繋ぐ共通点がプツリと切れてしまったのかもしれない。
だがリウは椅子に座り直し、改めてコラディルに問いただす。
少なくとも彼が今こうしてここに来てくれたのは、リウを心配してくれただからだ。
「なあコラディル、お前はラーゴのことをどこまで知っている?」
なにかとリウを心配してくれる気持ちはありがたいが、リウはか弱い女性ではなく男だ。今でこそ呪いの影響で体調を崩すものの、元々のリウはそこまでコラディルに心配されるほど弱くはない。
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