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第4章 その魂の色
エーリリテからの提案
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声をあげて笑いながら子供たちと遊び始めたユエを見て、実はほっと安堵の息をついた。
子供だけに打ち解けるのは早いだろうとは思っていたが、それでも多少の不安があったのかもしれない。
こうして笑顔で駆け回るユエを見ることができて、自分でも意外に思うほどほっとしているのが分かる。
「もう心配ないな。ところで……」
実はふと、ベンチの後ろに視線だけを向けた。
「いつまでこそこそしてるの? いい加減、出てきたら?」
溜め息混じりの実の声に反応してか、小さく植木が揺れる。
「……ばれてた?」
木の影から姿を現して、エーリリテは可愛らしい仕草で舌を出してみせた。
そんなエーリリテに、実はもう一度溜め息をつく。
「初めっからね。こそこそするくらいなら、普通に一緒に来ればよかったのに。」
「だ……だって……」
エーリリテは口ごもりながら、実の隣に座った。
「私が傍にいたら、すぐに口を出しちゃうもの。それは、ユエちゃんのためにならないかなって思って……」
「ふーん、分かってるんだ。」
「うるさいわね!」
拗ねたようにそっぽを向いたエーリリテだったが、彼女はユエを見るとすぐにその表情を和らげた。
「楽しそうね。」
ユエはエーリリテの言うとおり、楽しそうな顔で駆けている。
あそこまでの満面の笑顔を見るのは初めてだ。
「ああやって慣れてきたなら、このままずっとここにいてもいいんじゃないかしら。」
エーリリテの口から飛び出したのは、まさかの言葉。
その発言を全く予想していなかった実は、瞠目するしかない。
「え…? 何言って……」
「だって、おかしいじゃない。」
一言端的に告げ、エーリリテは表情を曇らせる。
「実がユエちゃんを見つけたのって、西の森でしょ? もし親とはぐれただけなら、親がここまで捜しに来るのが普通だわ。なのに、ユエちゃんがうちに来てからもう二週間以上経つのよ。実だって、ユエちゃんの身元に関しては何も分かってないんでしょ?」
「それは……」
痛いところを突かれ、言葉に窮する実。
「ほらね。今まで言わないようにしてきたけど、本当はユエちゃんの家を捜すのはやめた方がいいんじゃないのかなって思ってて……」
「………」
何も言えなくなり、実は口を引き結んだ。
さすがに、これだけの時間が流れると、エーリリテも自分と同じ結論に辿り着くか。
「あんたは絶対に自分からこんな相談をしてこないだろうから、私から言ってあげる。ユエちゃんのこと、うちで引き取らない? その方が、ユエちゃんのためじゃないの?」
「いや……その方向で落ち着くなら、俺も幾分か気は楽だけどさ。この先ずっと、エーリリテのとこで面倒見るつもりなの?」
「そのつもりよ。」
エーリリテは、当然といった様子で答えた。
「実はもう、父さんと兄さんには話を通してあるの。」
「はっ…!?」
なんという手際のよさ。
返す言葉もなく、実は口をあんぐりと開けて目をしばたたかせた。
「まあ、父さんが許可してくれたのは、ユエちゃん自身のためってこと以外にも、あんたのためっていう理由もあるでしょうけどね。」
「はい…?」
一体、何故そこで自分が出てくるのか。
理解できないといった顔をする実に、エーリリテはくすりと笑った。
「あんた、ユエちゃんがここにいるなら、絶対に定期的に様子を見に来るでしょ?」
「そりゃあ、もちろん。拾ってきたのは俺だし、放置ってわけにもいかないでしょ。」
考えながらも、そう答える実。
動物を拾ってきたのとは訳が違うのだ。
仮にユエをタリオンで引き取るとなった場合、金銭的なことは全面的に頼るしかないのは事実。
