72 / 78
第71話 見知らぬ故郷
しおりを挟む
光の奔流が、俺たちの身体を通り過ぎていく。
浮遊感。そして、全身を包む、温かい風の感触。
俺は固く閉じていた目を開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる、抜けるような青空だった。
土の匂い。草いきれ(注)。そして、肌を撫でる、太陽の光。
俺たちは、森の中に立っていた。
注)草いきれ:夏の草があつくなって、むわっと立ちのぼるにおい。
「…そ、外…」
隣で、雫が呆然と呟く。彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
俺も、同じ気持ちだった。
一ヶ月以上、俺は二ヶ月の間、見ることのなかった本物の太陽。その温かさが心の芯まで染み渡っていくようだ。
俺たちの背後で、光り輝いていた菱形のゲートが、音もなく消滅する。
もう、戻ることはできない。
「さて、まずは・・・おてんとうさま!だあああああああ!うおおおおおお!」
俺は一吠えすると、感傷を振り払うようにパン、と両手を叩いた。
「こほん、問題はここがどこか、だが・・・」
その俺の言葉に、隣にいた爺さんが懐かしそうに目を細めていた。
彼は、自分がリッチとして覚醒する前の記憶を、はっきりと保持しているようだった。
「この森…そして、この太陽の傾き。遠くに見える山脈の形、間違いあるまい」
彼は、一本の骨の指で、森の向こうを指差した。
「この方角じゃ。半日も歩けば、わしが昔住んでお'った街、『アークライト』に着くはずじゃ」
「本当か、爺さん!」
「ああ。わしが眠りについてから、せいぜい数年しか経っておらんはず。街の場所が変わるはずもなかろう」
その、あまりにも頼もしい言葉に、俺と雫の顔に希望が浮かぶ。
道しるべがある。目的地がある。
それだけで、この見知らぬ世界が、少しだけ身近なものに感じられた。
俺たちは、爺さんを先頭に、森の中を進み始めた。
雫は、初めて見る異世界の草花に目を輝かせ、俺は、索敵で周囲の警戒を怠らない。
歩き始めて数時間。
先頭を歩いていた爺さんが、ぴたり、と足を止めた。
「…おかしいのう」
彼は、首を傾げ、周囲の景色を何度も見渡している。
「この辺りには、確かに小川が流れとった。街道があったはずの場所も、ただの獣道になっておるが…まあ、数年もすれば、これくらいは変わるか…」
どこか自分を納得させるように呟いている。
その、爺さんの小さな不安は、杞憂に終わった、かに思えた。
歩き始めてちょうど半日が経った頃。
俺たちの目の前に、それは姿を現した。
森が途切れ、視界が開ける。
そこには、高い城壁に囲まれた、大きな街があった。石畳の道、レンガ造りの家々。間違いなく、文明の光だ。
「おお!あれがアークライトか!」
俺が歓声を上げる。
だが爺さんは、その街を、信じられないものを見るような目で、ただ呆然と見つめていた。
そして、震える声で、呟いた。
「…違う」
「え?」
「あれは…あれは、アークライトではない」
彼の声は、確信に満ちていた。
「わしの知るアークライトは、木造の大きな門と、街の中心に美しい時計塔があったはずじゃ…。あんな、石とレンガで固めたような、無骨な要塞ではなかった…!」
俺たちがたどり着いた街は、確かにそこにあった。
だが、それは、爺さんの記憶の中にある故郷とは、似ても似つかぬ、全く別の貌(かお)をしていた。
「あれは…みたこともない街じゃ…?道を間違えたか?」
俺たちの目の前には、新たな、そして、より大きな謎が、立ちはだかっていた。わ
浮遊感。そして、全身を包む、温かい風の感触。
俺は固く閉じていた目を開けた。
最初に目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる、抜けるような青空だった。
土の匂い。草いきれ(注)。そして、肌を撫でる、太陽の光。
俺たちは、森の中に立っていた。
注)草いきれ:夏の草があつくなって、むわっと立ちのぼるにおい。
「…そ、外…」
隣で、雫が呆然と呟く。彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
俺も、同じ気持ちだった。
一ヶ月以上、俺は二ヶ月の間、見ることのなかった本物の太陽。その温かさが心の芯まで染み渡っていくようだ。
俺たちの背後で、光り輝いていた菱形のゲートが、音もなく消滅する。
もう、戻ることはできない。
「さて、まずは・・・おてんとうさま!だあああああああ!うおおおおおお!」
俺は一吠えすると、感傷を振り払うようにパン、と両手を叩いた。
「こほん、問題はここがどこか、だが・・・」
その俺の言葉に、隣にいた爺さんが懐かしそうに目を細めていた。
彼は、自分がリッチとして覚醒する前の記憶を、はっきりと保持しているようだった。
「この森…そして、この太陽の傾き。遠くに見える山脈の形、間違いあるまい」
彼は、一本の骨の指で、森の向こうを指差した。
「この方角じゃ。半日も歩けば、わしが昔住んでお'った街、『アークライト』に着くはずじゃ」
「本当か、爺さん!」
「ああ。わしが眠りについてから、せいぜい数年しか経っておらんはず。街の場所が変わるはずもなかろう」
その、あまりにも頼もしい言葉に、俺と雫の顔に希望が浮かぶ。
道しるべがある。目的地がある。
それだけで、この見知らぬ世界が、少しだけ身近なものに感じられた。
俺たちは、爺さんを先頭に、森の中を進み始めた。
雫は、初めて見る異世界の草花に目を輝かせ、俺は、索敵で周囲の警戒を怠らない。
歩き始めて数時間。
先頭を歩いていた爺さんが、ぴたり、と足を止めた。
「…おかしいのう」
彼は、首を傾げ、周囲の景色を何度も見渡している。
「この辺りには、確かに小川が流れとった。街道があったはずの場所も、ただの獣道になっておるが…まあ、数年もすれば、これくらいは変わるか…」
どこか自分を納得させるように呟いている。
その、爺さんの小さな不安は、杞憂に終わった、かに思えた。
歩き始めてちょうど半日が経った頃。
俺たちの目の前に、それは姿を現した。
森が途切れ、視界が開ける。
そこには、高い城壁に囲まれた、大きな街があった。石畳の道、レンガ造りの家々。間違いなく、文明の光だ。
「おお!あれがアークライトか!」
俺が歓声を上げる。
だが爺さんは、その街を、信じられないものを見るような目で、ただ呆然と見つめていた。
そして、震える声で、呟いた。
「…違う」
「え?」
「あれは…あれは、アークライトではない」
彼の声は、確信に満ちていた。
「わしの知るアークライトは、木造の大きな門と、街の中心に美しい時計塔があったはずじゃ…。あんな、石とレンガで固めたような、無骨な要塞ではなかった…!」
俺たちがたどり着いた街は、確かにそこにあった。
だが、それは、爺さんの記憶の中にある故郷とは、似ても似つかぬ、全く別の貌(かお)をしていた。
「あれは…みたこともない街じゃ…?道を間違えたか?」
俺たちの目の前には、新たな、そして、より大きな謎が、立ちはだかっていた。わ
8
あなたにおすすめの小説
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。
石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません
俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。
本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。
幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。
そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。
彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。
それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』
今度もまた年上ヒロインです。
セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。
カクヨムにも投稿中です
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる