【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

40:白か黒か(1)

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 その日の夜。
 シャロンは公爵邸のサロンで、暖炉の前で膝を抱えながら3日ぶりに帰宅するアルフレッドを待っていた。

(…何か新しい情報を持ち帰ってきてくれるかも知れない)

 そんな期待感を胸に抱きながら、シャロンは眠気で自然と落ちてくる瞼を擦る。
 それがエミリアの死の真相に役立つかはわからないが、失踪事件に関する情報が多いに越したことはない。

「早く帰ってこないかなぁ…」

 シャロンはゆらゆらと燃える炎を見つめながら、ポツリとつぶやいた。



 そんな彼女を数名のメイドが扉の外から、そっと眺める。

「どうなさったのかしら、奥様」
「きっと3日間も旦那様にお会い出来ていないから寂しいのよ」
「だからこうして遅くまで待っていらっしゃるのね…」
「ああ、なんで健気な」
「小さくなって…なんとお可愛らしい」
「どうせお待ちになるのなら、その間に着飾りたい…」
「タオル地のピンクのワンピースタイプの部屋着を着てほしい」
「いや、ここはサテン生地のシャツタイプの部屋着でしょ」

 夜遅くまで起きて夫の帰りを待つシャロンに色々と妄想が膨らむメイド達。
 そんな彼女達の後ろから、毛布を抱えたシノアがやってきた。そして扉を叩くと、勝ち誇ったような笑みを浮かべて中へと入る。

「…は?羨まし…」
「くそ!夜勤だからって!」
「私が毛布を持って行きたかった!」
「シノアずるい!」

 サロン前の廊下で騒ぐメイド達は背後に忍び寄る執事長の影に気づかない。
 カツカツと規則的な足音は、サロン前の廊下でぴたりと止まる。

「貴女方の本日の業務は終了したはずですが」

 メイド達がその声にぴたりと会話をやめた。
 シーンと静かになった廊下には空調設備の音だけが響く。
 彼女達が恐る恐る振り返ると、笑顔の裏に鬼を隠した執事長セバスチャンがいた。

「セバスチャン様…」
「これは…その…」

 セバスチャンは、ぱんぱんと2回手を叩く。
 次の瞬間、メイド達は「お疲れ様でした」お叫び、光の速さで使用人の部屋へと去って行った。

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