世界の十字路

時雨青葉

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第2章 失踪

とうとう晴人まで……

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「つっかれたあぁぁーっ」


 叫んだ実は、自室の机の上に突っ伏した。


 あの後精霊たちと学校周辺を調べていたのだが、はっきり言ってあまり調べられなかった。


 何かの拍子にすぐ言い合いを始める精霊たちに辟易して、調査どころではなかったのだ。


「くっそー……あいつら…。もう絶対に呼び出さないからな……」


 うんざりと吐き出し、実は机に大きな地図を広げた。
 各自治体で配っている、この辺りの地図だ。


 実は地図に指をわす。


 精霊たちに会った裏庭を中心として、東の方角。
 そこは、大通りに面する方角だった。


「多分、この辺りで被害が出ているんだろうな……」


 そう考えるなら、被害者が増えるあの異常なスピードも頷ける。
 ここは学校の正面にあたり、生徒が一番出入りするのだから。


「今度は、ここを徹底的に調べるか。」


 とん、と。
 地図を指で叩いて、実は溜め息をついた。


 精霊たちのおかげで大きな手がかりは得られたが、やはり情報が少なすぎる事件だ。
 調べれば調べるほどに、それが身にみる。


 脳裏に、晴人と華奈美の顔がよぎる。


(月宮の奴……どこに行ったんだか。)


 そろそろ、病欠という嘘も苦しくなってきた。


 今日はなんとか止められたが、もし晴人が自分の知らないところで華奈美の家に行けば、そこで嘘がばれてしまう。


 華奈美の影を送り込もうにも、あの魔法は性格や志向性までよく見知った相手でないと、精巧な身代わりを作れないのが難点だ。


 華奈美のことなど、三年ぶりに再会した自分には分からないことが多い。


 華奈美が失踪している事実の発覚を恐れて影を送り込むのは、少しリスキーな話だった。


「なぁに、難しい顔してんのー?」
「ん?」


 ぴょん、と。
 目の前に、幼い顔がドアップで飛び込んできた。


 数秒、その瞳と見つめ合う。


「うわっ、出たっ!」


 椅子から立ち上がり、飛び退く実。


「出たとは失礼ね。せっかく、いい情報を持ってきたのに。」


 頬を膨らませて、精霊は不満げに実を見据みすえる。


「いい情報?」


 胡散臭そうに目を細める実に、精霊は自慢するように笑う。


「例の場所、空気が歪んできてるよ。」
「!?」


 実は、ハッとして携帯電話を見る。


 時刻は、ちょうど六時。
 その時。


 ブーッ、ブーッ


 まるで狙いすましたかのようなタイミングで、携帯電話が震えた。
 携帯電話の画面には、晴人の名前が表示されている。


「―――っ」


 嫌な予感が爆発して、慌てて電話に出る。


「実!!」


 電話口から聞こえたのは、切羽詰まった晴人の声。


「晴人!?」


 実の声にも焦りが混じる。
 晴人は息を切らしながら、必死な様子で声を吹き込む。


「なんか……変な奴らが…っ。それに、ここ……―――うわっ!?」


 どさりと転ぶ音がした。


「は、離せーっ!!」


 晴人の絶叫がほとばしる。
 その後、携帯電話が激しくどこかにぶつかる音がして、電話が切れた。


「おいっ……晴人!!」


 呼びかけても、返ってくるのはツーッ、ツーッという無機質な音だけだ。


「ちっ…」


 舌打ちする実の体から、ゆらりと魔力が噴き出す。
 精霊がとっさにしがみついてきたが、そんなことを気にする余裕はなかった。


 パチリと指を弾くと同時に、実の姿は部屋から消える。


 次元の隙間を縫って、一瞬で学校の校門前に移動。
 大急ぎで校門の中に飛び込んで、実は辺りを見回した。


「うー…。目が回るぅ……」


 ぐったりとする精霊には目もくれず、実はしばらくその場に立ち尽くし、やがて大きく息を吐き出した。


「だめだ。晴人の気配は感じられない……」


 学校の中には晴人の気配はおろか、そのざんすらない。
 異世界への扉は、もう閉じてしまったようだ。


「………っ」


 くしゃりと、苛立たしげに髪を掻き上げる実。


「くそっ……なんで、こんな時間まで学校にいたんだよ!?」


 ここ最近の晴人は、いつも寄り道せずに家に帰っていたはずなのに。
 完全に油断した。


「あの馬鹿!」


 苛立ちながらきびすを返そうとすると、その足が何かを蹴った。
 それは地面を滑るように移動し、植込みの下に入り込む。


「?」


 実は植込みに近寄り、それに手を伸ばした。


「これは……」


 それは、携帯電話だった。
 鮮やかなメタリックブルーの本体に、シンプルなデザインのカバー。


 間違いない。
 晴人の携帯電話だ。


 開きっぱなしの携帯電話は、通話終了の画面を映し出したままだった。


 その画面を切って携帯電話を握り締めた実の目は、自分への苛立ちや怒りやらで苛烈に揺れている。


 ―――とうとう、晴人まで消えてしまった。


「くそっ…」


 きしむほどに奥歯を噛み締める実の横で、校舎の時計がカチリと時を刻んだ。




 その後、晴人が帰ってくるわけもなく、晴人の両親は二日後に警察へ捜索願を提出した。




 晴人の名は一緒に消えた藤本悠という男子生徒と共に、連続失踪事件の新たな被害者として朝のニュースを騒がせることとなる。


 そしてそれと同時に、ずっと病欠とされていた華奈美の所在が不明だということも、白日の下にさらされることになった。


 晴人がいなくなったのならばと、実が隠蔽いんぺい工作をやめた瞬間のことだった。

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