『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人

文字の大きさ
44 / 58
今日もアクアオッジ家は平和です

44 ⑲バタンキューか生き埋めか

しおりを挟む
「今だ、メリル! あの絵を光魔法で焼き払え!」

 アンドリュー王子の声が響いた。

 今なら王子が真名を支配してるから、敵も弱くなってるんだっけ?
 それならやるしかない!

 目まぐるしい状況に慌てていたメリルだったけれど、王子の言葉で自分がやらなきゃいけないことを正確に把握する。
「やってやる! というかやらないとやられちゃう!」

 戦闘ポーズを取りとてつもない大きさの光の玉を生み出す。神々しい光に照らされるメリルは、ポーズはさておき美しかった。
 
 まるで陽の光そのものに導かれるように、精霊たちが次々に光の玉に集まっていく。

"メリル行け~"

"わたしも手伝う!"

 光の精霊がちょちょいとメリルに向かって指を振る。と、ますます光の玉の光量が増し大きくなる。

 光の玉が、身長どころか天井まで届きそうな、とんでもない大きさになったのを見て、メリルがにかっと笑った。


「見よ、超特大の光玉を! お前なんかに血液チューチューされてたまるもんかぁ……重ねがけの玉を喰らえー!」


 その時、額縁を覆っているひび割れた結界が、パリーン……と音を立てた……



 結界がバリバリと割れ、悪魔の両腕が勢いよく飛び出したのと、ほぼ同時にメリルの放った光の玉が、迎え撃つかのように光の爆発を起こした。

 何も見えなくなるほど光が部屋中に満ちた直後、光の玉が直撃した悪魔の両腕が、蠢く指先から真っ黒く焼け焦げていき、破片となってポロポロと崩れ落ちていく──

 ようやく目を開けていられないほどの光量が収束していくと、光で焼け焦げた悪魔が、裂けた口からぼそぼそと、何かを呟きながら見る間に溶けていった。

"バカな……たかがヒト如きに……"

 悪魔の最後の呟きを、みんなは確かに聞き届ける。

 空っぽの額縁だけが、まるで何事もなかったかのように壁に残ったまま──
 



 
 ……が。

「……なんか熱くない?」

 メリルが灯りを取るため火で燃やしたソファのほうを向くと、火は壁に燃え広がっており、バチバチいいながら壁全体に広がって、そこはもう一面火の壁になっていた。

「げぇっ」
 燃やした張本人が令嬢にあるまじき声を上げる。

「精霊たち、火を消せないかい?」
 ウィルフレッドが精霊たちに頼み込むと、なぜか精霊たちが慌てている。

 精霊ウンディーネが首を傾げている。
"水をかけても勢いが増すばかり"
 
 精霊シルフィードも右往左往している。
"空気を遮断しても別の場所に燃え移っちゃう。いっそ部屋全体の空気を抜いてみる?"
 
 ウィルがブンブンと首を横に振りながら、ぎょっとしたようにシルフィードを凝視した。
 メリルもそれに倣う。風の精霊は勢いなだけの発言が多いから、勢いだけでやる予感がする。絶対やる。
 本当にそれをやられたら、みんなで倒れ伏して遭難する未来しか見えない。

「いや、それだと僕らもバタンキューだ」
 ウィルが焦ってそう言うと、シルフィードがプッと笑った。
"バタンキュー、だって! アハハおもしろ!"

 ウィルの発言だけ聴こえた王子とソルが、目に見えて真っ青になった。
 ろくな提案じゃないことを、すぐに察したんだろう。その通り~♪

 精霊ノームが空中で胡坐をかいて、ウンウン唸っている。
"いっそ、この地下室全部を地中に埋めてみるかのう?"

 ウィルが静かに首を振った。ちょっと諦めが入っている。
「僕たち生き埋めになっちゃうからやめて……」

「いったいどういうことになってるんだ……?」
 王子はそう言うけれど、通訳必要かな?
 今真相究明するのは、そこじゃない気がする。 

 精霊サラマンダーがトカゲ姿のまま、ウィルフレッドの肩に乗ってオロオロしている。
"炎が我の言うことを聞かない"

 ああ、なんかまともな発言に思える。
 って、よくないよ。



 このままじゃ焼け死ぬ。
 精霊たちの力じゃ、この炎は消せないということだけは分かった。
「自力で何とかするって言っても……ごふっ」

「喉、大丈夫?」
「大丈夫、じゃない……イガイガゴロゴロする……」
「煙効果、か……」

(魔法って精霊の力を借りて発動させるから、ウンディーネが"水をかけても勢いが増すばかり"って言ってたのが怖すぎて水は使えないや……)

 細かい調整で魔法を出せないので、ドカンと水をかけたら大惨事になってしまう、かもしれない。
 うーんうーん、やってみないとわかんないかな?
 どうしようかな、と唸っていると、みんなもそれぞれの派生スキルを思い浮かべながら、どうにか応用出来ないか考えているのが分かった。

「じゃあ、熱くて死にそうだし、喉が痛いから、ウンディーネ、僕たちをびしょぬれにしてくれない?」

"分かった!濡らせばいいのね?"

「うん。時間稼ぎだけど、熱くてたまんないから」

 最初にみんなが降りてきた階段が壁ごと焼け落ちて、ドーン! バリバリバリ! と大きな音がした。


 ウンディーネがみんなの頭上に、小さなタライ一杯くらいの大きさで水の塊をプカプカ浮かせて、そのまま落下させた。
 微妙な匙加減の水の量だったけれど一部多かったらしく、水が流れて壁のほうに行き着くと、ごうっと炎の勢いが爆上がりする。

(ひえええ! ウンディーネの言ってたことホントだったんだ!)
「わたしが水魔法で消そうとしなくてよかったぁ……」

 危うくみんなをミナゴロシにするとこだったよ……
 ……まあ、わたしがソファを火だるまにした時点で、そうなってるんだけどね……

「うん。だからメリルじゃなくてウンディーネに頼んだ」
「ウィルフレッドが冷静で本当に良かったと思う」
「メリルお嬢様の力はどちらかというと攻撃寄りですからね」

 ……ソルの気遣いが、こんなに居たたまれなかったことって、これまであった!?
 

 今や天井にも火の手が伸びていて、バラバラと木の破片が落下してるし、煙の量もどんどん増えてきた。
 
 焼け死ぬ前に煙を吸い込んで倒れちゃいそう。
 これはやばすぎる。完全に万事休す、だ。
 


 その時だった。

 アンドリュー王子が何かを思い出したようにハッとすると、額縁のほうに歩きだす。

「あの悪魔、最初に見たときさかさまだったけど何かを指さしていたよね? どこを指していたんだろう……?」
「さかさまになってまで、何を指していたんだろう」
「どうして指していたんだろう」
(必ずあのポーズをするに至った理屈があるはず──)

 人に聞かせるようにじゃなく、まるで自分に言い聞かせるように、次々と疑問を投げかけている。
 考えるのが苦手なメリルには、どの問いもさっぱり分からなかかった。



 だが、解くことを得意な人はいるもので──まさしく王子がそうだった。
「分かった。……予想が正しければ──」
 水を滴らせながら、王子が欠けた円形部分のほうに歩きだす。

「この地下室は、上部を切り取ったような円形構造なのに、左右対称じゃないんだ」
「左側方向には、もう落ちちゃったけど階段があって、人の出入りがそっちなら、床の傷は当然そちらが多いはずだろう?」

 言いながら王子は何かを置く台座に近づくと、台座の裏を覗き込む。

「だけど、ここから右側方向のほうが、床の木の傷が多いんだ……」

「あったあった」

 王子が何かを押したのかカチリ、と音がしたかと思うと横滑りに壁が動いて、ぽっかりと空間が姿を現した。
「この壁の下、床の傷が一番多かったんだ」

 これには全員驚いてしまう。
「なんで分かったの!?」
「答え合わせはあとで! 早く脱出しよう!」
「う、うん!」

 空間の先は上り階段になっていて、幸か不幸か燃え盛る炎が灯り代わりになって、しっかり出口まで見える。

「急げ!」

 うん急ごう。
 階段を下りたときよりずっと機敏ですよ。怖くないし。

 脱出出来ると分かったみんなの逃げ足は速い。


 早く逃げなくちゃ。地下室を飲み込もうとしている炎が、新たな空気を求める前に。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

処理中です...