しかし、エーリリテたちが面倒を見てくれるからといって、自分はそれきり関わらないでいいなんて、そんな無責任が通用するかという話。
「だからよ。ユエちゃんがここにいればあんたが絶対に来てくれるから、父さんとしては嬉しいわけ。」
「はあっ!? そんな理由でユエを引き受けることに決めたの!?」
「あら。父さんにとっては大事なことよ。」
エーリリテは実の胸を指差す。
「父さんにとって、あんたは本当に大事な存在なの。初孫だってこともあるけど、父さんはちゃんとあんた個人を見て、あんた個人を大事に想ってるわ。口を開けば、いつもあんたの心配ばかりよ? だから、できるだけここに来てもらって、元気な姿を見たいわけ。」
「う…っ」
「それに、ユエちゃんにとっても悪い話じゃないわ。」
たじろぐ実に畳み掛けるように、エーリリテは語るのをやめない。
「貴族の世間体がある以上、養子縁組は慎重に様子を見るしかないけど、使用人見習いという建前なら住み込みも普通だし、教育を施しても不自然じゃない。いずれは働きに応じた報酬も与えられるでしょうし、独り立ちしたいとなった時に働き口を斡旋することもできるわ。もちろん、ユエちゃん本人の意思はきちんと確認するつもりよ。」
「ううう…っ」
まるでお買い得商品を押し売りされているような気分に陥り、実は何も言えなくなってしまう。
イリヤたちがユエを蔑ろにすることはないと分かっているし、ユエの将来を十分に考えていることが伝わる好条件なのは確か。
しかし、ユエを助けたい気持ちの中に自分を呼び寄せたい下心がある以上、二つ返事でこの待遇を喜べない自分がいる。
とはいえ、下心がある分の責任は取ると言っているようなものだし、そうなると無下にイリヤたちを批判もできない。
いやでも、だからといって人一人の人生を左右しかねない選択を、そう簡単に下していいのかどうか……
「ああもう。よく分かんないや……」
大仰に溜め息をついて頭を掻き回す実に、エーリリテは苦笑を漏らした。
「まったく、素直じゃないわね。」
その言葉に実が意地でも反応しなかったのは、言うまでもない。
子供だけに打ち解けるのは早いだろうとは思っていたが、それでも多少の不安があったのかもしれない。
こうして笑顔で駆け回るユエを見ることができて、自分でも意外に思うほどほっとしているのが分かる。
「もう心配ないな。ところで……」
実はふと、ベンチの後ろに視線だけを向けた。
「いつまでこそこそしてるの? いい加減、出てきたら?」
溜め息混じりの実の声に反応してか、小さく植木が揺れる。
「……ばれてた?」
木の影から姿を現して、エーリリテは可愛らしい仕草で舌を出してみせた。
そんなエーリリテに、実はもう一度溜め息をつく。
「初めっからね。こそこそするくらいなら、普通に一緒に来ればよかったのに。」
「だ……だって……」
エーリリテは口ごもりながら、実の隣に座った。
「私が傍にいたら、すぐに口を出しちゃうもの。それは、ユエちゃんのためにならないかなって思って……」
「ふーん、分かってるんだ。」
「うるさいわね!」
拗ねたようにそっぽを向いたエーリリテだったが、彼女はユエを見るとすぐにその表情を和らげた。
「楽しそうね。」
ユエはエーリリテの言うとおり、楽しそうな顔で駆けている。
あそこまでの満面の笑顔を見るのは初めてだ。
「ああやって慣れてきたなら、このままずっとここにいてもいいんじゃないかしら。」
エーリリテの口から飛び出したのは、まさかの言葉。
その発言を全く予想していなかった実は、瞠目するしかない。
「え…? 何言って……」
「だって、おかしいじゃない。」
一言端的に告げ、エーリリテは表情を曇らせる。
「実がユエちゃんを見つけたのって、西の森でしょ? もし親とはぐれただけなら、親がここまで捜しに来るのが普通だわ。なのに、ユエちゃんがうちに来てからもう二週間以上経つのよ。実だって、ユエちゃんの身元に関しては何も分かってないんでしょ?」
「それは……」
痛いところを突かれ、言葉に窮する実。
「ほらね。今まで言わないようにしてきたけど、本当はユエちゃんの家を捜すのはやめた方がいいんじゃないのかなって思ってて……」
「………」
何も言えなくなり、実は口を引き結んだ。
さすがに、これだけの時間が流れると、エーリリテも自分と同じ結論に辿り着くか。
「あんたは絶対に自分からこんな相談をしてこないだろうから、私から言ってあげる。ユエちゃんのこと、うちで引き取らない? その方が、ユエちゃんのためじゃないの?」
「いや……その方向で落ち着くなら、俺も幾分か気は楽だけどさ。この先ずっと、エーリリテのとこで面倒見るつもりなの?」
「そのつもりよ。」
エーリリテは、当然といった様子で答えた。
「実はもう、父さんと兄さんには話を通してあるの。」
「はっ…!?」
なんという手際のよさ。
返す言葉もなく、実は口をあんぐりと開けて目をしばたたかせた。
「まあ、父さんが許可してくれたのは、ユエちゃん自身のためってこと以外にも、あんたのためっていう理由もあるでしょうけどね。」
「はい…?」
一体、何故そこで自分が出てくるのか。
理解できないといった顔をする実に、エーリリテはくすりと笑った。
「あんた、ユエちゃんがここにいるなら、絶対に定期的に様子を見に来るでしょ?」
「そりゃあ、もちろん。拾ってきたのは俺だし、放置ってわけにもいかないでしょ。」
考えながらも、そう答える実。
動物を拾ってきたのとは訳が違うのだ。
仮にユエをタリオンで引き取るとなった場合、金銭的なことは全面的に頼るしかないのは事実。
しかし、エーリリテたちが面倒を見てくれるからといって、自分はそれきり関わらないでいいなんて、そんな無責任が通用するかという話。
「だからよ。ユエちゃんがここにいればあんたが絶対に来てくれるから、父さんとしては嬉しいわけ。」
「はあっ!? そんな理由でユエを引き受けることに決めたの!?」
「あら。父さんにとっては大事なことよ。」
エーリリテは実の胸を指差す。
「父さんにとって、あんたは本当に大事な存在なの。初孫だってこともあるけど、父さんはちゃんとあんた個人を見て、あんた個人を大事に想ってるわ。口を開けば、いつもあんたの心配ばかりよ? だから、できるだけここに来てもらって、元気な姿を見たいわけ。」
「う…っ」
「それに、ユエちゃんにとっても悪い話じゃないわ。」
たじろぐ実に畳み掛けるように、エーリリテは語るのをやめない。
「貴族の世間体がある以上、養子縁組は慎重に様子を見るしかないけど、使用人見習いという建前なら住み込みも普通だし、教育を施しても不自然じゃない。いずれは働きに応じた報酬も与えられるでしょうし、独り立ちしたいとなった時に働き口を斡旋することもできるわ。もちろん、ユエちゃん本人の意思はきちんと確認するつもりよ。」
「ううう…っ」
まるでお買い得商品を押し売りされているような気分に陥り、実は何も言えなくなってしまう。
イリヤたちがユエを蔑ろにすることはないと分かっているし、ユエの将来を十分に考えていることが伝わる好条件なのは確か。
しかし、ユエを助けたい気持ちの中に自分を呼び寄せたい下心がある以上、二つ返事でこの待遇を喜べない自分がいる。
とはいえ、下心がある分の責任は取ると言っているようなものだし、そうなると無下にイリヤたちを批判もできない。
いやでも、だからといって人一人の人生を左右しかねない選択を、そう簡単に下していいのかどうか……
「ああもう。よく分かんないや……」
大仰に溜め息をついて頭を掻き回す実に、エーリリテは苦笑を漏らした。
「まったく、素直じゃないわね。」
その言葉に実が意地でも反応しなかったのは、言うまでもない。
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