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第4章 その魂の色
……私、楽しいんだ。
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数十分後。
ユエは、パステルの誘いを受けたことをほんの少し後悔していた。
周りには、この前会った人たちが自分を囲むようにして立っている。
(どうしよう……)
ユエは、両手をぎゅっと握る。
探られるような視線の雨に、そろそろ耐えられなくなりそうだ。
実はというと、離れた位置にあるベンチに腰かけて、こっちを見ているだけ。
「子供だけで行っておいでー。」
実の言葉はそれだった。
本当なら、今すぐ実の元に走っていきたい。
でも、そんなことをすれば、またこの間みたいに文句を言われてしまう。
進むも戻るも、ユエにとっては大変な勇気が要ることだった。
「こら!」
そんな声がして、ユエの目の前に立っていた男の子の頭に拳が落とされた。
「いって! 何すんだよー。」
頭を押さえる彼からの非難めいた視線を、パステルはふんと顔を逸らして無視。
その後優しくユエの手を引いた彼女は、ユエを自分の背後にかばった。
「自業自得よ。頑張ってここまで来てくれたユエちゃんをみんなで取り囲むなんて、どんな神経してるのよ。自分だったら嫌でしょ?」
ぴしゃりと言われ、パステルに殴られた男の子だけではなく、他の子供たちも気まずそうに口をつぐんだ。
「ごめんね、ユエちゃん。みんな、ユエちゃんをいじめたいわけじゃないのよ。それだけは分かってね。」
「あ……うん。だい、じょうぶ。」
「お、しゃべった……」
ようやく頭から手を下ろした男の子が、新しい発見をしたかのように呟く。
結果としてその言葉は、またパステルの神経に障ってしまったようだった。
「しゃべるに決まってるでしょ!? まったく、あんたはなんでそう無神経なのよ!」
「いってーよ! なんでまた殴るかな!?」
「あんたが馬鹿だからよ! ユエちゃんに謝りなさい!」
「あたたたたっ。分かった、分かったよ。悪かったな。悪気はなかったんだって。」
「何なの、その謝り方!」
パステルとその男の子はユエ本人には構わず、果てのなさそうな言い争いを続けている。
もう見知った光景なのか、他の子供たちはそれを遠巻きに見るだけだ。
「―――ふふ。」
ふと、ユエの口からそんな声が漏れた。
それに動きを止めたパステルたちは、ユエが小さく笑っていることに気付く。
すると、男の子の表情が変わった。
「お…」
「今、可愛いとか思ったでしょ?」
「なっ!?」
明らかに動揺する男の子を後目に、パステルは後ろから優しくユエを包んだ。
「よかった、笑ってくれて。紹介するわ、こいつはアレンっていうの。私と同い年のくせに、すっごく子供な馬鹿よ。」
「なんだよ、その紹介!」
「あーら、間違ってたー?」
ユエを真ん中に置いて、二人はまた言い争いを始めてしまう。
「もー、痴話喧嘩はいいよー。」
飽き飽きしたと言わんばかりに、周りの子供たちがそう言うと―――
「痴話喧嘩じゃないわよ!」
「痴話喧嘩じゃねぇし!」
パステルとアレンの言葉が見事に重なる。
その後、二人はこれまた同じリズムで互いを見合わせた。
次に聞こえてきたのは、遠くで実が盛大に噴き出す声。
小さな笑い声が空気を揺らす中、二人とも気まずそうに頬を赤らめて黙るしかなくなる。
「……まったく。痴話喧嘩なんて言葉、どこで覚えたのよ。」
ぼそりと呟いたパステルに応えるように、子供たちは皆でとある一点を指差した。
「実――っ!!」
「ぷっ……あっははは!」
叫んだパステルに、実は面白おかしそうに腹を抱えて肩を震わせている。
「ううう……実のばかぁ…。いいわよ、もう。気を取り直して―――」
深呼吸をして、パステルは子供たちを示した。
「紹介の続きしなきゃね。左から、ライヤ、ネネ、テリーよ。この子たちはユエちゃんと年が近いと思うから、仲良くできるんじゃないかな。」
ショートカットの髪がいかにも活発そうな雰囲気を醸すライヤ。
人懐こい笑みを浮かべて小首をかしげるネネ。
無邪気で明るいオーラを振りまくテリー。
そんな三人を目の前にして、ユエは戸惑いの表情を浮かべる。
こんなにたくさんの人を前に、自分はどうすればいいのか。
いくら考えても、対処方法が分からない。
「よし、遊ぼうよ!」
無言の時間が数秒過ぎた頃、不安そうなユエの手をライヤがぐっと引っ張った。
「あっ…」
予期していないその衝撃に、ユエはされるがままに一歩踏み出す。
「一緒に遊んでれば、そのうち慣れるって。ね?」
ライヤはにかっと笑って、そのままユエを引っ張って走り出した。
「ちょっ……待ってよ!」
「ずるーい!」
先手を取られたネネとテリーが、慌ててライヤたちを追いかける。
「へっへーんだ。二人とも遅いよ。捕まえてみなよー。」
「言ったなー。」
テリーが好戦的に笑って、スピードを上げる。
それに伴ってライヤもスピードを上げたが、状況についていけないユエは、足がもつれないようにすることで精一杯。
「ほらほら、早くしないと捕まっちゃう。」
「う、うん!」
初めは、何がなんだか分からなかった。
ただ言われるがままに走って、ライヤと同じ方向に逃げたり、あえて違う方向に逃げたりした。
途中から何故か、ネネまでテリーをからかいながら逃げ始めたりしたけど、みんなそんなことなんか変に思わずに、ただ笑っているだけだった。
何もしていない。
ただ走っているだけ。
なのに―――
(なんだろう、この気持ち……)
地を蹴っているはずなのに、宙を舞っているようにふわふわした気持ち。
疲れさえも、高揚感にさらわれて感じなくなる。
「とう!」
「きゃあっ」
後ろからの衝撃に、柔らかい芝生の上に盛大に転んだ。
「ユエ、つっかまーえた!」
後ろを振り向くと、テリーが明るい笑い声をあげている。
その笑顔は、転んだ時の少しの痛みを簡単に吹き飛ばしてしまう。
なんだか、無性に自分も一緒に笑いたくなった。
(そっか……私、楽しいんだ。)
ふと気付く。
この高揚感も何もかも、楽しいから湧き出てくるものなのだ。
楽しい。
だから―――
「あははっ! 捕まっちゃった。」
自然と笑みが零れて、こんな風に声をあげて笑えるのだ。
「よっしゃ、次は俺が鬼をやってやる。捕まった奴は、公園にいる間は俺のパシリな。」
アレンがうずうずした体を揺らして、屈伸をしたり腕を伸ばしたりする。
「やば! 早く逃げよう、ユエ。」
すくっと立ち上がって、テリーがユエに手を伸ばす。
ずっとどうすればいいのか分からずに戸惑っていた、自分に差し伸ばされる手。
それを、今度はなんの躊躇いもなく握り返した。
「うん!」
その瞬間、何かから解き放たれたような気がした。
ユエは、パステルの誘いを受けたことをほんの少し後悔していた。
周りには、この前会った人たちが自分を囲むようにして立っている。
(どうしよう……)
ユエは、両手をぎゅっと握る。
探られるような視線の雨に、そろそろ耐えられなくなりそうだ。
実はというと、離れた位置にあるベンチに腰かけて、こっちを見ているだけ。
「子供だけで行っておいでー。」
実の言葉はそれだった。
本当なら、今すぐ実の元に走っていきたい。
でも、そんなことをすれば、またこの間みたいに文句を言われてしまう。
進むも戻るも、ユエにとっては大変な勇気が要ることだった。
「こら!」
そんな声がして、ユエの目の前に立っていた男の子の頭に拳が落とされた。
「いって! 何すんだよー。」
頭を押さえる彼からの非難めいた視線を、パステルはふんと顔を逸らして無視。
その後優しくユエの手を引いた彼女は、ユエを自分の背後にかばった。
「自業自得よ。頑張ってここまで来てくれたユエちゃんをみんなで取り囲むなんて、どんな神経してるのよ。自分だったら嫌でしょ?」
ぴしゃりと言われ、パステルに殴られた男の子だけではなく、他の子供たちも気まずそうに口をつぐんだ。
「ごめんね、ユエちゃん。みんな、ユエちゃんをいじめたいわけじゃないのよ。それだけは分かってね。」
「あ……うん。だい、じょうぶ。」
「お、しゃべった……」
ようやく頭から手を下ろした男の子が、新しい発見をしたかのように呟く。
結果としてその言葉は、またパステルの神経に障ってしまったようだった。
「しゃべるに決まってるでしょ!? まったく、あんたはなんでそう無神経なのよ!」
「いってーよ! なんでまた殴るかな!?」
「あんたが馬鹿だからよ! ユエちゃんに謝りなさい!」
「あたたたたっ。分かった、分かったよ。悪かったな。悪気はなかったんだって。」
「何なの、その謝り方!」
パステルとその男の子はユエ本人には構わず、果てのなさそうな言い争いを続けている。
