32 / 58
今日もアクアオッジ家は平和です
32 ⑦ヘンテコなのは絵かメリルか
しおりを挟む
三体のドラゴンがタウン・ハウスのドラゴン留まりに降り立った。
管理人はすでに今か今かとみんなの到着を待ち構えていた。隣にはおそらく王子の護衛騎士たちだろう。馬から降りて一緒に並んでいる。
きゅう舎の管理人も、鞍を外す手伝いのために下働きの者を数名連れてきていた。
「お待ちしておりました。馬車もこちらに。直ぐにリー商会に向かわれますか?」
「そうしましょ。約束の時間ギリギリだもの」
母がドラゴンにお礼を言ったあとそう言うと、管理人がエスコートして馬車へと案内する。
「かしこまりました」
メリルは王子に手を引かれながらも、何も考えず「わあ、ふかふかの座席~」と馬車に乗り込む。
彼女は気が付いていないが、王子はこういう時の席順まで常に意識し、最善の位置に誘導する。
今回はメリルは母と王子に挟まれた。そのあとウィルフレッド、ソルが乗り込み馬車が出発する。
(よし。今回の座席の配置も最善だ)
王子は内心ほくそ笑む。
護衛騎士たちは各自の馬に乗って馬車と並走していた。
「う~相変わらず遠目から見ても悪趣味な家だよねえ」
メリルが窓から見える館を見て遠慮なく口にする。
「ホントだね。今回上から初めて館を眺めたけど、なんか変な金ぴか像がたくさんくっついてた。しかも像はみんな全裸だし……」
「おええ……ウィルよく見てるね」
そんな二人の様子を見ながら母は言った。
「あらあら。仕方ないわ。取り壊すことも考えたのだけれど、当時は土地と屋敷を買うだけで精いっぱいでね。それでも中に置いてあった物は、商人たちが結構頑張って高値で買い取ってくれたのよ。おかげで外観はともかく、金ぴかの額縁も、変な絵も、謎のキノコ型のランプやシャンデリアも撤去して内装はさっぱりしたじゃない」(それに最優先だった、念願の一人一台のベッド……)
ウィルフレッドが、母の一番言いたかった心の声をしっかりと聞き届けた。
(一人一台のベッドが最高)
「……それってなんだかよく分からない壺とか彫像とか絵画だよね。館に入ったとき、余りの悪趣味さにびっくりしたよなあ」
ソルがきょとんとして会話に加わる。
「謎のキノコ型のランプやシャンデリア、ですか? 最近、昆虫やキノコなどの植物をモチーフにした日用品が評価されていませんでしたか?」
王子も美術を学んだ際に、それらが出てきたことを思い出す。
「確か"新芸術"といって、評価され始めた分野ではなかっただろうか」
アドリアナはそれを聞いて目をぱちくりさせた。
「あらあら。それで室内の品を売った金額が、お値段以上……♪だったのかしら」
「そういえばメリルが何故か気に入ったあの絵画は……」
王子だけは(メリルが好きな絵はどんな絵なんだ? 前衛的な絵画だろうか……)と思ったが、まあ見ていないからそう思っても仕方なくはある。
「あ! あれは、売らないほうがいいって父さまにお願いしたの! だって必死な絵だったし!」
「「必死ー?」」
ありゃ? 母さまとウィルが見事にハモった。何故かメリルは数年前の自領の街で髪と眉毛が全焼した男たちを思い出した。やった張本人はメリルだが。
「仮装したバニー姿の男が何かを指さしながらさかさまにひっくり返っている絵が!?」
ウィルフレッドが呆れてお手上げの仕草になった。
「うん。だってあの努力はすごいよね。さかさまになってるのに涼しい顔してて」
馬車の中に大量の『?』が飛び交った。
絵だよね?
今話してるのは絵の話だよね?
そんな『?』だ。
その時ウィルフレッドは確信した。やっぱりこの家の中で一番ヘンテコなのは絵ではなく、メリルだと。
"バニーってあれだろ? うさぎちゃん♪"
"まあ、そんな風に呼ばれる擬人ウサギみたいだな"
"思うけど、メリルってやっぱり"
"ヒトにしては変よね"
"退屈しなくていいカモ"
"面白いからま、いっか"
何が面白いのか。ぷぅ、と膨れながら大真面目にメリルは思った。
この時、誰かが『絵』についての見解を述べていたら、メリルの発想に皆が納得したかもしれないのだが、運が悪かった。
『"絵"とはどういうものなのか』
メリルが正しく理解出来ていたら、タウン・ハウスが"惨状の館"になり、この時の"バニー男"が本物として現れることもなかったかもしれない──
管理人はすでに今か今かとみんなの到着を待ち構えていた。隣にはおそらく王子の護衛騎士たちだろう。馬から降りて一緒に並んでいる。
きゅう舎の管理人も、鞍を外す手伝いのために下働きの者を数名連れてきていた。
「お待ちしておりました。馬車もこちらに。直ぐにリー商会に向かわれますか?」
「そうしましょ。約束の時間ギリギリだもの」
母がドラゴンにお礼を言ったあとそう言うと、管理人がエスコートして馬車へと案内する。
「かしこまりました」
メリルは王子に手を引かれながらも、何も考えず「わあ、ふかふかの座席~」と馬車に乗り込む。
彼女は気が付いていないが、王子はこういう時の席順まで常に意識し、最善の位置に誘導する。
今回はメリルは母と王子に挟まれた。そのあとウィルフレッド、ソルが乗り込み馬車が出発する。
(よし。今回の座席の配置も最善だ)
王子は内心ほくそ笑む。
護衛騎士たちは各自の馬に乗って馬車と並走していた。
「う~相変わらず遠目から見ても悪趣味な家だよねえ」
メリルが窓から見える館を見て遠慮なく口にする。
「ホントだね。今回上から初めて館を眺めたけど、なんか変な金ぴか像がたくさんくっついてた。しかも像はみんな全裸だし……」
「おええ……ウィルよく見てるね」
そんな二人の様子を見ながら母は言った。
「あらあら。仕方ないわ。取り壊すことも考えたのだけれど、当時は土地と屋敷を買うだけで精いっぱいでね。それでも中に置いてあった物は、商人たちが結構頑張って高値で買い取ってくれたのよ。おかげで外観はともかく、金ぴかの額縁も、変な絵も、謎のキノコ型のランプやシャンデリアも撤去して内装はさっぱりしたじゃない」(それに最優先だった、念願の一人一台のベッド……)
ウィルフレッドが、母の一番言いたかった心の声をしっかりと聞き届けた。
(一人一台のベッドが最高)
「……それってなんだかよく分からない壺とか彫像とか絵画だよね。館に入ったとき、余りの悪趣味さにびっくりしたよなあ」
ソルがきょとんとして会話に加わる。
「謎のキノコ型のランプやシャンデリア、ですか? 最近、昆虫やキノコなどの植物をモチーフにした日用品が評価されていませんでしたか?」
王子も美術を学んだ際に、それらが出てきたことを思い出す。
「確か"新芸術"といって、評価され始めた分野ではなかっただろうか」
アドリアナはそれを聞いて目をぱちくりさせた。
「あらあら。それで室内の品を売った金額が、お値段以上……♪だったのかしら」
「そういえばメリルが何故か気に入ったあの絵画は……」
王子だけは(メリルが好きな絵はどんな絵なんだ? 前衛的な絵画だろうか……)と思ったが、まあ見ていないからそう思っても仕方なくはある。
「あ! あれは、売らないほうがいいって父さまにお願いしたの! だって必死な絵だったし!」
「「必死ー?」」
ありゃ? 母さまとウィルが見事にハモった。何故かメリルは数年前の自領の街で髪と眉毛が全焼した男たちを思い出した。やった張本人はメリルだが。
「仮装したバニー姿の男が何かを指さしながらさかさまにひっくり返っている絵が!?」
ウィルフレッドが呆れてお手上げの仕草になった。
「うん。だってあの努力はすごいよね。さかさまになってるのに涼しい顔してて」
馬車の中に大量の『?』が飛び交った。
絵だよね?
今話してるのは絵の話だよね?
そんな『?』だ。
その時ウィルフレッドは確信した。やっぱりこの家の中で一番ヘンテコなのは絵ではなく、メリルだと。
"バニーってあれだろ? うさぎちゃん♪"
"まあ、そんな風に呼ばれる擬人ウサギみたいだな"
"思うけど、メリルってやっぱり"
"ヒトにしては変よね"
"退屈しなくていいカモ"
"面白いからま、いっか"
何が面白いのか。ぷぅ、と膨れながら大真面目にメリルは思った。
この時、誰かが『絵』についての見解を述べていたら、メリルの発想に皆が納得したかもしれないのだが、運が悪かった。
『"絵"とはどういうものなのか』
メリルが正しく理解出来ていたら、タウン・ハウスが"惨状の館"になり、この時の"バニー男"が本物として現れることもなかったかもしれない──
54
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~
月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」
猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。
彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。
チート能力? 攻撃魔法?
いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。
「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」
ゴブリン相手に正座で茶を勧め、
戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、
牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。
そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……?
「野暮な振る舞いは許しません」
これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる