31 / 58
今日もアクアオッジ家は平和です
31 ⑥水揚げされたカニとどでかい不動産
しおりを挟む
ドラゴンたちが目指す先は、アクアオッジ家のタウン・ハウスである。
一定期間社交を行わねばならない関係で、王都に滞在するときの辺境伯一家の別邸ともいえる。
数年前とある侯爵家が、この国では禁止されている人身売買のかどで爵位剥奪となった。
彼らの所有していた邸宅は、土地ごと売りに出された。
昔ながらの名門だったため、土地と邸宅は貴族たちの邸宅が建ち並ぶ一角の中でも、超一等地でやたらと広い。当然のことながら誰もが買えるようなお値段ではなかった。
土地を分割して売ろうかという流れになったとき、王太子殿下が買い手の情報を不動産屋に流した。
優秀な側近の一人、アクアオッジ家の次男レイファ。たびたびホームシックにかかる彼をがっちり掴んで離さないために『それなら社交シーズン中は、家族のほうを王都に呼んじゃえばいいんじゃない?』と策を巡らせたのだ。
当時アクアオッジ家はようやく資金も出来てタウン・ハウスを建てる土地を探していた。
毎年毎年、宿に宿泊ではなかなか疲れも取れないし、宿はシーズンとあって、全員にベッドがいきわたる部屋数を、予約することも叶わない。大家族だから仕方ないのだが──
結果、一つのベッドに二人三人で寝るのは当たり前。
だが皆メリルと一緒のベッドにだけはなりたくない。
なにせ横になって眠るメリルの両手足は、水揚げされたカニのように自由自在に動き回り、一緒に寝る者を打ちのめした(物理的に)。
夜中にそうやって何度も起こされ、時には顔に足が降ってきて鼻血を出した兄姉もいる。末っ子で皆メリルのことは可愛くて仕方ないが、寝る時だけは敵だった。
掛布団までもが奪い去られ、一緒のベッドで身体むき出しで起きた者の心は、翌朝にはいつも折れていた。
一家は、メリルがソルを連れて街に買い物に行った隙に、家族会議を行った。
貴族たちのタウン・ハウスが建ち並ぶ一角はなかなか売地など出ないことを知っていたので、とりあえずどんな狭い土地でもいいから、一人一つのベッドがあれば充分だと、皆の意見が一致する。
……(最優先事項だ)。
そうして(メリル以外の)家族の心が一つになった。
そんな家探しの中、不動産屋がやってくる。
セールストークに、一家は舞い上がった。
『ええもう、それは広い土地でございまして』
ざわざわ……アクアオッジ一家が色めき立つ。
カニ……ではなくメリル(の寝相)から逃れられると知って、家族が同時に、蠢いている手足もなく安らかに眠れる夢を見た。それはなんて素晴らしいんだろう。
「一人一部屋のタウン・ハウスが建てられますかしら。大家族なので使用人部屋を入れて十部屋は欲しいのですけれど。無理でもせめて一人一台のベッドを」
母アドリアナが、目をキラキラさせながら不動産屋に質問する。
きっと想像しているのはこじんまりとしたかわいらしいタウン・ハウスだろう。
『充分その広さはございます。王太子殿下直々のお話ということもございますし、分割する手間と時間と手数料も考慮に入れ、お値段は勉強致しました』
「王太子殿下直々のお話?」
何のことかよく分からなくて、辺境伯ザカリーは首を傾げた。
「左様でございます。今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの、アクアオッジ辺境伯家に相応しいタウン・ハウスを──とのお言葉添えがありまして……」
このあたりでもう少し疑うべきだったのだ。
「なあ、セバスチャン、少し調べてくれないか? 王都のタウン・ハウスの相場が全く分からない」
辺境伯はさすがに大きな金額が動くとあって、へっぴり……ではなく及び腰になっていた。
「確かにそうでございますね……情報屋に調査するよう依頼してみましょう」
セバスチャンも、腰を抜かしそうな金額だったので調査を依頼する。何よりも今のアクアオッジの資産を考えると、ギリギリ払えてしまう金額なのが悩ましいところだったのだ。
その結果調査だと、確かに土地と屋敷の広さからしたら、相場価格よりもかなり抑えられた金額だということが判明した。
不動産屋の『お値段は勉強致しました』は本当だった。
(詐欺ではないようだが……)
後日、支払金を用意した執事長のセバスチャンは、現ナマのインパクトに腰を抜かしかけたが、執事としてのプライドで表情には出さない。
……ただし、こめかみにつつーと浮かんだ冷や汗はぬぐいようがなかった。
現辺境伯ザカリ―にも「この金額でようございますか?」と尋ねたが、今までに買ったこともないが、払える金があるならば大丈夫だろう、ということで契約は成立してしまった。
そうしてワクワクしながら現地に到着したアクアオッジ一家は、買い取った土地を見てあんぐりとする。全員あごが地面に刺さるくらいびっくりした。
さすが貯めていたお金がすっからかんになっただけのことはある。
とんでもなく広い土地と、とんでもなく広く、悪趣味な金ぴか像がこれでもかと乗っかっている屋敷がみんなの目前にあった。
アクアオッジ家は、王都で一番の広さの土地を所有してしまったのだ──
一定期間社交を行わねばならない関係で、王都に滞在するときの辺境伯一家の別邸ともいえる。
数年前とある侯爵家が、この国では禁止されている人身売買のかどで爵位剥奪となった。
彼らの所有していた邸宅は、土地ごと売りに出された。
昔ながらの名門だったため、土地と邸宅は貴族たちの邸宅が建ち並ぶ一角の中でも、超一等地でやたらと広い。当然のことながら誰もが買えるようなお値段ではなかった。
土地を分割して売ろうかという流れになったとき、王太子殿下が買い手の情報を不動産屋に流した。
