15 / 17
おまけ
第五節 聖女と侍女(後編)
私は、一人、馬車にゴトゴトと揺られていました。窓の向こうには、青と緑が広がっています。
あのあと、先輩方とも相談して――聖女様が喜ばれるであろうことを、秘密裏に行うことが決まりました。何だか、少しどきどきします。何か贈り物を用意するときには、こういう気持ちになるのかも知れません。先輩方も協力してくださるとのこと、私はお暇をいただき、こうして長閑な田舎にやって来ているのでした。
「あの、少しお聞きしたいのですが……」
「あらま、見ない顔だねぇ。こんなところにお使いかい?」
「いえ。人を探しているのです」
「あらぁ、しっかりしてるわねぇ。ウチの息子にも見習ってほしいわぁ」
馬車を見送ったあと、道行く方々に声をかけました。こんなこと、侍女としての教育を受けていなければ、絶対にできなかったと思います。恥ずかしいだとか何だとかで、もじもじしていただけでしょう。まして、一人で旅行をするなど、考えられないことでした。その介あってか、夕方前には、目的の場所に無事たどり着くことができたのでした。
「……」
木造りの玄関の前に立ちました。
アポイントは取っていませんでした……。あまりにも無計画だったでしょうか?
トントン、トントン
「ごめんください」
……。
……。
駄目、でしょうか……。もう一度――
「はい、どちらさま?」
「あ……」
そこにおられたのは、エリス様に良く似たお人でした。
「お初にお目にかかります。私、聖女エリス様の侍女を務めさせていただいております、ルゥ・リーズベルと申します」
それから――エリス様のお母様とお父様と、いろんな話をしました。普段の聖女様の御様子、昔の聖女様の御様子、寂しいけれど誇りに思っておられること、私自身のこと……。
夕食を御馳走になったあと、あれよあれよという間に、お泊めさせていただくことになりました。
「まさか、あの子のお友達が訪ねて来てくれるなんてね……。初めてのことよ。本当に嬉しいわ」
「そ、そんな。友達などと、畏れ多いです……」
「ルゥちゃん。エリスのこと、苦手かしら?」
「! そんなことありませんっ! その逆で……本当に、本当にお慕いしております……!」
「そうなのね。だったら……どうか、あの子のお友達になってあげてほしいの。立場のことは、あると思うわ。けれど、心の中では友達と思っていてくれるなら……すごく嬉しいわ。エリスは、きっと、友達がいないでしょうから……」
「は、はい……。分かりました、お母様」
「ごめんなさいね。少し湿っぽくなってしまったかしら」
「いえ……あ、お片付け、お手伝いいたします」
「いいのよ、そんなの。さ、あなたは自分の家と思って、ゆっくり休んでいなさい」
翌朝。私は、たくさんのお野菜と、エリス様への預かり物と、あたたかい言葉をいただき、エリス様の御実家を出たのでした。
――――
数日後の夕方のことです。
エリス様は、書類仕事をなされていました。
「エリス様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「そろそろお夕食の時間でございます。一度、手を休められてはいかがでしょうか」
「そう……。もう、そんな時間なのね。分かりました。食堂に行きましょう」
席に一人座られたエリス様の前に、お料理をお出ししました。
「……?」
いつもとメニューが違うことに、少し驚かれている御様子でした。ですが、食事についてエリス様が文句を言われることは、これまで一度もありませんでした。
エリス様が、スープに口を付けられました。
「……」
そのときでした。
「……うぁ……、ぁ……、うぁあああぁああ! うぁあああぁああんっ!」
「せ、聖女様っ!」
どうしよう……。お母様に教わったようにお作りしたのに……何か、間違ってしまったんだ。エリス様を悲しませてしまった……。エリス様を喜ばせたかったのに……。私は……私は、何をやっているのでしょう……。
「聖女様……ごめ、ごめんなさ……ぁ、ぁあ……うわぁああぁ! ぁあああっ!」
「ちが……違うのぉ! わた、わたし、うぁあぁああ! ぁああぁああっ!」
二人して、わんわん泣いてしまいました。
泣いて、泣いて……ようやく落ち着いた頃、私はこれまでの経緯を包み隠さずお話しました。
「そう、だったのね……。ありがとう、ルゥ」
「エリス様……」
「でも、あなたがこうして、そばにいてくれる。それだけでも、わたしにとっては、とても有り難いことなの。それは、どうか分かっていてね……?」
「はい……、はい……っ」
この件をきっかけにして……エリス様は、侍女の中で私に対してだけ敬語を使うことをやめられました。それだけ、心を寄せていただけていること。それは、凡人の私が唯一自慢できることでした。
あの日夢見た、聖女様のすぐ近く。
そこに今、私はいるのでした――。
あのあと、先輩方とも相談して――聖女様が喜ばれるであろうことを、秘密裏に行うことが決まりました。何だか、少しどきどきします。何か贈り物を用意するときには、こういう気持ちになるのかも知れません。先輩方も協力してくださるとのこと、私はお暇をいただき、こうして長閑な田舎にやって来ているのでした。
「あの、少しお聞きしたいのですが……」
「あらま、見ない顔だねぇ。こんなところにお使いかい?」
「いえ。人を探しているのです」
「あらぁ、しっかりしてるわねぇ。ウチの息子にも見習ってほしいわぁ」
馬車を見送ったあと、道行く方々に声をかけました。こんなこと、侍女としての教育を受けていなければ、絶対にできなかったと思います。恥ずかしいだとか何だとかで、もじもじしていただけでしょう。まして、一人で旅行をするなど、考えられないことでした。その介あってか、夕方前には、目的の場所に無事たどり着くことができたのでした。
「……」
木造りの玄関の前に立ちました。
アポイントは取っていませんでした……。あまりにも無計画だったでしょうか?
トントン、トントン
「ごめんください」
……。
……。
駄目、でしょうか……。もう一度――
「はい、どちらさま?」
「あ……」
そこにおられたのは、エリス様に良く似たお人でした。
「お初にお目にかかります。私、聖女エリス様の侍女を務めさせていただいております、ルゥ・リーズベルと申します」
それから――エリス様のお母様とお父様と、いろんな話をしました。普段の聖女様の御様子、昔の聖女様の御様子、寂しいけれど誇りに思っておられること、私自身のこと……。
夕食を御馳走になったあと、あれよあれよという間に、お泊めさせていただくことになりました。
「まさか、あの子のお友達が訪ねて来てくれるなんてね……。初めてのことよ。本当に嬉しいわ」
「そ、そんな。友達などと、畏れ多いです……」
「ルゥちゃん。エリスのこと、苦手かしら?」
「! そんなことありませんっ! その逆で……本当に、本当にお慕いしております……!」
「そうなのね。だったら……どうか、あの子のお友達になってあげてほしいの。立場のことは、あると思うわ。けれど、心の中では友達と思っていてくれるなら……すごく嬉しいわ。エリスは、きっと、友達がいないでしょうから……」
「は、はい……。分かりました、お母様」
「ごめんなさいね。少し湿っぽくなってしまったかしら」
「いえ……あ、お片付け、お手伝いいたします」
「いいのよ、そんなの。さ、あなたは自分の家と思って、ゆっくり休んでいなさい」
翌朝。私は、たくさんのお野菜と、エリス様への預かり物と、あたたかい言葉をいただき、エリス様の御実家を出たのでした。
――――
数日後の夕方のことです。
エリス様は、書類仕事をなされていました。
「エリス様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「そろそろお夕食の時間でございます。一度、手を休められてはいかがでしょうか」
「そう……。もう、そんな時間なのね。分かりました。食堂に行きましょう」
席に一人座られたエリス様の前に、お料理をお出ししました。
「……?」
いつもとメニューが違うことに、少し驚かれている御様子でした。ですが、食事についてエリス様が文句を言われることは、これまで一度もありませんでした。
エリス様が、スープに口を付けられました。
「……」
そのときでした。
「……うぁ……、ぁ……、うぁあああぁああ! うぁあああぁああんっ!」
「せ、聖女様っ!」
どうしよう……。お母様に教わったようにお作りしたのに……何か、間違ってしまったんだ。エリス様を悲しませてしまった……。エリス様を喜ばせたかったのに……。私は……私は、何をやっているのでしょう……。
「聖女様……ごめ、ごめんなさ……ぁ、ぁあ……うわぁああぁ! ぁあああっ!」
「ちが……違うのぉ! わた、わたし、うぁあぁああ! ぁああぁああっ!」
二人して、わんわん泣いてしまいました。
泣いて、泣いて……ようやく落ち着いた頃、私はこれまでの経緯を包み隠さずお話しました。
「そう、だったのね……。ありがとう、ルゥ」
「エリス様……」
「でも、あなたがこうして、そばにいてくれる。それだけでも、わたしにとっては、とても有り難いことなの。それは、どうか分かっていてね……?」
「はい……、はい……っ」
この件をきっかけにして……エリス様は、侍女の中で私に対してだけ敬語を使うことをやめられました。それだけ、心を寄せていただけていること。それは、凡人の私が唯一自慢できることでした。
あの日夢見た、聖女様のすぐ近く。
そこに今、私はいるのでした――。
あなたにおすすめの小説
殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ
柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」
「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」
濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。
やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う
柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。
大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。
その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。
そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。
……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
結婚式当日に私の婚約者と駆け落ちした妹が、一年後に突然帰ってきました
柚木ゆず
恋愛
「大変な目に遭ってっ、ナルシスから逃げてきたんですっ! お父様お姉様っ、助けてくださいっ!!」
1年前、結婚式当日。当時わたしの婚約者だったナルシス様と駆け落ちをした妹のメレーヌが、突然お屋敷に現れ助けを求めてきました。
ふたりは全てを捨ててもいいから一緒に居たいと思う程に、相思相愛だったはず。
それなのに、大変な目に遭って逃げてくるだなんて……。
わたしが知らないところで、何があったのでしょうか……?
魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」
今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。
しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。
でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。
そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。
((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))
ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。
――魅了されてしまっていた――
そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。
どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね
柚木ゆず
恋愛
※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。
あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。
けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。
そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。