もう見知った光景なのか、他の子供たちはそれを遠巻きに見るだけだ。
「―――ふふ。」
ふと、ユエの口からそんな声が漏れた。
それに動きを止めたパステルたちは、ユエが小さく笑っていることに気付く。
すると、男の子の表情が変わった。
「お…」
「今、可愛いとか思ったでしょ?」
「なっ!?」
明らかに動揺する男の子を後目に、パステルは後ろから優しくユエを包んだ。
「よかった、笑ってくれて。紹介するわ、こいつはアレンっていうの。私と同い年のくせに、すっごく子供な馬鹿よ。」
「なんだよ、その紹介!」
「あーら、間違ってたー?」
ユエを真ん中に置いて、二人はまた言い争いを始めてしまう。
「もー、痴話喧嘩はいいよー。」
飽き飽きしたと言わんばかりに、周りの子供たちがそう言うと―――
「痴話喧嘩じゃないわよ!」
「痴話喧嘩じゃねぇし!」
パステルとアレンの言葉が見事に重なる。
その後、二人はこれまた同じリズムで互いを見合わせた。
次に聞こえてきたのは、遠くで実が盛大に噴き出す声。
小さな笑い声が空気を揺らす中、二人とも気まずそうに頬を赤らめて黙るしかなくなる。
「……まったく。痴話喧嘩なんて言葉、どこで覚えたのよ。」
ぼそりと呟いたパステルに応えるように、子供たちは皆でとある一点を指差した。
「実――っ!!」
「ぷっ……あっははは!」
叫んだパステルに、実は面白おかしそうに腹を抱えて肩を震わせている。
「ううう……実のばかぁ…。いいわよ、もう。気を取り直して―――」
深呼吸をして、パステルは子供たちを示した。
「紹介の続きしなきゃね。左から、ライヤ、ネネ、テリーよ。この子たちはユエちゃんと年が近いと思うから、仲良くできるんじゃないかな。」
ショートカットの髪がいかにも活発そうな雰囲気を醸すライヤ。
人懐こい笑みを浮かべて小首をかしげるネネ。
無邪気で明るいオーラを振りまくテリー。
そんな三人を目の前にして、ユエは戸惑いの表情を浮かべる。
こんなにたくさんの人を前に、自分はどうすればいいのか。
いくら考えても、対処方法が分からない。
「よし、遊ぼうよ!」
無言の時間が数秒過ぎた頃、不安そうなユエの手をライヤがぐっと引っ張った。
「あっ…」
予期していないその衝撃に、ユエはされるがままに一歩踏み出す。
「一緒に遊んでれば、そのうち慣れるって。ね?」
ライヤはにかっと笑って、そのままユエを引っ張って走り出した。
「ちょっ……待ってよ!」
「ずるーい!」
先手を取られたネネとテリーが、慌ててライヤたちを追いかける。
「へっへーんだ。二人とも遅いよ。捕まえてみなよー。」
「言ったなー。」
テリーが好戦的に笑って、スピードを上げる。
それに伴ってライヤもスピードを上げたが、状況についていけないユエは、足がもつれないようにすることで精一杯。
「ほらほら、早くしないと捕まっちゃう。」
「う、うん!」
初めは、何がなんだか分からなかった。
ただ言われるがままに走って、ライヤと同じ方向に逃げたり、あえて違う方向に逃げたりした。
途中から何故か、ネネまでテリーをからかいながら逃げ始めたりしたけど、みんなそんなことなんか変に思わずに、ただ笑っているだけだった。
何もしていない。
ただ走っているだけ。
なのに―――
(なんだろう、この気持ち……)
地を蹴っているはずなのに、宙を舞っているようにふわふわした気持ち。
疲れさえも、高揚感にさらわれて感じなくなる。
「とう!」
「きゃあっ」
後ろからの衝撃に、柔らかい芝生の上に盛大に転んだ。
「ユエ、つっかまーえた!」
後ろを振り向くと、テリーが明るい笑い声をあげている。
その笑顔は、転んだ時の少しの痛みを簡単に吹き飛ばしてしまう。
なんだか、無性に自分も一緒に笑いたくなった。
(そっか……私、楽しいんだ。)
ふと気付く。
この高揚感も何もかも、楽しいから湧き出てくるものなのだ。
楽しい。
だから―――
「あははっ! 捕まっちゃった。」
自然と笑みが零れて、こんな風に声をあげて笑えるのだ。
「よっしゃ、次は俺が鬼をやってやる。捕まった奴は、公園にいる間は俺のパシリな。」
アレンがうずうずした体を揺らして、屈伸をしたり腕を伸ばしたりする。
「やば! 早く逃げよう、ユエ。」
すくっと立ち上がって、テリーがユエに手を伸ばす。
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