優秀な側近の一人、アクアオッジ家の次男レイファ。たびたびホームシックにかかる彼をがっちり掴んで離さないために『それなら社交シーズン中は、家族のほうを王都に呼んじゃえばいいんじゃない?』と策を巡らせたのだ。
当時アクアオッジ家はようやく資金も出来てタウン・ハウスを建てる土地を探していた。
毎年毎年、宿に宿泊ではなかなか疲れも取れないし、宿はシーズンとあって、全員にベッドがいきわたる部屋数を、予約することも叶わない。大家族だから仕方ないのだが──
結果、一つのベッドに二人三人で寝るのは当たり前。
だが皆メリルと一緒のベッドにだけはなりたくない。
なにせ横になって眠るメリルの両手足は、水揚げされたカニのように自由自在に動き回り、一緒に寝る者を打ちのめした(物理的に)。
夜中にそうやって何度も起こされ、時には顔に足が降ってきて鼻血を出した兄姉もいる。末っ子で皆メリルのことは可愛くて仕方ないが、寝る時だけは敵だった。
掛布団までもが奪い去られ、一緒のベッドで身体むき出しで起きた者の心は、翌朝にはいつも折れていた。
一家は、メリルがソルを連れて街に買い物に行った隙に、家族会議を行った。
貴族たちのタウン・ハウスが建ち並ぶ一角はなかなか売地など出ないことを知っていたので、とりあえずどんな狭い土地でもいいから、一人一つのベッドがあれば充分だと、皆の意見が一致する。
……(最優先事項だ)。
そうして(メリル以外の)家族の心が一つになった。
そんな家探しの中、不動産屋がやってくる。
セールストークに、一家は舞い上がった。
『ええもう、それは広い土地でございまして』
ざわざわ……アクアオッジ一家が色めき立つ。
カニ……ではなくメリル(の寝相)から逃れられると知って、家族が同時に、蠢いている手足もなく安らかに眠れる夢を見た。それはなんて素晴らしいんだろう。
「一人一部屋のタウン・ハウスが建てられますかしら。大家族なので使用人部屋を入れて十部屋は欲しいのですけれど。無理でもせめて一人一台のベッドを」
母アドリアナが、目をキラキラさせながら不動産屋に質問する。
きっと想像しているのはこじんまりとしたかわいらしいタウン・ハウスだろう。
『充分その広さはございます。王太子殿下直々のお話ということもございますし、分割する手間と時間と手数料も考慮に入れ、お値段は勉強致しました』
「王太子殿下直々のお話?」
何のことかよく分からなくて、辺境伯ザカリーは首を傾げた。
「左様でございます。今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの、アクアオッジ辺境伯家に相応しいタウン・ハウスを──とのお言葉添えがありまして……」
このあたりでもう少し疑うべきだったのだ。
「なあ、セバスチャン、少し調べてくれないか? 王都のタウン・ハウスの相場が全く分からない」
辺境伯はさすがに大きな金額が動くとあって、へっぴり……ではなく及び腰になっていた。
「確かにそうでございますね……情報屋に調査するよう依頼してみましょう」
セバスチャンも、腰を抜かしそうな金額だったので調査を依頼する。何よりも今のアクアオッジの資産を考えると、ギリギリ払えてしまう金額なのが悩ましいところだったのだ。
その結果調査だと、確かに土地と屋敷の広さからしたら、相場価格よりもかなり抑えられた金額だということが判明した。
不動産屋の『お値段は勉強致しました』は本当だった。
(詐欺ではないようだが……)
後日、支払金を用意した執事長のセバスチャンは、現ナマのインパクトに腰を抜かしかけたが、執事としてのプライドで表情には出さない。
……ただし、こめかみにつつーと浮かんだ冷や汗はぬぐいようがなかった。
現辺境伯ザカリ―にも「この金額でようございますか?」と尋ねたが、今までに買ったこともないが、払える金があるならば大丈夫だろう、ということで契約は成立してしまった。
そうしてワクワクしながら現地に到着したアクアオッジ一家は、買い取った土地を見てあんぐりとする。全員あごが地面に刺さるくらいびっくりした。
さすが貯めていたお金がすっからかんになっただけのことはある。
とんでもなく広い土地と、とんでもなく広く、悪趣味な金ぴか像がこれでもかと乗っかっている屋敷がみんなの目前にあった。
アクアオッジ家は、王都で一番の広さの土地を所有してしまったのだ──
61
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~
月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」
猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。
彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。
チート能力? 攻撃魔法?
いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。
「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」
ゴブリン相手に正座で茶を勧め、
戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、
牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。
そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……?
「野暮な振る舞いは許しません」
これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる