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本編
41:白か黒か(2)
「何をしているのですか?」
何やら騒がしい廊下が気になったシャロンは肩から毛布をかけたまま、ひょっこり顔を出した。
「奥様。旦那様がおかえりです」
「すぐ行きます!」
毛布をシノアに預けると、シャロンは部屋を飛び出した。
赤絨毯の敷かれた階段を駆け降り、エントランスホールへと向かう。
少し息を切らせてそこに到着した彼女の目に映ったのは、少し衣服が乱れ、目の下にクマを作ったアルフレッドの姿だった。
アルフレッドはシャロンを見るなり、大きく両手を広げた。
シャロンは反射的にピタリと階段を駆け降りていた足を止める。
これは飛び込んでこいということだろうか。
数秒迷ったシャロンだが、再び階段を駆け降り彼の胸へと飛び込んだ。
アルフレッドはギューっと腕の中の可愛い後妻を強く抱きしめる。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「…シャロン…大丈夫だから。きっと何かの間違いだから」
耳元でそういうアルフレッドに、シャロンは頭の上に疑問符を飛ばす。
「私が侯爵の身の潔白を証明するから、心配しないでほしい」
(あ、そういえばそうだった)
エミリアの死が不可解すぎてシャロンの頭からは、父のことがすっかりと抜け落ちていた。
「あ、ありがとうござます」
アルフレッドはシャロンが辛い思いをしていると思ったのだろう。
自分のことを探られているとも知らず、優しく抱きしめてくれる彼にシャロンは罪悪感を覚えた。
「ち、父は今どうしていますか?」
居た堪れなくなったシャロンは父の事を話題に出しつつ、自分から体を離す。
アルフレッドは気まずそうにその問いに答えを返した。
「…陛下の容体が芳しくなく、ずっと付き添っていると聞いている。ただ、その姿はヘンリー殿下も私もここ1週間ほど見ていない」
「…そう、ですか」
父が医師として、王を救おうと奮闘しているのなら何の問題もない。
だが、失踪事件への関与が疑われている状況で姿を見せないのは、何かがあると疑いたくなってしまう。
(陛下も関係しているのだろうか)
何を信じれば良いのかわからない。
一度疑えばすべてが怪しく見えるから不思議なものだ。
シャロンはふぅ、小さく息を吐いた。
「せめて父の身柄が確保できれば手っ取り早いのですが…」
事件に関与していようがして無かろうが、ジルフォード侯爵は怪しすぎる。地道に証拠を集めてそれを突きつけるよりも、手っ取り早く尋問できたら良いのに。シャロンはポツリとそう漏らした。
アルフレッドは、父親だろうと容赦なく尋問を求めるシャロンはに顔が引き攣る。
「…容赦ないな」
「その方が無駄がないですからね。お父様もさっと出てきて、知ってる事全部吐けば良いのに」
「出てこれない事情があるのだろう。でもお父君に関してなら、手がかりはある」
「手がかり?」
「ああ。今、君のハディス殿が侯爵からの手紙を分析中らしい」
「手紙を、ですか?」
「君の1番上の兄君に出された手紙だよ。どうやら少し細工がしてがあったらしいんだ」
「細工…」
首を傾げるシャロンに、アルフレッドは丁寧につ説明した。
シャロンの長兄ユアンは、王と共に離宮にこもっている父に近況報告を求める手紙を出していた。
その返事はどれも当たり障りのない文章に『大丈夫だ。心配するな』という文言が付け加えられているだけの内容だった。
だからユアンも特に気にしてはいなかったが、先日誤って手紙に水をかけてしまった際、手紙の文字が微妙に変色した箇所があったらしい。
「きっと侯爵は秘密裏に何かを伝えたかったのだろう。まだ彼の伝えたかった内容はわかっていないが、きっとすぐに解決するさ」
アルフレッドは心配ないよと、シャロンの頭を優しく撫でた。
シャロンは不思議そうにジッとアルフレッドを見つめる。
「…何故そこまで気にかけてくださるのですか?旦那様は父を憎んでいたのではないのですか?」
「それはエミリアのことを言っているのかい?」
「…はい」
過去、父であるジルフォード侯爵は彼の最愛の人の治療を断っている。
少し俯き、申し訳なさそうに顔を歪めるシャロンにアルフレッドは優しく諭した。
「違うよ、シャロン。彼がエミリアの治療を引き受けられなかった事情は知っている。彼は領主として正しいことをした。私は憎んではいないよ」
「旦那様…」
やっぱりいい人だ。シャロンはそう思った。
彼は妻を救ってくれなかった男を恨むことなく、そして今はその男の無実を信じてくれている。
ちょっとナルシストでだいぶ変人だが、間違いなく心根の真っ直ぐな良い人だ。
魔術師失踪事件に関わっているとは思えない。
そもそも、彼の関与が疑われているのは『前妻のエミリアが生きているかもしれないから』という理由だ。
それだけの理由で疑うなんて間違っている。
