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おまけ
第四節 聖女と侍女(前編)
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私は聖女に憧れていました。子供の頃――と言っても、今でも子供のようなものですが、ずっと幼い頃、聖女様が皆の前で説教をされたときがありました。そのとき、遠くからお見かけしたその姿は、もう、言葉に言い表せられないほど神々しく……これが聖女というものなのだと、いたく感激したのです。しかし、私は祈りの力をまったく持っておらず……まして、黒髪のぱっとしない私のような凡人が、聖女の器になれるなどとは到底思えませんでした。
説教が終わると、聖女様は御付きの方とともに、姿を隠されました。
そのとき――私は閃きました。
聖女になれなくても、聖女様のおそばに控え、俗事から解放して差し上げることはできるのではないか――と。大げさですが、これが天啓、というものなのかも知れません。私の生きる道は、ここに決まったのです。
侍女としての修行の日々は、決して平坦なものではありませんでした。お恥ずかしい話、涙を流したことは、一度や二度ではありません……。けれど、私は最年少ながらも、なんとか喰らいついていったのです。
そんな日々が数年続いて……あるとき、聖女様が交代されるとの報せが入りました。それに伴い、侍女の交代もあるとのことでしたが、私より優秀な方がおられるのは良く知っていましたから、きっと自分の出番はないだろうと、さみしく思っていました。実際、次々と先輩方の名前が呼ばれていきます。
「ルゥ・リーズベル」
ですから……自分の名前が呼ばれたときは、本当に嬉しく……感極まってしまい、皆さんに慰めてもらうことになったのでした。あとでお聞きしたところ、新しい聖女様もお若くいらっしゃり、私の一つ上とのこと。歳が近い方が、何かと聖女様も安心であろうということから、私に白羽の矢が立ったのでした。
初めて聖女様――エリス様とお会いしたときは、あの幼き日の思い出が甦ってくるようでした。ああ、この方は、まことの聖女様なのだ……この方になら、すべてを捧げられると、そう思いました。それから、粉骨砕身の心でお世話をしようと、ぐっと意気込んだのです。
「ルゥ」
「は、はい! いかがされましたか、聖女様」
エリス様は、多くを人に頼られない方でした。そのような方に必要としていただけることは、本当に喜びだったのです。
「髪に糸くずが付いています。取ってあげますね」
「は、はい……。お手数おかけします……」
けれど、エリス様は何でも卒なくこなされ、侍女の仕事にも多分に気を遣ってくださり、あげくの果てには、私がお世話をされるという有様でした……。
それに、聖女の勤めは、民が思うほど並大抵のものではありません。エリス様の心身の負担たるや、どれほどのものであるか……。
何とかエリス様のお役に立ちたい。少しでもお気持ちを楽にして差し上げたい。私は考えました。
「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「聖女様の熱心なはたらきぶり、皆認めているところです。王からも、自由に使えるお金を多く頂戴しております。ここは、何か美味しい――」
「あら、そうなのですね。では、そのお金は、すべて孤児院の経営にあててください」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! すぐに手配いたします!」
「? 苦労をかけます」
別の日のこと。
「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「宮殿にこもりっぱなしでは、息も詰まりましょう。たまには、どこかへ羽を伸ばしに出掛ける、というのはどうでしょうか? きっと、お身体にもようございます」
「そう、ですね……。たしかに、ルゥの言う通りです。たまには陽の光を浴びないと、身体に良くありませんね」
「っ! はい! ……ぁの、ですね。僭越ながら、実は私、聖女様にご満足していただける、街のぶらり旅プランを百二十八個ほど考えてきたのです。有名なお菓子屋さんから、歴史ある観光名所、見晴らしの良い丘まで、要所はすべて押さえております。外出の許可に関しては、私が責任持ってお手続きをさせていただきますので何の心配も――」
「ルゥ? 何をしているのです? 庭へ出ますが、あなたは来ないのですか?」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! お供させていただきます!」
「? では行きましょうか」
そのあとも、諦めずに何度も何度もアプローチをかけてみましたが……暖簾に腕押し。一度も上手くいくことはなかったのでした……。
説教が終わると、聖女様は御付きの方とともに、姿を隠されました。
そのとき――私は閃きました。
聖女になれなくても、聖女様のおそばに控え、俗事から解放して差し上げることはできるのではないか――と。大げさですが、これが天啓、というものなのかも知れません。私の生きる道は、ここに決まったのです。
侍女としての修行の日々は、決して平坦なものではありませんでした。お恥ずかしい話、涙を流したことは、一度や二度ではありません……。けれど、私は最年少ながらも、なんとか喰らいついていったのです。
そんな日々が数年続いて……あるとき、聖女様が交代されるとの報せが入りました。それに伴い、侍女の交代もあるとのことでしたが、私より優秀な方がおられるのは良く知っていましたから、きっと自分の出番はないだろうと、さみしく思っていました。実際、次々と先輩方の名前が呼ばれていきます。
「ルゥ・リーズベル」
ですから……自分の名前が呼ばれたときは、本当に嬉しく……感極まってしまい、皆さんに慰めてもらうことになったのでした。あとでお聞きしたところ、新しい聖女様もお若くいらっしゃり、私の一つ上とのこと。歳が近い方が、何かと聖女様も安心であろうということから、私に白羽の矢が立ったのでした。
初めて聖女様――エリス様とお会いしたときは、あの幼き日の思い出が甦ってくるようでした。ああ、この方は、まことの聖女様なのだ……この方になら、すべてを捧げられると、そう思いました。それから、粉骨砕身の心でお世話をしようと、ぐっと意気込んだのです。
「ルゥ」
「は、はい! いかがされましたか、聖女様」
エリス様は、多くを人に頼られない方でした。そのような方に必要としていただけることは、本当に喜びだったのです。
「髪に糸くずが付いています。取ってあげますね」
「は、はい……。お手数おかけします……」
けれど、エリス様は何でも卒なくこなされ、侍女の仕事にも多分に気を遣ってくださり、あげくの果てには、私がお世話をされるという有様でした……。
それに、聖女の勤めは、民が思うほど並大抵のものではありません。エリス様の心身の負担たるや、どれほどのものであるか……。
何とかエリス様のお役に立ちたい。少しでもお気持ちを楽にして差し上げたい。私は考えました。
「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「聖女様の熱心なはたらきぶり、皆認めているところです。王からも、自由に使えるお金を多く頂戴しております。ここは、何か美味しい――」
「あら、そうなのですね。では、そのお金は、すべて孤児院の経営にあててください」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! すぐに手配いたします!」
「? 苦労をかけます」
別の日のこと。
「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「宮殿にこもりっぱなしでは、息も詰まりましょう。たまには、どこかへ羽を伸ばしに出掛ける、というのはどうでしょうか? きっと、お身体にもようございます」
「そう、ですね……。たしかに、ルゥの言う通りです。たまには陽の光を浴びないと、身体に良くありませんね」
「っ! はい! ……ぁの、ですね。僭越ながら、実は私、聖女様にご満足していただける、街のぶらり旅プランを百二十八個ほど考えてきたのです。有名なお菓子屋さんから、歴史ある観光名所、見晴らしの良い丘まで、要所はすべて押さえております。外出の許可に関しては、私が責任持ってお手続きをさせていただきますので何の心配も――」
「ルゥ? 何をしているのです? 庭へ出ますが、あなたは来ないのですか?」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! お供させていただきます!」
「? では行きましょうか」
そのあとも、諦めずに何度も何度もアプローチをかけてみましたが……暖簾に腕押し。一度も上手くいくことはなかったのでした……。
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