そう思ったシャロンは翌朝、サイモンへ手紙を出した。
何やら騒がしい廊下が気になったシャロンは肩から毛布をかけたまま、ひょっこり顔を出した。
「奥様。旦那様がおかえりです」
「すぐ行きます!」
毛布をシノアに預けると、シャロンは部屋を飛び出した。
赤絨毯の敷かれた階段を駆け降り、エントランスホールへと向かう。
少し息を切らせてそこに到着した彼女の目に映ったのは、少し衣服が乱れ、目の下にクマを作ったアルフレッドの姿だった。
アルフレッドはシャロンを見るなり、大きく両手を広げた。
シャロンは反射的にピタリと階段を駆け降りていた足を止める。
これは飛び込んでこいということだろうか。
数秒迷ったシャロンだが、再び階段を駆け降り彼の胸へと飛び込んだ。
アルフレッドはギューっと腕の中の可愛い後妻を強く抱きしめる。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「…シャロン…大丈夫だから。きっと何かの間違いだから」
耳元でそういうアルフレッドに、シャロンは頭の上に疑問符を飛ばす。
「私が侯爵の身の潔白を証明するから、心配しないでほしい」
(あ、そういえばそうだった)
エミリアの死が不可解すぎてシャロンの頭からは、父のことがすっかりと抜け落ちていた。
「あ、ありがとうござます」
アルフレッドはシャロンが辛い思いをしていると思ったのだろう。
自分のことを探られているとも知らず、優しく抱きしめてくれる彼にシャロンは罪悪感を覚えた。
「ち、父は今どうしていますか?」
居た堪れなくなったシャロンは父の事を話題に出しつつ、自分から体を離す。
アルフレッドは気まずそうにその問いに答えを返した。
「…陛下の容体が芳しくなく、ずっと付き添っていると聞いている。ただ、その姿はヘンリー殿下も私もここ1週間ほど見ていない」
「…そう、ですか」
父が医師として、王を救おうと奮闘しているのなら何の問題もない。
だが、失踪事件への関与が疑われている状況で姿を見せないのは、何かがあると疑いたくなってしまう。
(陛下も関係しているのだろうか)
何を信じれば良いのかわからない。
一度疑えばすべてが怪しく見えるから不思議なものだ。
シャロンはふぅ、小さく息を吐いた。
「せめて父の身柄が確保できれば手っ取り早いのですが…」
事件に関与していようがして無かろうが、ジルフォード侯爵は怪しすぎる。地道に証拠を集めてそれを突きつけるよりも、手っ取り早く尋問できたら良いのに。シャロンはポツリとそう漏らした。
アルフレッドは、父親だろうと容赦なく尋問を求めるシャロンはに顔が引き攣る。
「…容赦ないな」
「その方が無駄がないですからね。お父様もさっと出てきて、知ってる事全部吐けば良いのに」
「出てこれない事情があるのだろう。でもお父君に関してなら、手がかりはある」
「手がかり?」
「ああ。今、君のハディス殿が侯爵からの手紙を分析中らしい」
「手紙を、ですか?」
「君の1番上の兄君に出された手紙だよ。どうやら少し細工がしてがあったらしいんだ」
「細工…」
首を傾げるシャロンに、アルフレッドは丁寧につ説明した。
シャロンの長兄ユアンは、王と共に離宮にこもっている父に近況報告を求める手紙を出していた。
その返事はどれも当たり障りのない文章に『大丈夫だ。心配するな』という文言が付け加えられているだけの内容だった。
だからユアンも特に気にしてはいなかったが、先日誤って手紙に水をかけてしまった際、手紙の文字が微妙に変色した箇所があったらしい。
「きっと侯爵は秘密裏に何かを伝えたかったのだろう。まだ彼の伝えたかった内容はわかっていないが、きっとすぐに解決するさ」
アルフレッドは心配ないよと、シャロンの頭を優しく撫でた。
シャロンは不思議そうにジッとアルフレッドを見つめる。
「…何故そこまで気にかけてくださるのですか?旦那様は父を憎んでいたのではないのですか?」
「それはエミリアのことを言っているのかい?」
「…はい」
過去、父であるジルフォード侯爵は彼の最愛の人の治療を断っている。
少し俯き、申し訳なさそうに顔を歪めるシャロンにアルフレッドは優しく諭した。
「違うよ、シャロン。彼がエミリアの治療を引き受けられなかった事情は知っている。彼は領主として正しいことをした。私は憎んではいないよ」
「旦那様…」
やっぱりいい人だ。シャロンはそう思った。
彼は妻を救ってくれなかった男を恨むことなく、そして今はその男の無実を信じてくれている。
ちょっとナルシストでだいぶ変人だが、間違いなく心根の真っ直ぐな良い人だ。
魔術師失踪事件に関わっているとは思えない。
そもそも、彼の関与が疑われているのは『前妻のエミリアが生きているかもしれないから』という理由だ。
それだけの理由で疑うなんて間違っている。
そう思ったシャロンは翌朝、サイモンへ手紙を出した。
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